アルの先生
ブクマありがとうございます!
「「「行ってきます」」」
「はい、行ってらっしゃい」
カペラに戻ってきた翌日、アルたちは以前と変わらず三人で仕事へと向かう。リタは基本的には留守番、主に食材の買い出しや夕食作りなど、家事全般を担当してくれることになった。
いつものようにシルを真ん中にして仲良く並んで手を繋ぎ、三人はギルドへの道を歩いていく。
「そう言えばアルさんは何か依頼があるんでしたよね?」
「ああ、内容についてはまだ受けるかわからないから教えてもらえなかったが……」
「何か心配事でもあるんですか?」
歯切れの悪いアルにセアラが疑問を投げ掛ける。
「いや、ただの勘なんだ。何となく面倒なことになりそうな気がしてな」
「パパの勘は当たるの?」
「厄介なことに悪い方はよく当たるな……」
嘆息しながら答えるアルに二人は少しだけ不安な気持ちになるが、間もなくギルドに到着してしまい、アルとセアラたちはそこで別れる。
「あー、アルさーん!お帰りなさいー。お待ちしておりましたよー」
入り口から入ってきたアルを見つけると、すかさずナディアが声をかけてくる。アルの来る時間はセアラとシルの出勤時間に合わせているので、待ち構えていた格好だ。
「ああ、ただいま。それで俺を指名した依頼っていうのは?」
「そんなに焦らなくてもー、もう少し久しぶりの私との会話をー、楽しんでもいいと思いますけどー?」
「そういうのはいらない」
にべもないその態度にナディアは抗議の目を向けるが、アルは全く意に介さない。ナディアとしても言い寄っているつもりではないが、全く相手にされないのはさすがに面白くない。
「相変わらずつれないですねー、これでも人気受付嬢なんですけどー。まあいいですー、もうすぐ依頼者が来ると思いますよー」
「依頼者が直接来るのか?」
「ええー、そうですよー。なぜかアルさんのことをー、ユウって呼んでましたけどー」
アルは困惑の表情を浮かべる。昔の自分を知っている者が来ているとなれば、面倒事の予感しかしなかった。やはり悪い予感は当たるものだと思っていると、ギルドの入り口が開かれてそちらに視線を移す。
「見つけたぁーーー!」
「……ドロシー先生」
入り口に立つのは白い魔導師のローブを身にまとい、金髪のツインテールを両肩の前に垂らした、金色の瞳が美しい女性。アルのかつての魔法の恩師ドロシーだった。
アルは視線の先にその姿を確認すると、複雑な表情を浮かべる。ドロシーはそんなアルの態度を気にも留めずに、ズカズカと近寄ると大声で捲し立てる。
「なぁんでソルエールに来ないのよ!?私は言ったわよね?魔王討伐が終わったら必ず!すぐに来るようにって!あなたも約束したでしょ!?」
「いや、確かに先生はそう言っていましたが、俺は約束した覚えはないですよ?」
「え?そうだっけ?」
「ええ、そうです」
「……まあどっちでもいいわ、じゃあソルエールに行くわよ。護衛任務、それが私の依頼だから」
全く悪びれる様子のないドロシーに、アルは深い溜め息をつく。
「……その自分に都合よく改変する癖、相変わらず変わりませんね。護衛だけなら構いませんが、ソルエールに行って何をするんですか?」
「決まっているでしょ?私と結婚してもらうわ」
案の定の回答に、再びアルが深い溜め息をつく。
「無理です」
「なんでよ!?」
「もう結婚していますので」
「は?」
「ですから、私はもう結婚しております。妻は彼女一人で十分です。他の女性を娶るつもりはありません」
アルの言葉にドロシーの顔がみるみる曇り、大声で泣き出す。
「なんでよーー、結婚してくれるって言ったじゃないーー」
「言ってませんが。あと困ったら泣くふりをするのやめてもらえませんか?周りに迷惑ですよ」
「ちっ」
「い、今のはー、嘘泣きなんですかー?」
アルに通じないと分かるや否や、ドロシーが一瞬で泣き止む。実際涙も魔法で偽装していただけで、流れてなどいなかったのだが、その場にいたアル以外は全員が騙されていた。
「それで?もちろん結婚相手に会わせてくれるんでしょうね?」
「もちろん嫌です」
「なんで?」
「むしろなんで会わせると思ったんですか?」
「だってあなたに相応しいかどうか私が見てあげないといけないでしょ!?まあ有り得ない話だけど、私より美人で魔法が上手い人なら認めてあげても構わないけどね?とにかく会わない限り私は帰らないからね!」
(なんで先生に認めてもらわないといけないんですか、そもそも自己評価高過ぎるでしょう……厄介な……)
アルは困惑の表情を更に深めて小声でドロシーに文句を言う。ドロシーの口振りからすると、セアラに会わせないという選択肢は取れそうになかった。
そして現状ではセアラは未だ魔法を扱えない。昼は解体場の仕事があるので、今日の夜から少しずつ練習を始めるつもりだった。ちなみに美人かどうかは、アルの基準では間違いなくセアラの方が美人なので心配しない。
「というわけで会いに行くわよ!さあ、早く案内して!」
「はぁ……本当に行くんですか?」
「当たり前じゃない!」
「行ってらっしゃーい」
厄介な客が帰ってくれたと言わんばかりに、満面の笑みを浮かべて手を振るナディア。それをアルは苦々しく見て、ドロシーの後をついていく。
ちょっと短くてすみません……
新キャラ、ドロシーの登場です
重くなりがちな今章のムードメーカー的な感じですね