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05 【森のグルメ】パーティは……

 Cランクパーティ【森のグルメ】。

 ステータスを上昇させる【種】の効果により、各々がカンストステータスを持つようになった私たちは、さらなる躍進を遂げる……はずだった。


「……これより今日の種分配を始める」


 リーダーであるマスルが不機嫌を隠さずに告げる。そして野営地に集まってくる皆の面持ちも暗い。


「まずレングス、収穫はどうだった」


「い、いやあ、申し訳ないじゃん……実はさっぱりで……」


「なに? 少しも取れなかったのか!? クソ、ならアギリはどうだ!」


「え!? う、うーん、私もうまくいかなかったのよねえ」


「【盗賊】のお前がか!? どうなってんだ!? サボってたんじゃねえだろうな!?」


「し、失礼ね! サボってなんかいないわよ! そういうマスルはどうなの!?」


 アギリのカウンターにマスルがたじろぐ。

 さっきまで息巻いていたくせに、いきなり目を泳がせ始める。


「お、俺はその……素早さカンストの【盗賊】でダメだったんだ、俺に収穫があったわけないだろ!?」


「じゃ、じゃあナーレはどうじゃん? 知力がカンストしたお前ならいいアイデアが――」


 やっぱり私に矛先が向いたか。私はため息を付き、わざとらしくお手上げのポーズをとる。

 はあ、バカバカしい。


「残念。収穫ゼロ」


 野営地に深い沈黙がおりる。


 もちろん皆の発言は嘘っぱちだろう。

 昨日まで普通に【種】は集まっていたのに、今日になって皆無なんてありえない。


 動機は明らかだった。皆、自分の取り分を共有したくないのだ。

 なぜなら、もうインゼンがいないから。


 死にステの精神力の種。インゼンは文句も言わずにその担当を引き受けてきた。

 彼がいないのなら、死にステ担当はもちろん別の誰かになる。


 ようするに皆、次の死にステ担当になるのを恐れている。

 普通はそうなのだ。インゼンのように、自分の不利益を飲み込める者は少ない。

 人間とは本来、これくらいには醜い存在だ。


「……ッチ。もういい、飯にするぞ」


 マスルが宣言する。が、私たちは顔を見合わせる。


「飯って……誰が用意したんじゃん?」


「冗談! 私はしてないわよ」


「私も……」


「なに!? どうなってる!? じゃあ今まで誰が飯を用意してたんだ!?」


 そんなの決まってるだろう、という皆の顔。


「そりゃまあ……インゼンじゃん? ていうか野営地の仕事は全部あいつに任せっきりだったかも……」


「だがその分俺たちは種を集めた! 仕事を暇なやつに割り振るのは当然だろうが!」


 それは嘘だ。私は口を挟まずにはいられない。


「いいえ、インゼンもノルマはしっかりこなしてた。確かに【魔術師】の雑魚殲滅力も、【盗賊】の盗み技術もないけど、彼は疲れ知らずだった。誰よりも早く仕事を初めて、誰よりも最後まで仕事をしていた」


 しかもその間に野営地の仕事をこなしながら、だ。


「それに考えてみれば、集めた種を真っ先に分配に差し出すのは、いつも彼だったわ」


「そうえいばそうじゃん……」


「だったかもねえ……」


 どうせ自分の取り分じゃなくなるのに、彼は真っ先に自分の収穫を差し出した。

 だからこそ、皆も素直に収穫を差し出してきたのだ。

 もし彼がいなければ、とっくに今のような状態になっていたかもしれない。


「ま、そのインゼンはあなたたちが追放しちゃったんだけど」


 つまるところ、インゼンは自分のためだけに行動してはいなかった。

 誰かのため、仲間のために行動できる人間だったのだ。


 そういう人材を追放したマスル達の決定は、愚かすぎると言うほかない。


「……なんだてめえら、今更インゼンインゼンと! 追放にはてめえらも賛成しただろうが! 俺のせいだけにするんじゃねえ!」


 マスルの言葉は正しい。正しいが、この場の雰囲気はいっそう悪くなった。

 もし彼がリーダーとして自分の責任を認めていれば、あるいは違っていただろうに。


「ねえマスル、あなた気がついてる? このままだと【森のグルメ】は空中分解するわ。遠くない未来にね」


 別に私としてはそれでも構わない。

 が、カンストした私の知力が告げていた。

 今【森のグルメ】を抜ければ、たぶんインゼンには二度と会えないだろうと。

 それは困るな。


「……クソ。んなこたあ言われるまでもなくわかってんだよ。だったらそうしろって言うんだ!?」


「さあ。でも一つ確かなことは、あなたはリーダーとして誤った決定をした。インゼンを追放するという決定をね。これを挽回するためには、正しい決断もできることを示すしかないように思うけど」


 マスルが唸る。


 はっきり言って私はマスルが嫌いだった。率先してインゼンを痛めつけていたし、なにより筋肉バカだ。

 その嫌いな奴が悩んでいるというのは、まあ思っていたよりは気分がよかった。


「クソ、クソクソ! インゼンめ、いなくなってからも迷惑をかけやがって! しかたねえ、てめえら! 種集めは今日で切り上げる!」


「切り上げるって……じゃあ何するんじゃん!?」


「そうよ! 種を狙うからこその【森のグルメ】! 今更ほかに何しようっていうの!?」


 いや、種集めは強くなるための手段に過ぎない気がするが。

 どうも皆の中で手段と目的が入れ替わっているらしい。典型的な失敗する人間たちのパターンだ。


「まあ待て。種は引き続き狙う。だが今のままじゃダメだ。なぜか収穫がゼロになっちまったからな。だから誤魔化せないような貴重な種を狙うことにする」


「それってつまり、【魔力の種】じゃん……?」


 マスルは頷く。

 なるほど、力を合わせて魔力の種を手に入れればパーティの団結は深まる。

 筋肉バカにしてはいい考えだった。


 しかし、私のカンスト知力がまたもや告げていた。

 このマスルの決断こそ、【森のグルメ】の不幸と苦難の始まりになるだろうということを……。

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