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ハイエルフの決意

ブクマありがとうございます!

 リタとの話が終わったところで、エルヴィンがアルに話しかけてくる。


「アル。助かった、ありがとう。せめてもの礼として、長老たちの説得を俺たちにも手伝わせてくれないか?」


 エルヴィンの言葉に、周囲の兵士たちも首肯する。


「それはありがたいが……出来るのか?」


 アルは最初に会ったときの頑なな印象、そしてこの場に自分達が来ることを最後まで渋っていたことから、長老たちの説得は難しいと感じていた。

 それに加えて、リタにセアラとの結婚を正式に認めてもらえた今となっては、彼らの同意は重要なことではないと感じている。


「ああ、その前に話しておきたいことがある。セアラは未だに魔法が使えないんじゃないのか?」


「……なぜそれを?」


 アルたちの顔に困惑の色が広がる。セアラが魔法が使えないのは確かだが、なぜそれをエルヴィンが知っているのか。そしてそれが今の話の流れで出てくる理由が分からない。


「兄さん、お願い。それは私から説明させてもらってもいい?」


「……ああ、分かった」


 リタがエルヴィンを制して懇願すると、心情を察したエルヴィンが一歩下がる。


「まず……エルフという種族の瞳の色をご存知ですか?」


 アルたちは唐突な質問に戸惑うも、周りのエルフを見渡し、目の前のリタが金色の瞳を持っているのを確認する。


「見る限りでは、青、緑、金などでしょうか?」


「ええ、ほとんどのエルフはその三種類に分けられます。青は水属性、緑は風属性に長けており、金は全属性の魔法を平均以上に扱えます。稀に火属性の赤、土属性の茶の瞳を持つ者もおります」


 アルは成程と思う。そして今の説明からすれば、セアラの瞳は青いので水属性なのだろうと。


「ではセアラは水属性魔法が得意ということですね?」


 リタがその言葉に頭を振る。


「セアラの瞳はただの青ではありません。紫が混じった深い青。瑠璃色の瞳はハイエルフの特徴なのです」


「ハイエルフ……」


 セアラがポツリと呟く。


「ハイエルフとはエルフの始祖に当たります。私たちは長い年月、エルフだけで子を成してきたわけではありません。人間や他の精霊族と交わることもありました」


 リタの話では、現存するエルフで純血の者は残っておらず、それゆえ瞳の色も様々な種類があるとのことだった。

 その為、以前セアラが心配していたような、人との混血だから里で受け入れられないということはないのだと言う。


「……ハイエルフが始祖で純血のエルフだと言うのは分かりました。ですが本当にセアラがそうなのですか?耳の形も人間と同じですし……」


「エルフはあくまでも瞳の色でその特性が分かりますので、他の身体的特徴は関係ないのです。そしてセアラは先祖返りだと思われます。過去一度だけ先祖返りのハイエルフが産まれたそうで、その者の瞳もやはりセアラと同じ瑠璃色だったと伝えられております」


 セアラはアルの腕にしがみつきながら黙って話を聞いているが、その肩は少しだけ震えている。

 初めて聞く自身の秘密、不安な気持ちが彼女の心に押し寄せる。


「セアラ、大丈夫だ。俺がついている」


「……アルさん」


 アルが優しく肩を抱くと、セアラの震えが止まる。


「しかし伝わっている瞳の色だけでは、セアラがそうだと決めつけられるものではないと思いますが……」


 話しぶりからして、リタを含めこの里の者たちは、過去産まれたというハイエルフを直接知る者はいないようだった。


「私も話を聞いていたときは、そう思っていました。ですが……セアラが産まれたときに分かったのです。セアラの魔力は質も保有量も、今まで見てきたどのエルフとも違いました」


「……?セアラの魔力量は確かに多いと思います。しかしそこまでではないと思いますが?」


 アルは相手の魔力量をある程度推し量ることが出来る。だからこそ、それなりの魔力を有するセアラが魔法が使えないことに疑問を持っていた。


「はい、私が産まれてすぐのセアラに、魔力の封印を施しましたので。それによってセアラは体外に魔力を出すことが出来なくなり、関知できる魔力量も減りました。それでもアルさんが見て多いと思われる魔力量、その異常さが分かるかと思いますが」


「封印……ですか」


 物騒なその言葉にアルとセアラは怪訝な表情を浮かべる。


「古くから伝わり、エルフだけが使うことの出来る術です。といっても大層なものではありませんよ。大抵は悪戯をした子供の罰などに使われるようなものですからね。ただしその解除はかけた者にしかできません」


 呪いや魔法によるものであれば、アルにもそれを看破できたであろうが、エルフに伝わる術となれば守備範囲外。

 アルもセアラの魔力に蓋がしてあるような感覚はあったものの、それが何なのか理解できていなかった。


「お話は分かりました。それでセアラに封印を施した理由ですが……」


 言い淀むアルの意図を理解して、リタが頷く。


「ええ、セアラの持つ魔力が露見すれば、王国に奪われて実験材料にされたり、その血を残そうと、子を産まされるということになったでしょう。もっとも幼いセアラが将来美しくなると思われて略取されたことは誤算でしたが……」


 自嘲気味に語るリタ。彼女は仮にセアラがその外見でなく、魔力に目を付けられていたらと思うと生きた心地がしなかった。こうして会うことなど叶わなかっただろう。

 セアラもそれを理解して、先程までよりも強くアルにしがみつく。

 アルはそんなセアラから少し体を離し向き直ると、その両肩に手を置き諭すような口調で語りかける。


「セアラ、なぜリタさんがこういう話をしているか分かるか?」


「……はい。私の力が戻ることで、危険な目に遭うかもしれない……そういうことですね」


 今のセアラであれば、ハイエルフという存在を知っており、尚且つ魔法に精通しているものでなければその正体に気付くことはない。

 だが力を取り戻せば、正体を看破されやすくなったり、その魔力を狙われるのは避けられない。


「セアラ、確かにあなたには力を取り戻したとしても、そういう奴等から守ってくれる人がいる。でも無理に魔法を覚える必要はないわよ?」


 リタとしてはセアラが魔法を覚えることに、両手を挙げて賛成という訳にはいかない。

 確かに生活する上で、魔法が使えた方が便利な場面は多く存在する。それでも大半の人間は魔法が使えなくても、何不自由なく暮らしている。

 はっきり言って生活が便利になるくらいの認識ならば、アルの負担を増やしたり、危険を冒してまでそれを覚えるメリットはない。


 だが一つだけ確かに大きなメリットと言えるものがある。セアラに危険を冒してでも、それを手にしたいという覚悟があるのであれば、教えてあげたいとリタは思う。


 セアラは黙って俯き考える。アルもリタもその決断を尊重するつもりだ。だから何も声をかけることはしない。

 やがてセアラが迷いの無い顔でアルとシルを見つめると、リタに向き合う。


「……お母さん、私も……私にもアルさんやシルを守ることはできますか?」


 リタは動揺しない。まっすぐにセアラの目を見つめ返す。瑠璃色の瞳が意志を持って、自分を見ていることを確認する。


「……ええ、出来るわ」


 その言葉を確認すると、セアラはアルとシルを見ながらその決意を語る。


「アルさん、私はいつもアルさんに守られてきました。でも守られるだけの、あなたの助けを待つだけの私はもう嫌です。私にもあなたとシルを、大切なものを守らせてください」


 思い返せばいつもアルに助けてもらってばかりだとセアラは思う。王城から密かに抜けたしたとき、追放されて行き倒れていたとき、冒険者たちに襲われそうになったとき、王国にさらわれたとき、そして先程のダークエルフとゴーレムに襲われたとき。


 アルはセアラを愛しているのだから、妻なのだからそれは当たり前だと言う。

 だがアルとて普通に生活するのであれば、四六時中セアラとシルの傍にいるわけにはいかない。

 この先、アルの助けが間に合わないことだってあり得る。むしろそう考える方が自然だ。


 そしてダークエルフの言動から察するに、セアラがハイエルフだと看破されたことは疑いようもない。加えてシルも稀少なケット・シー。再び狙って来ると考えて然るべきだった。それならば自衛の手段を持たなければいけない。

 セアラは自分とシルの身が囚われることで、アルをまた危険な目に遇わせてしまうかもしれないということが辛かった。どんなに危険な場面であろうとも、アルは絶対に自分達を見捨てることはしない。


 もはや答えは一つしかなかった。愛する家族のために、手を伸ばせば手に入れられる力がそこにある。それにも関わらず、その手を伸ばさないなどという選択肢はなかった。

セアラは確認できる唯一のハイエルフということになります

そして何故ダークエルフはセアラを求めるのか

その辺りはまたおいおい出て参ります

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