ファンクラブ?
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アルは自宅に戻るとセアラとシルに、どんなに早くとも明日から二泊三日の行程になることを告げる。
冒険者であれば泊まりがけの依頼もあるのだが、アルが受けるのは初めてだったので、二人とも複雑そうな表情を浮かべていた。
「そうですか……寂しいですが、お気をつけてくださいね」
「パパ、絶対すぐ帰ってきてね」
「ああ、ありがとう。なるべく早く帰るよ」
依頼の内容は家族にも言えないので、二人とも詳しくは聞いてこない。アルは寂しそうな二人の顔をどうにかしたいと思い、帰ってきてからの話をする。
「セアラ、帰ってきたら結婚指輪を見に行こうと思うんだが」
「アルさん……覚えていてくださっていたのですね」
感激した表情を浮かべるセアラ。気付いていたものの、アルから貰うものなので、遠慮して口には出していなかった。アルは失念していたことを申し訳なく思うが、口が裂けても正直に言えない。
「……今回の依頼は宝飾品で有名なオールディス商会からのものなんだ。その報酬として一緒に選びに来るといいと言われている」
「そうだったんですね。是非お願い致します!」
「ああ、大きい商会だからシルも何か欲しいものがあるかもしれない。帰ってきたら一緒に行こうな」
「うん、おっきいお店楽しみだな」
アルの思惑は功を奏し、二人の顔に笑顔が戻る。
「セアラ、シルを頼むよ」
「はい、分かりました」
翌朝、アルは言われた通りに八時までにオールディス商会の前に来ていた。まだ馬車の姿もなく、仕入担当者の姿も見えない。
やがて時刻が八時になると、オールディスが一組の若そうな男女と共に姿を現す。
「やあアルさん、待たせてしまったようだね」
「いえ、ちょうど八時ですので問題ありませんよ」
オールディスが満足げに頷くと、男女の紹介をする。
「この二人が仕入担当をしているトムとレイチェルだ。二人ともこちらはアルさん、今回の護衛とモンスターの討伐を請け負ってくれている」
「トムです、よろしくお願いします」
「レイチェルです、よろしくお願いします!アルさんって、セアラさんの旦那さんのアルさんですよね?」
「アルです、よろしくお願いします。ええ、確かにセアラは妻ですが」
初対面ながら、かなり食い気味に質問をしてくるレイチェルにアルは困惑する。
「私セアラさんの大ファンなんです!」
「……そうですか」
アルは女性が妻の大ファンという謎の状況に、どう答えていいか分からず、さらに困惑の表情を深める。
「レイチェル、そこまでにしておけ。すみませんアルさん。妻はあのミスコン以来、セアラさんのファンクラブに入っておりまして……」
「……ファンクラブ……?」
「アルさん!ご存知無いんですが!?セアラさんファンクラブは発足して二週間ほどですが、すでに老若男女問わず多くの会員を誇っているんですよ!」
二人が夫婦であるという情報もそこそこ印象に残るものだが、セアラのファンクラブが存在しているという情報のインパクトが強すぎた。
そう言えばそんなものを作ると言っていたやつがいたとアルは思い出すが、まさか本当に作るとは、というのが正直な感想だった。なにせあの場でセアラはアルの妻であることを公言したのだから、立ち消えになったものだと考えても不思議ではない。
「トム、レイチェル、その話は道中にでもとっておきたまえ」
オールディスが見るに見かねて二人を諌めると、アルもその言葉にスイッチを切り替える。
「ところで馬車はないのでしょうか?」
「ええ、ありません。歩きでないと通れませんので」
「……成程、それで秘密ルート、というわけですか」
アルの言葉にオールディスが首肯する。馬車が通れないような場所を通るとなれば、道なき道を行くということ。レイチェルもこの世界の女性にしては珍しくパンツスタイルだった。
「トムは目利きに優れ、レイチェルは収納魔法の使い手です。ですので馬車がなくとも問題ありません。だからこそ、このルートでの仕入は二人以外では出来ないのですよ」
話を聞く限りでは、確かにこの夫妻は仕入担当にうってつけ。アルとしても多人数の商隊の護衛は骨が折れると思っていたので、二人というのは非常に助かる話だった。
「分かりました。それでは早速出発しましょう」
「アルさん、よろしく頼むよ」
オールディスの見送りを背に受けながら三人はカペラを後にして、アルを先頭に進んでいく。
道中の話題はもちろん先程の件だ。
「いやー、アルさんが護衛だなんて嬉しいですねぇ。これを機にセアラさんとお近づきになれたりして」
レイチェルがぐふふと笑っているのを見て、アルは顔をひきつらせる。とはいえ、ここは情報をきちんと掴んでおかねばならないので、危険地帯へと踏み込んでいく。
「それで……ファンクラブっていうのは何をするんだ?」
「そうですねぇ、なにぶんまだ発足したばかりですので、基本的にはセアラさん情報を共有して愛でるだけですね。たまに絵の上手い方がセアラさんの絵を描いて、複写魔法でその絵を販売したりもしますね。もうその時は修羅場ですね、みんな我先にと手に入れようとしますから」
そこはかとない犯罪臭を感じないでもないが、とりあえずセアラに害が無ければ、アルとしても動く気はない。あまり締め付けて爆発されても困る。
「でもセアラさんファンクラブの中では、アルさんも人気なんですよ」
「……どういうことだ?」
レイチェルの言葉に、アルは怪訝な表情を浮かべる。セアラのファンクラブであれば、アルは完全に敵役のはず。
「決まってるじゃないですか!アルさんと一緒にいるときのセアラさんは輝きが違います!もうまさに恋する乙女って感じで、キラキラしてるんです!尊いんですよ!お二人が並んで歩いているときなんて、ファンクラブ垂涎の場面ですから!」
レイチェルが先程までよりも、さらにもう一段階興奮して力説する。
そう言われてみればアルにも、確かに心当たりがあった。一人で歩いているときよりも、セアラと歩いているときの方が明らかに感じる視線が多い。敵意は感じないので捨て置いているが、レイチェルの話で得心が行く。
そして当然ながらアルは自分と一緒にいるとき以外のセアラを知らない。
そのため、いくら熱弁されてもアル自身はピンと来ていないのだが、セアラのファンという者たちが言うのだから間違いないのだろうと思っておく。
「セアラさんは誰にでも優しいですからね……その眩しい笑顔を向けられたら、普通ならば勘違いする人が出てきてもおかしくありません。ですが!!」
レイチェルがさらに声量を上げて拳を握る。
「そう思った人たちに立ちはだかるのがアルさんという存在!!セアラさんに仄かに恋心を抱いたからこそ気付いてしまうのです!!アルさんこそがセアラさんを一番愛し、セアラさんから愛される人物なのだと!!そして」
「……もうそれぐらいで勘弁してくれ……」
顔を真っ赤にしてレイチェルを制するアル。
周囲の人たちが自分たちに向ける視線の意味を知り、羞恥心が限界突破する。
「すみませんアルさん。妻はセアラさんのことになると、いつもこんな感じで……」
トムが心底申し訳なさそうにアルに頭を下げる。
「……いや、興味深い話が聞けた」
「でも妻の言うことも確かなんですよ。アルさんとセアラさんは、もはやカペラ公認の夫婦ですから。最近では二人が手を繋いで歩いているのを見ると、そのカップルは幸せになれるなんていう迷信までありますから。間違ってもちょっかいを出そうなんて人は、いないんじゃないですかね?」
最近ナディアにちょっかいを出されたばかりのアルは複雑な気分だが、この世界が一夫多妻制であることからも、その辺りの男女の違いがあるのかもしれないと思い直す。
しかしそのような迷信まで広がっているとなると、もはや偶像崇拝の対象、まさしくアイドル的な存在。こんなはずではなかったと、アルが思わず頭を抱えて左右に振る。
「そんなアルさんに護衛をしてもらえるんですからね、私たちの夫婦仲も安泰というものです」
微塵も疑うことなく言ってのけるレイチェルに、アルが嘆息して釘を刺す。
「言っとくが俺たちにそんな力はないからな。勝手に信じて失望しないでくれよ」
「大丈夫です!信じるものは救われますから」
会話が通じないレイチェルにアルは再び嘆息し、先を進んでいく。
レイチェルはちゃんとトムが好きです。
セアラに憧れているだけですので……
年齢は二人とも20歳くらいという設定ですね。
ちなみにアルは19歳、セアラは18歳、シルは10歳です。
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