ラズニエ王国と日本人
昨日は初めて一日で1000pv越えでした!
いつも本当にありがとうございます!
アルたちが店に入ると、レイラとヒルダがメリッサに化粧を教わりながら会話を弾ませている。三人が入ってきても気付いていないようだ。
「それでセアラったら、いつもアルさんアルさんって言ってるんですよ。もう惚気話を聞かされる方の身にもなって欲しいものです」
「まあまあ、あのお二人は本当に仲がよろしいんですね」
「ええ、それはもう。こないだだって……あ」
いつの間にかセアラが三人のもとに真っ赤な顔で飛び出していた。
「メリッサ!な、な、なんでそんな話してるのよ!」
「ええっと、いらっしゃい?」
「もう!ごまかさないの!」
「ごめんなさい、セアラさん。私たちがついお話を聞きたくて」
レイラから頭を下げられては、セアラとしても振り上げた拳を引っ込めざるを得ない。
「そ、そうですか……」
「ええ、大変面白いお話でした。セアラさんが服を選ぶときには、いつもアルさんが好きかどうかを基準にしているなど」
「ヒ、ヒルダさん!やめてください!」
懊悩しているセアラを見て、アルはどうしていいか分からないので、とりあえず入り口に立ち尽くしている。
「パパ、私たちも行こうよ」
「ん?あ、ああ、そうだな」
アルとしては今あの場に行くのは少し憚られるが、娘に急かされては、仕方がないのでシルの手を引いて向かう。
どう声をかけたものかと逡巡し、満を持してアルがセアラの肩を叩く。
「……セアラ、その……ありがとう?」
「はぅ……」
セアラが顔を覆って、膝から崩れ落ちる。どうやら言葉選びを失敗したようで、止めを刺してしまう。レイラたち三人はそれを見て笑い、シルはセアラの頭を撫でている。
しばらくするとセアラも復活して、シルと一緒に服を見繕い始める。
アルが手持ち無沙汰にしていると、ブレットが店に入ってくる。ここにいてもすることがないので、アレクを護衛につけて散歩に出ていたとのことだった。
「やあ、アル君。どうしたんだい?」
「こんにちは、ブレットさん。実は例の副賞の温泉旅行なんですが、北の方なのでセアラとシルの上着を買おうかと」
「ああ、そうだったのか。宿の名前は何だったかな?」
「ええと、『華月苑』ですね」
「ああ、そこか。私たちもよく泊まるところだよ。ちょっと待っててくれ」
ブレットはそう言うと胸元から名刺らしき紙を取り出して、サラサラとサインを書いていく。
「これを宿の人に見せるといい、きっと無碍にはされない。なにしろ貴族の宿泊客が多い宿だからね、どうしてもそちらを優先してしまったりするんだ」
確かに宿の立場からすれば、アルたちのような一般人よりも、リピーターになってくれそうな貴族の方に重点を置きたくなる気持ちも分かる。
ぞんざいに扱われるようなことはないだろうが、ちょっとした気遣いに差が出てくるかもしれない。
「そうでしたか、しかしいいんですか?」
「ああ、受け取ってくれ。君たちのことは勝手に息子夫婦のように思わせてもらっているからね」
「……ありがとうございます」
自分のことを気に入り、良くしてくれているとはいえ、相手は腹芸の得意な貴族。何か思惑があるのかもしれないと考えそうなものだが、ブレットの柔和な表情は、アルにそんな疑念を抱かせることは無かった。
「あ、ブレットさん、こんにちは」
「こんにちは!」
「こんにちは、セアラさん、シルちゃん」
それぞれに服を抱えて、セアラとシルがアルのもとに来る。
「もう決まったのか?」
「えっと……実はアルさんに見て欲しくて」
セアラは先程のことがあったせいで、アルに見てもらうことを恥ずかしがってはいるものの、やはり本人がいる以上、感想を聞くことは欠かせない。
「ああ、着てみてくれるか?」
「はい!」
セアラが選んだものは、黒色の袖付きストールで、普段可愛らしい服を好む彼女にしては大人っぽいもの。とは言え、そもそも素材がいいのでどちらの路線でも似合う。
対してシルは可愛らしい黒のフード付きのポンチョで、セアラと色をお揃いにしているようだった。
「二人ともよく似合ってる。セアラはきれいだし、シルは可愛いよ」
「はい、ありがとうございます!じゃあこれにしますね!」
「えへへ、ありがとう!」
二人ははにかみながらアルに礼を言うと、会計を済ませに向かう。
満足そうにその様子を見ていたアルに、ブレットがそういえばと話しかけてくる。
「アル君はラズニエ王国についてどれくらい知っているんだい?」
「実はほとんど知らないんです。温泉が多いということくらいで……」
魔王討伐に旅をしたものの、魔界まで最短距離で向かわされたアルは、他国の情報をあまり知らなかった。
「そうか、アル君には馴染み深いと思うよ。かつて君の故郷から来た人間が中心になって建国した国だからね」
「え?そんな国があるんですか?」
「ああ、祭りの初日にも君の世界の料理が多くあっただろう?君の世界の文化は、この世界中に多く取り入れられているんだよ」
「そうだったんですか……知りませんでした」
アルも祭りの初日にそういうことがあるのもしれない、という程度には考えていたが、実際に聞かされると驚きが強い。その事実は、それだけこの世界に呼ばれる人が多い証左でもある。
「何にせよ楽しんでくるといい、家族の思い出はいくらあってもいいものだよ」
「確かにそうですね……ありがとうございます」
ブレットにとっては当たり前の、何の気なしに言った言葉ではあったが、アルの心には響くものだった。
アルたちには家族の思い出が少ない。セアラは幼少期の僅かな記憶だけ、アルに至っては全く無いし、シルも記憶を失っているのだから、無いに等しい。
少し目的に囚われすぎていたとアルは気付かされる。今回はセアラの母親を探すという目的があるにせよ、旅行自体を楽しむことも大事なことだと思い直す。
特にシルはまだまだ子供。これから大きくなっていったときに、子供の頃を思い出して、いい思い出だと言えるようになって欲しいとアルは思う。そして彼女を引き取ると決めた以上、自分たちにはその義務がある。本当の親ではないからという言い訳だけはしたくないと。
「アルさん?どうされました?」
いつの間にか会計を終えて戻ってきたセアラとシルが、不思議そうな顔でアルの顔を覗き込む。
「いや、何でもない。明日からの旅行が楽しみだと思っていただけだ」
「はい、そうですね!」
「うん、私も楽しみ!」
二人はニコニコと、よく似た笑顔でアルに同意する。全く種族が違う二人なのに、まるで本当の親子のようだった。
「それでは私たちはもう行きますので」
「ああ、またディオネに来たら寄ってくれればいい。困ったことがあったときもね」
ブレットが三人の顔を見て、微笑みながら声をかける。
「はい、ありがとうございます」
「アルさん、セアラさん、シルちゃん。また会える日を楽しみにしておりますね」
「絶対また来てくださいね!」
ファーガソン家の三人に別れを告げ、アルたちは家へと戻る。
そしてアルは先程ブレットから聞いたことをセアラとシルに教える。
「ラズニエ王国は俺がもといた国の人が中心になって作ったらしいんだ」
「そうなんですか?」
「パパのいた国ってどこなの?」
シルには未だアルのことを詳しく話していない。特に隠しているというわけではなくて、タイミングがなかったために、伝えていなかった。
「俺はこの世界の人間じゃないんだ。別の世界からこの世界に呼ばれてきた。それで俺以外にも、そういう人はいるらしいんだ」
「別の世界?」
「ああ、そこでは魔法もないし、文化や暮らしも全く違うんだ」
シルにはまだ難しいようで、説明を聞いても首を傾げたまま尻尾でクエスチョンマークを作って、不思議そうな顔をしている。
「ということはアルさんの国の文化が、多く取り入れられているということでしょうか?」
「ああ、どうやらそうみたいなんだ」
「それはとっても楽しみです!シルも難しく考えずに、アルさんの国によく似たところに行くって考えればいいのよ」
「じゃあパパがどんな国で育ったか分かるってこと?」
「ああ、もちろん完全に同じではないだろうがな」
「うん、それだったら分かった」
花のような笑顔で大きく頷くシルに、二人は温かな眼差しを向ける。
「じゃあ明日からは仕事だ。さっさと夕食を済ませて、風呂に入って寝よう」
「はい!」「うん!」
ラズニエ王国は日本的な感じと思っていただければ良いかと。
他の国は……とりあえず今のところは本筋が終わったら出てくるかも、という感じです。
ブックマーク、評価、感想がなかなか増えない……
ですが頑張って書きますので、よろしければ応援してください!励みになりますので!
昼過ぎにもう1話更新です!





