二人を守るもの
本日2話目です、ご注意ください!
今回もセアラ視点です
解体場は大好きな職場ではあるけれど、私はここで働き出してから困っていることが一つだけある。
そしてアルさんが依頼のために出掛けた翌日、私はそれに直面してしまっている。
「ねえねえ、お姉さんってさあ、メチャクチャきれいだよね。仕事終わったら俺たちと食事でもいかない?全部奢るからさ。うちのパーティなら女もいるからいいっしょ?」
そう、こうして冒険者の方から食事のお誘いなどを受けることが頻繁にある。
今回は先日カペラに来たばかりの男性三人、女性二人の五人組の冒険者。
そして熱心に声をかけてくるのはもちろん男性三人だった。見たところ剣士、タンク、アーチャー、魔法使い、治癒士といったところだろうか?
持ち込んできたモンスターは、アルさんがよく狩っていた一角ボア。
Aランクパーティであれば問題なく、Bランクパーティでは少し荷が重いといったレベルのモンスター。
その事からも、彼らが少なくともBランク上位以上の実力はあるのだと分かる。
ただしアルさんが狩ったものとは状態が雲泥の差。アルさんの方は毛皮に傷一つ無かったけれど、目の前のそれはズタズタになっており、魔法のせいで所々焦げていたりする。これでは、恐らく大分価値が下がってしまうだろう。
こうして解体の仕事をしていると、何となくその冒険者の腕が分かるようになってきた。そうすると、ますますアルさんの凄さが分かるようになって、なんだか嬉しい気持ちになる。
ちなみにカペラを拠点にしている冒険者は、私とアルさんのことを知っているので、食事に誘ったりはしない。
それでも最近では私とシルを見かけると、挨拶したり声をかけてくれるので、大分受け入れられてきている気がする。
でも外から来たばかりだったり、流れの冒険者はそんなことは知らないのでこうして声をかけてくる。
ここで働くからには、こうした困った冒険者をあしらう方法も覚えないといけないので、他の方たちも荒事にならない限りは割って入ってこない。
とはいえシルはやっぱりそういう人たちは苦手みたいで、私の後ろに隠れてしまう。まあ当たり前だよね、アルさんからもシルを頼むって言われているんだし、私が守ってあげなきゃ。
とにかく、いつものように、はっきりと断ればいいだけなので、今回もそうすることにした。
「すみません、私もう結婚してますから」
「えー?そうなの?相手はどんなやつ?冒険者?」
そこまで聞く必要があるのだろうかと思わないでもないけど、私はなるべく穏便に済ませるために答える。
「はい、ここの冒険者ですよ」
「なんだ冒険者かよ……でもさぁ、俺たちの方が有望だと思うよ?嫁をこんなところで働かせてるんだから、どうせしょぼいやつなんだろ?」
いくら何でも失礼じゃないかな……何で会ったばかりの人に、そんなことを言われないといけないんだろうか?
私はあまり怒ったりしない方だけど、さすがにアルさんとこの職場をバカにされるのは許せない。このまま黙っているわけにはいかない。
とはいえお客さん相手に大声を出すわけにもいかないので、怒りを抑えて淡々と告げる。
「いえ、私は好きでここで働いておりますので。それに私の夫はとても強くて素敵な方ですから」
私の言葉に男たちは嘲笑を返してくる。
「あっはっは!俺らはAランクだぜ?そいつのランクは?」
「Bですね」
Bランクと聞いた男たちはいっそう調子に乗り出す。確かにAランクは、Sランク不在のカペラでは最高ランク。見たところまだ若そうだし、挫折せずにここまで来たからこそ、この態度なんだろうな。
「はっ、Bランクなんて話にならねえって。お姉ちゃん知ってるか?BとAじゃあ天と地ほどの差があるんだぜ?Aランクってのはひと握りの天才だけが到達出来るランクなんだ。悪いことは言わねぇから、さっさと俺たちに乗り換えた方がいいぜ」
「そうそう、俺らならその内Sランクにもなっちまうからな。今がチャンスだと思うぜ?」
小馬鹿にしたような態度に私の怒りが最高潮に達する。ランクなんて関係ない。アルさんは世界一強いんだから。
「結構です!」
ついつい口調が刺々しくなってしまうが、仕方ないと思う。私がアルさんのことで感情を抑えられるわけがない。
私が全くなびく様子がないのが気にくわないのか、男性三人の雰囲気が段々と剣呑なものになってくる。
魔法使いと、治癒士らしき女性二人を横目で見ると、いつものことだと思っているのか、興味無さそうに静観している。
するとさすがに見かねたモーガンさんが助け船を出してくれる。
「お前ら邪魔すんじゃねえ、セアラちゃんもそこまで相手にしなくていいんだぞ?」
「はい、すみません。つい」
モーガンさんにそう言われても私の怒りは収まらない。いくら知らないとは言え、アルさんを悪く言われて黙っているわけにはいかない。
「あれ?セアラちゃんどうしたの?揉め事?」
ちょうど解体場に入ってきた顔馴染みの冒険者の方たちも、何事かと思って近づいてくる。
「ちっ、つまんねえの。まあまた来るわ、気が変わったら、いつでも歓迎するぜ」
さすがに形成不利だと思ったのか、男性三人が悪態をつきながら出ていくと、私はホッと胸を撫で下ろす。
「セアラちゃん、大丈夫か?」
モーガンさんと冒険者の方たちが私を心配してくれる。
「すみません、アルさんを悪く言われたので、ついかっとなってしまって……」
「まあ知らねえやつからしたら、ただのBランク冒険者でしかねえからな。しかしアルがこの事を知ったら怒るだろうな。自業自得とは言え、気の毒なこった」
その言葉に私は違和感を覚える。
「モーガンさん、アルさんは怒るとは思いますが、私に危害を加えようとしない限りは手を出しませんよ?」
「そりゃあ直接は手を出さないだろうよ。ただこの町でアルを敵に回すなんてのは愚の骨頂なんだ。ここの冒険者なら誰もが思ってるはずさ。アルは絶対に怒らせちゃあいけねえやつだってな。それにそうは見えないかもしれないが、あれで結構冒険者たちには慕われているんだよ。だからアイツを怒らすのは、この町の冒険者を敵に回すようなもんだ」
「はえ?そうなんですか?」
アルさんが他の冒険者の方に慕われているなんて初めて聞いた私は、思わずすっとんきょうな声をあげてしまう。
「ああ、実力を示すためにアルはわざと難易度の高い依頼を、ソロでこなしているみたいだぜ。それでいて依頼達成率は百パーセント。最近じゃあ他の冒険者の戦闘指南なんかも、ギルマスに依頼されてやってるみたいだしな。そうやって自分の味方を増やすことで、セアラちゃんとシルちゃんを守ってるつもりなんだろうよ」
「そうそう、俺たちもアルさんには世話になってるよ。ちょっときつめの依頼の時は助っ人に入ってもらったり、模擬戦の相手をしてもらったりね」
そっか……だからこの町の冒険者の方は、私たちを気にして、よく声かけしてくれるんだ……
でもアルさんは私にそんなことは一言も言わない。私が聞いたとしても、自分がそうしたいからやったとしか言わないんだろうな。
「そうだったんですか……」
「アルは……あの時セアラちゃんが連れていかれたのを、今でも後悔してるんだろうな。でもあいつも仕事するなら、ずっと二人の傍にいるわけにもいかねえからな。他人を頼るようになったってのは、いい傾向だと思うぜ」
確かにその通りだと思う。昔のアルさんなら、全部自分でやろうとしていただろうな。
「はい、そうですよね」
「あ、でも俺がこんなこと言ってたってのは内緒にしといてくれよ?アルに睨まれちまう」
「ふふ、分かりました」
「ママ、もう大丈夫?」
「うん、シルも怖かったよね。ごめんね」
私はシルの頭を撫でて、抱き締めると、シルは私の言葉を否定する。
「ううん、大丈夫だよ。パパがいつも私とママを守ってくれるから」
深い意味はなく、何気なく言ったであろうシルのその言葉が全てだった。
モーガンさんの話を聞いた今、離れていてもアルさんの優しさを感じる。
「ええ、そうね。パパ、早く帰ってくるといいね」
「うん!」
予定では明日はアルさんが帰ってくる。私は大好きな彼に会えるその時が、待ち遠しくてたまらない。
アルだって、ちゃんと成長しています
そしてセアラはまたさらにアルを好きになるという訳ですね
新作準備してると言いましたが、ちゃんとこちらも終わらせますのでご心配なく!
もっとも完結はまだまだ先になりますがね……
新作はちょっと頭の体操も兼ねて、趣味全開話を書きたかったので書いてます
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