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ご対面

本日2話目です!

 三人の治療を終えたアルのもとへ、セアラとシルが駆けつけて労いの言葉をかける。


「アルさん、お疲れさまです!」


「パパ、かっこよかったよ!」


「ありがとう」


 そんなアルにカペラの冒険者たちからも去り際に、面白かっただの、またやってくれだの、かっこよかっただの、付き合ってくれだの思い思いの感想が投げ掛けられる。

 アルは苦笑しながら手を上げて応えていると、五人組の冒険者がアルたちのもとにやって来る。


「回復魔法……助かった。ありがとう」


 剣士の男が俯きながらアルに礼を言う。


「言っただろう?模擬戦だから気にするな。それより妻に謝ってくれないか?」


「っ……すまなかった」


 男性三人組がセアラに向かって頭を下げる。


「いえ、もう気にしていませんから。ここを拠点にされるのでしたら、これからよろしくお願いします」


「……ああ、こっちこそよろしく頼む」


「あの強さ……どういうことなの?」


 謝罪が終わったところで、ミラと呼ばれた魔法使いがアルについて聞いてくる。まだまだ実力十分とは言えないまでも、Aランクパーティに対してあの立ち回り。疑問を抱くなという方が無理な話だった。

 どう答えたものかとアルが思案していると、なぜか横からギデオンが口を出す。


「アルは元勇者だ。剣も格闘も魔法も回復も超一流。最初ハナからお前らなんかが敵う相手じゃねえってことだ」


「人の情報をペラペラと喋りやがって……」


 よほど三人の素行を腹に据えかねていたらしく、アルの恨み節もどこ吹く風と言うように、ギデオンが満足げに頷く。

 五人組は目を白黒させており、話についていけていない様子。突然目の前の男が勇者だと言われて、信じられるはずもない。


「勇者って……あの魔王を倒すとかそういうの?」


 辛うじてミラが再び質問を返す。


「ああ、それだな」


 結局、魔王を倒してはいないのだが、話の本筋に関係ないので黙っておく。


「……なあ、俺らの仲間になってくれよ!パーティ組んでないんだろ?っと俺はバルト、タンクがディック、アーチャーがフリッツ、魔法使いがミラ、治癒士がセシルだ」


 言葉遣いはともかくとして、殊勝な態度を見せるバルトと名乗る剣士。どうやら他の四人も賛成のようで、目で訴えてくる。


「俺はアル、妻のセアラ、娘のシルだ。悪いが俺は特定のパーティは組まないんだ。お前らが困ったら助っ人で入るのは構わないがな」


「俺らはAランクなんだぜ?固定で入っても……」


 諦めきれない様子の五人を、ギデオンが制し事実を淡々と告げる。


「お前らがアルを入れたいって言う気持ちは分からんでもない。だがはっきり言って、お前らでは力不足だ。アルは昨日Aランクになったが、冒険者登録してからまだ二ヶ月と経ってねえからこのランクなんだ。本来ならばSSランク以上の実力がある」


 その言葉に五人は絶句する。SSというランクは存在はするものの、今では該当する冒険者など世界に一人としていない。Sランクですら十人も居ないと言われているのだから、それだけ桁外れの実力だと分かる。

 そして三人がかりでもアルに全く手が出なかったことからも、その話が眉唾物でないことは明らかだった。


「ぐっ……」


「とりあえずお前らはきちんと依頼をこなすことから始めろ。お前らの今のやり方じゃあギルドの名に傷がつく、分かったな?」


 ギデオンの言葉に五人は首肯する。


「ところでアル、今度食事でもどうかしら?」


「うん、私ももっと話を聞きたいなぁ?」


 ミラとセシルがアルに迫り不穏なことを言い出すと、すかさずセアラが立ちはだかって断固拒否し、アルを引きずってギルドを出ていく。


 オールディス商会へと向かう道中も、セアラは少し不機嫌でアルに小言を言う。


「アルさん!先日も言いましたが、はっきり断ってくださいね!」


「……いや、何も言う暇が無か」


「分かりましたか!?」


「はい、分かりました……」


 少し釈然としないながらも、口答えしても良いことにはなりそうにないので、アルは素直にセアラの言うことを聞く。

 シルはそんな二人のやり取りを見て、コロコロ笑っている。


「アルさんはモテるんですから、自覚を持ってもらわないと!」


「俺がモテる?そんなことはないと思うが……」


 アルは学生時代を思い起こすが、あまりモテたという記憶はない。唯一小学生の時は足が早かったのでモテたと言えばモテた。

 だが成長するにつれて、女子とは縁遠くなっていった。


「いつだったかヒルダさんも言われていましたが、女性が強い人に憧れるのは世の常ですから」


「……成程」


 確かに、この世界のようにモンスターがいたりして、死が身近にあれば、そういった価値観にもなりそうだとアルは納得する。


「でも……」「でも私はパパは強くなくても好きだよ。優しくてかっこいいから」


 二人の話を黙って聞いていたシルからの不意打ちに、アルが思わず顔を綻ばせて抱き上げる。


「そうか、ありがとう、シル」


 自分が言いたかった言葉をシルに取られてしまい、セアラは頬を膨らませて口を尖らせる。

 アルはそんな様子のセアラに気付くと、シルを右腕一本で抱えて、左腕でセアラの肩を抱き寄せる。

 セアラは一瞬だけ驚いた表情を浮かべるが、すぐに頬を赤らめる。


「……私も強くなくてもアルさんが好きです……優しいアルさんが大好きです」


「ああ、ありがとう」


 アルは寄りかかるセアラをしっかりと受け止め、彼女の体温を感じる。



「あ、アルさん。いらっしゃい!」


 オールディス商会の前に立つトムが三人の姿を見つけると、大きく手を振って声をかけてくる。

 その横にはやたら気合いの入った服を着て、今にも気絶しそうなほど緊張した様子のレイチェルの姿もある。

 アルはセアラにレイチェルの件をどう説明したものかと思っており、今回の依頼に同行した夫婦に結婚指輪を選ぶのを手伝ってもらう、ということくらいしか言っていない。


「今日はよろしく頼むよ。知っているとは思うが、妻のセアラと娘のシルだ」


「初めまして、セアラと申します」


「初めまして、シルです」


「初めまして、オールディス商会のトムと申します。本日はご来店ありがとうございます」


 歓迎の挨拶を終えたトムがレイチェルを肘で小突き、自己紹介するように促す。


「は、は、はじ、はじめ……」


 レイチェルの顔は茹で蛸のように真っ赤になっており、それでいて唇はガタガタと震えている。

 アルとトムはよくこんなザマで自分も同行すると言ったものだと呆れ返る。


「あ、あの、大丈夫ですか?」


「は、はひぃ~……」


 ドサッ


「え?ど、どうされたんですか?」


 セアラがレイチェルの顔を覗き込んだのが決定打となり、気絶する。


「トム、どこか休めるところにでも連れていってやれ……」


「すみません……朝からちょっとおかしなテンションになってまして、止めといた方がいいんじゃないかと言ったんですがね……すみませんが少し店内を見ていてもらってもよろしいですか?」


「ああ、大丈夫だ」


 トムがレイチェルを抱え上げて、従業員専用の裏口へと消えていく。


「アルさん、先程の方はどうされたのでしょうか?」


「あぁ……レイチェルは……セアラのファンらしいんだ」


「ファ、ファンですか?」


 アルの口から発せられた思いがけない言葉に、セアラの顔に驚愕と羞恥の色が広がる。

 シルは意味が分からないようで不思議そうな表情を見せている。


「ねえパパ、ファンってなに?」


「ファンって言うのは……まあ要するにセアラが大好きってことだ」


「ええ?女の人なのにママが好きなの?」


「えっとな……好きにも色々な種類があるんだ。俺はセアラのことが女性として好きだ。シルのことは娘、家族として好きだ。あとは友達として好き、とかがあるな。それでレイチェルがセアラが好きと言うのは、ああいう人になりたいっていう憧れとかそういうものだな」


 アルは自分で言っていて恥ずかしくなるが、なんとか説明する。


「じゃあさっきの人はママみたいに、きれいになりたいってこと?」


「まあ詳しくは分からないが、恐らくそういう感じだと思う」


「あ、アルさん。ちょっと恥ずかしいので、そのくらいで……」


 自分のファンが存在しているなど思いもよらなかったセアラは、どう感情を処理していいか分からず苦慮していた。

果たしてレイチェルはセアラと仲を深められるのか……


明日で第三章は終わります。

来週からは第四章、新婚旅行&エルフの里編です。


今後ともよろしくお願い致します!

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