狙われたセアラ
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セアラたちのいる場所から十メートル程離れた場所に、転移魔法陣の光が出現すると、シルがその光にいち早く気付く。
「ママ、おばあちゃん、あれなぁに?」
「え!?あれは……どういうこと?急に気配が……もしかして、転移魔法?」
リタも二人に危険が及ばぬように『索敵』を発動していたが、今の今まで全く気配が無かったにも関わらず、突然光の場所に気配が現れた。
その原因を恐らく転移魔法だと当たりをつけて、その場から離脱を試みる。
まだ現れたそれが敵なのかどうかは分からないが、敵だと判断して動いた方がリスクが少ない。
「セアラ、シルちゃん、走って!里に戻るわよ!」
「え!?」
「話はあと!早く!」
「う、うん。シル、行くよ!」
ただならぬ様子のリタに言われるがまま、セアラとシルも駆け出すが、物理障壁によって行く手を遮られる。
「まあ、そんなに慌てることもないだろう。話でもしようじゃないか」
三人の後ろから、紫色のフード付きのローブを着た魔導師が声をかけてくる。声からすると男のようだが、フードの奥の顔は伺い知ることが出来ない。
そしてその横には銀鼠色の五メートルほどはあるゴーレムが控えている。
「二人とも、私の後ろに。あいにく私たちは話すことなんてないわ!『火球』」
リタが二人の前に出て、魔導師に向けて火の初級魔法を放つ。
するとゴーレムが魔導師の前に進み出て、火球の直撃を受ける。
「……ウソ……」
直撃を受けたはずのゴーレムには、ダメージを受けた様子は微塵もない。
「このゴーレムには魔法銀が使われている。そのような魔法では傷一つ付かんよ」
「くっ……」
「お母さん……」「おばあちゃん……」
戦闘の出来ない二人の不安そうな声を背中に受け、焦燥の表情を浮かべるリタに、魔導師が再び話を始めようとする。
「まあそう邪険にするな。殺すことが目的ではないからな」
「……どういうこと?」
現状、戦力的に不利なのは必至。しかし自分も感知できたのだから、間もなく兵士が到着するはず。ならばここは会話を続けた方が上策だとリタは判断する。
「私は魔法を使える種族を広く集めている。特にそこの女はいい、どうやらやっと探していたものが見つかったようだ。そっちのケット・シーもいい素質を持っているな」
魔導師の声色は喜びに染まっており、その視線を伺い知ることは出来ないものの、特にセアラに興味を示しているようだった。
「何をっ!!」
自分勝手なその要求にリタが怒りを露にし、詠唱を始める。
「大地の精霊よ、我が願いに応え彼の者を貫く剣となれ『土槍』」
魔法が通用しなくとも、土から作った物ならば物理攻撃になる。何本もの鋭い土の槍が、ゴーレムを貫こうと真っ直ぐに向かっていく。
「無駄だよ」
ゴーレムはガードすることなくそれの直撃を許すが、土の槍が砕けて飛び散る。
「そう来るのは想定内だ。このゴーレムはミスリルとアダマンタイトの合金なのだよ。つまり魔法攻撃にも物理攻撃にも耐性を持つということだ。何人もこれを壊すことは叶わぬ」
「そんな……」
リタが絶望しかけたそのとき、二十名ほどの里の兵士たちが現着する。
「リタさん、お客人も大丈夫ですか?」
兵士たちの言葉にセアラとシルはほっとするが、リタの顔は依然険しいままだ。
「あのゴーレム、ミスリルとアダマンタイトの合金らしい。わざわざ自慢げに教えてくれたわ」
「なんですって?そんなものを動かすなんて、核にどんな魔石を……」
ゴーレムは性能を上げれば上げるほど、制御するための魔石が上質な物でないといけなくなる。そのため土や鉄のゴーレムが一般的であり、ミスリルやアダマンタイトのゴーレムともなれば、Sランクの魔物からとれる魔石でも制御できるか怪しいものだ。
「あとは優秀な魔法使いを探しているみたい。セアラとシルちゃんを狙ってるわ」
「分かりました、隊長がまだなので少しキツいですが、私たちにお任せください」
「ええ」
「お母さん、何で私が狙われるの?私、魔法なんて使えないよ?」
怯えながらセアラが理解できないといったような表情を見せる。セアラはアルとシルに少しずつ教えてもらっているのだが、今だ体外に魔力を出すことが出来ていない。とても才能があるとは思えなかった。
「その話はあとでするわ。今は身を守ることだけを考えるのよ。シルちゃんも離れないようにね」
「うん……パパ、助けて……」
「アルさん……どこにいるんですか?早く……早く来てください」
不安げにアルを呼ぶ二人と自身をリタが物理障壁で覆う。
障壁の外は一方的な蹂躙だった。兵士たちは連携を駆使して攻撃を繰り出すものの、ダメージを通すことが全く出来ない。
ダメージの通らない攻撃など、意に介する必要もなく、ゴーレムは次々と攻撃の隙をついて兵士たちを蹂躙していく。
幸いにも死者は出ていないようだが、運がいいわけでも詰めが甘いわけでもなさそうだった。あえてそうしているように見える。
先程の言動から推測するに、殺すのではなく魔法を使える者をより多く捕らえることを、目的としているのだろうとリタは推測していた。
みるみるうちに兵士たちの数が減り、既に半分ほどになっている。その顔には疲労と絶望の色が広がっている。
「くそっ……何なんだこいつは?動きの精度がゴーレムのそれじゃない」
「くふふ、お褒めに与り光栄だな」
障壁を展開したままゴーレムの傍に立つ魔導師が笑う。それは皮肉や嘲笑といった類いではなく、純粋な喜びだった。
ゴーレムは基本的には戦闘には向かない。思考回路が無いため重量物を運んだり、同じものを延々と作らせるなど、単純作業を行わせるための物。
戦闘となると臨機応変な対応が求められるため、思考回路が絶対に必要になる。だからこそ兵士たちは破壊できずとも、負けない戦いならば出来ると思っていたのだが、完全にあてが外れていた。
兵士の数が少なくなってきたことで、彼らはゴーレムへの攻撃を躊躇しだす。そうなればゴーレムは最優先の獲物のもとへと歩みを進める。それは勿論セアラとシルだった。
「くっ……」
「アルさん……」
「助けて、パパ……」
リタの顔に絶望の色が広がり、セアラとシルは恐怖で身を強張らせる。
そうはさせじと三人のもとへと歩み始めたゴーレムに向かって、兵士たちは決死の覚悟で攻撃を仕掛けるが、まるで意味を成さない。
ゴーレムが攻撃に合わせて腕を一振りするだけで、兵士たちが紙切れのように吹き飛ばされていく。もはやこの戦場に戦える者は一人も残っていなかった。
「さて、障壁を解いてくれないか?私も手荒な真似はしたくないのでね」
「お断りよ!あなたは……あなたは何のためにこんなことを!」
時間を稼ぐ意味があるのかも分からないが、リタがローブの魔導師に疑問をぶつける。
「簡単なことだ、人間が蔓延るこの世界を変える。お前にも分からぬとは言わせぬぞ?低能で下劣な人間風情が、エルフを初めとする妖精族よりも大きな顔をしていることの異常さが」
「たとえそうだとしても、全員が全員そうじゃない。私の正体を知っても優しくしてくれる人間はいたわ」
「そういう者もいる。その程度ではダメだ。私たちの目標は、妖精族を始めとした優秀な種族によるこの世界の統治だ。この里の者たちにも悪い話ではないはずだ。その一員になってもらう」
リタは目の前の魔導師が言っていることが理解できない。思想自体は分からなくもないが、なぜそれならば同士にするのに、力尽くのような真似をする必要があるのか。
「私はあんたなんかの仲間にはならない!力で従わせようとするなんて、あなたが嫌っている人間と何が違うのよ!」
「お母さん……」
魔導師の男から殺気が漏れる。
「……我らが人間と同じだと?……もういい、一人くらい見せしめにしても良かろう。死ね」
ゴーレムが物理障壁ごとリタを潰そうと腕を振り下ろす。
三人がやがて来る衝撃に目を閉じると、ぶつかるような激しい音だけが聞こえて、衝撃が来ない。
恐る恐る目を開けると、セアラとシルが待ち望んだ人がそこにいた。
「すまん、遅くなった」
「アルさん!」「パパ!」
いいところでまた来週です……決して狙ったわけではありません
ちなみにアルが来られたのは全滅しそうになったときに救援要請の連絡を入れたからです
活動報告にも書きましたが、本作品の前日譚である
短編小説『私が彼に恋をした日』を投稿しております
2月末まで短編小説として公開します
その後は本編のプロローグにしますので
是非ご一読ください!
https://ncode.syosetu.com/n8569gu/





