親子の絆
いつもありがとうございます!
ブクマと評価もありがとうございます!
「ねえお母さん、なんでこんな料理知ってるの?」
セアラが不思議そうにリタに問いかける。それもそのはず、リタが作っているのはしょうが焼きと豚汁、そして極めつけは白米だ。
リタは自身の収納空間から様々な食材を取り出して、和食を作っていた。
「私が里を出て初めてしばらく暮らしたのが、一番近くのラズニエ王国だったからね。アル君のいた国って初代国王の国なんでしょ?あそこの王都に行けば、こういう食材や調理器具はたくさんあるわよ」
「そっか。今回は行けなかったから、また行きたいな。元の世界の料理が食べられるなら、アルさんも喜ぶだろうし」
「そうね、あの国は転移者が作っただけあって差別意識も薄いし、暮らしやすいところではあるわよ。まあそれでもエルフは見なかったけどね」
「お母さんはソルエールには行ったことあるの?」
「ええ、もちろん。あそこのトップは、今も変わっていなければエルフだったと思うけど」
リタの言葉を聞いたセアラの脳裏に、一人の女性の姿が思い浮かぶ。
「もしかして……クラウディアさんっていう人?」
「よく知ってるわね?そうよ、私が知ってた頃と変わっていなければ彼女が今もトップのはず。私とクラウディアは一緒に里を出たんだけど、彼女はソルエールが気に入って定住しちゃったのよね。でも私はまだまだ他の国も見てみたかったから、そこで別れたの。元気にしているのかしら?」
「え!?私、泊まった宿で会ったよ?ソルエールに来てねって言われた」
思いがけない二人の繋がりにセアラは驚く。リタの口振りからは、二人はかなり親密だったと窺える。
「へー、そうなの……相変わらず好き勝手やってるみたいね。きっとクラウディアもセアラがハイエルフだって気付いたんでしょうね。一度ソルエールに来てもらって、あわよくば定住してもらおうってことかしら?」
「でも私はここを離れたくないな。仕事もあるし、友達もいるし。アルさんとシルとの思い出も一杯あるから……」
「そんな心配する必要ないわよ。彼女なりにあなたの身を心配しているから、そういうことを言っただけだと思うわ」
リタのこの推測は正しく、クラウディアは無理強いをするつもりは全く無かった。単にセアラに一つの選択肢を提示したかったに過ぎない。逆に言えば、それだけ普通の国でエルフであるということが露見することは、危険であるという意味を内包している。
「そっか……でもせっかくそう言ってもらっているなら、一度くらいは顔を出した方がいいよね。お母さんもクラウディアさんに久しぶりに会いたいでしょ?」
「うーん……正直に言うと、喧嘩別れみたいな感じになっちゃったから気まずいんだけど……」
料理の手を動かしながら渋面を作るリタに、セアラは嘆息する。
「もう!そんな子供みたいなこと言ってないで、会いに行けばいいじゃない」
「そうねぇ、かれこれ五十年以上は経ってるし、いい加減時効かしらね」
「呆れた、そんなに経ってるのに気まずいとか言ってるの?」
「はいはい、分かりましたよ。それならセアラの魔法の習得が終わったら行こうかしらね」
やがて食事の準備が終わる頃に、アルとシルが風呂から上がる。
「うわぁ、いいにおいがする!」
「これって……」
シルはリビングに入るなり、漂うしょうが焼きの香りに鼻をひくひくとさせ、アルは食卓に並ぶ懐かしい料理を見て目を丸くする。
「今日はアル君の故郷の味にしてみました」
リタがおどけるように言うと、セアラがラズニエ王国で食材の調達が出来ることを説明する。
「そうか、ラズニエ王国で……それはまた行かないといけないな」
「さあ、冷めちゃうから早く食べましょ」
リタに促されるまま四人が席につき、食事を始める。ちなみに席はアルの横にシル、正面にセアラ、対角にリタという並びだ。
そしてアルはその再現度に思わず感嘆の声を漏らす。
「すごい……ほとんど元の世界で食べていたままですね」
「そう?それは良かったわ、セアラにもしっかりと仕込んでおかないとね」
「アルさん、私も頑張って覚えますからね」
アルが喜んでくれるのであれば、セアラがやる気にならないわけがない。
「ああ、でも俺も一緒に作るよ。食材や調理法も少しは違うだろうしな」
「はい、じゃあ一緒に作りましょう」
ニコニコとした笑顔を浮かべるセアラと、頬を少し緩めるアル。会話の内容からしても、決して甘い雰囲気というわけではないはずなのだが、リタは二人の間に流れる空気に当てられて何とも言えない表情を浮かべる。それでもシルはいつものことだからと言うように、特に気にすること無く食べ進めていた。
「……シルちゃんはいつもこんなの見てるの?」
「うん、いつもパパとママは仲良しだから」
「そう……これにも慣れないといけないわね……」
「すぐに慣れると思うよ?おうちではいつもそばにいるから」
さすがにいつも間近で二人を見てきたシルの言葉は正鵠を射ており、アルとセアラは顔を赤くして黙々と食べ出す。
その後は特に他愛もない話をしながら食事を終えると、作ってもらったのだからとアルが食器を洗う。ただし、もちろんセアラがアル一人にやらせるはずもなく、二人並んで片付けをしていると、シルが机を拭く手伝いをする。
「はぁ、慣れる気がしないわ……じゃあ片付けはお願いして、お風呂いただくわね」
「お母さん、そんな他人行儀にしなくていいよ。自分の家だと思ってくれていいんだから」
セアラが皿を拭きながらリタに声をかけ、アルもそれに同意する。
「ありがと、じゃあお風呂行ってくるわ」
「うん、ゆっくりしてね」
リタを見送り、鼻唄混じりに片付けをするセアラにアルが優しい目線を向ける。
今の嬉しそうなセアラを見れば、リタが一緒に来てくれて良かったとアルは心から思えた。
「アルさん、どうしたんですか?」
視線を感じたセアラが首を傾げてアルと目を合わせる。
「またリタさんと一緒に暮らせて良かったな」
「はい……もう母とこんな風に暮らせる日なんて来ないって思っていました。ありがとうございます」
「大したことはしていないさ。それにしても、再会して短いがすっかり仲のいい親子だな?」
「ええ、私もちょっと驚いているんですが……やはり親子というものはそうなんでしょうか」
セアラはそう言いながら、机を拭き終わってソファに座り本を読んでいるシルに視線を向ける。
「どうだろうな……セアラの場合は互いに会いたいという気持ちがあったわけだし……一概には言えないだろう」
アルがシルに少しだけ目線をやって片付けに戻ると、セアラもそれに倣う。
二人は口に出さないものの迷っていた。もしその時が来たらシルに決断を任すと言ったものの、果たしてそれでいいのか、二人には分からない。
そして二人には分かっている。シルは記憶を取り戻さない限り、二人のもとにいたいと言うであろうこと。
それを分かっていながら決断を任せるのは、シルの選択を免罪符に、本当の両親からシルを取り上げるに等しい行為である気がしてならなかった。
個人的にはシルは好きなのでもっと存在感を出したいんですがね……
魔法が上手い以外は普通の子供のため
どうしても大人の話には入っていけないので悩ましいです





