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始まる新たな日常

今回から第三章の始まりです。

いつも読んでいただきありがとうございます!

 祭りが終わり、アルたちはファーガソン家の三人とメリッサに別れを告げると、副賞の温泉宿宿泊券を受け取って家に戻る。

 ちなみにファーガソン家の三人は明後日この町を出発するとのこと。メリッサの店に行きたいというレイラとヒルダのたっての希望を、ブレットが聞きいれた為であった。


 アルクス王国では政変があったばかりなのに、大丈夫なのかとアルは尋ねたが、家族サービスには変えられないとブレットは笑う。時間的な制約は、転移魔法陣を利用すればよいので、さほど問題は無いとのことだった。


 そして副賞の宿泊券はペアチケットで、一年以内であれば、連絡をして部屋の空き状況次第でいつでも泊まれるということだった。


「セアラ、ラズニエ王国への旅行だが、行くなら早い方がいいと思うがどうする?」


「そうですね。モーガンさんとも相談してみなくてはいけませんから、明日聞いてみて、なるべく早くということにしましょうか」


「そうだな」


「パパ、ママ、私も行っていいの?」


 少し不安そうな顔をして、シルがおずおずと二人に聞いてくる。宿泊券はペアだったことを気にしていた。


「当たり前だろう。子供が遠慮なんてしなくていい」


「そうよ、家族みんなで行った方が楽しいでしょ?」


「うん!ありがとう」


 アルは少し困ったような顔でシルの頭を撫でる。


「シル、礼は言わなくていい。家族なら一緒に行くのは、当たり前のことだろう?」


「うん、分かった!」


 嬉しそうにアルに抱きつくシルを見て、セアラは目を細める。

 今日はミスコンの結果発表のため、祭りの最後まで参加したことで時間が遅くなってしまった。

 そのため、風呂好きのアルとしては不本意ながら、生活魔法の『清潔クリーン』で体をきれいにすることになった。

 早速アルがやろうとすると、シルが是非やりたいと言い出す。


「じゃあいっくよ〜!『領域清潔エリアクリーン』」


 シルが一気に三人に魔法をかけると体の汚れが一瞬で消え、セアラの化粧までもが落ちる。

 本人の才能に起因するものなのか、ケット・シーだからなのかは定かではないが、シルの魔法の制御は抜群に上手かった。魔法においても超一流のアルにも劣らないレベルと言える。

 この世界には妖精族は多くの種類がいるが、総じて魔法が上手いという特徴を持っている。その代償として、概ねあまり肉体が強いわけではなく、物理攻撃には向いていない。


「すごい!シルはこんなことも出来るのね!」


 自らは魔法を使えないセアラであっても、シルの魔法のレベルは一目瞭然。裏表なく真っ直ぐに褒める。

 そんなシルの魔法を見たアルが、少しの間思案した後、提案する。


「なぁ、セアラ。ここまでやれるなら、もしかしたら解体場で役に立つんじゃないか?」


「解体場って?」


「私が働いてるところよ。文字通りモンスターの解体をするの。でも頻繁に血とかを見ることになるから……」


「ああ……確かにそうだな……済まない。ちょっと考えが足りてなかった」


 セアラに言われてアルもはっとする。内臓や血を普通に見る場所、さすがに子供が働くようなところでは無い気がする。


「でも私お留守番いやだよ。ママと一緒がいいな」


「そうねえ、じゃあ明日一緒に行ってみましょうか?」


「うん!」


「明日は俺も冒険者登録があるから、一緒に行こう」


 アルもアンとの約束があるので、ギルドに顔を出さない訳にはいかなかった。もし行かなければ、首が飛ぶかどうかはともかくとして、アンが酷いことになりそうなのは確実で、猛抗議を受けることは容易に想像できる。


「それじゃあ、寝ましょうか?」


「ああ……なあセアラ、シル。あれではやはり狭くないか?」


「ううん、私はあれがいいな。パパとママが近くて安心するもん」


 無邪気なはずのその言葉だが、アルとセアラには深い意味に聞こえてしまい、顔を見合わせる。それでも二人はシルに悟られぬように、普段通りに振る舞うよう努める。


「そうか、じゃあ昨日と同じように三人で寝よう」


「そうですね、仲良く三人で寝ましょう」


「うん!」


 昨日と同じように三人でセミダブルベッドに川の字、と言うよりもぎゅうぎゅう詰めになって眠る。

 自由に寝返りを打つことも出来ず、不快に感じそうなものだが、シルは昨日のように泣くこともなく、幸せそうな顔をしていた。

 アルとセアラはそんなシルを見て、胸が痛くなるような感覚を覚えるが、二人の体温がシルを優しく包み込む。


「おやすみ、セアラ、シル」


「はい、おやすみなさい、アルさん、シル」


「うん、おやすみ、パパ、ママ」


 シルはすぐに寝息を立て始める。すでに十一時になろうというのだから、子供のシルが眠いのは当然だった。


「アルさん」


 シルが寝たことを確認すると、セアラがアルに小声で話しかける。


「どうした?」


「シルのことなんですか……昨日こうして三人で並んだ時に、泣いてしまって……」


「……そうか……あれだけの魔法、教えてくれた人は必ずいるだろうしな。それが家族なのかは分からないが、無意識にその人を求めているんだろうな……」


 アルはシルの頭を撫でながら、渋面を作る。まだ安否不明とは言え、シルの保護者に何事もなかったとは思えない。


「はい、シルに呪いをかけたのは、魔法を教えてくれた方なのでしょうか?」


「……その可能性は十分ある。何か良からぬことが起きて、シルだけを猫の姿に偽装して逃がしたのかもしれん。そうすれば解呪が容易だったことにも頷ける」


「ギルドの方で何か情報があればいいんですが」


「ああ、アンも気にかけてくれていたし、何か気になる依頼があったら俺が行ってくるよ」


「はい、よろしくお願いします」


 アルとセアラは、シルを追い出したいわけではない。しかし彼女の家族が困っているのならば助けてやりたいし、シルが望むのであれば帰してやりたい。

 それは二人にとって寂しいことではあるが、子供にとって親という存在は非常に大きい。親に恵まれなかった二人は、シルにはそんな思いをさせたくなかった。


 翌朝、三人は寝坊をすることなく目を覚ます。朝食を三人で準備し、食べたら三人で片付けると、セアラの出勤時間に合わせて、アルとシルもアパートを出る。

 アルの用事はいつでもいいので、とりあえずセアラとシルに付き添いとして解体場に赴くと、相変わらずいかつい風貌のモーガンが、欠伸をしながらそこにいた。


「おはようございます、モーガンさん」


 セアラが大きな声で挨拶をし、アルは軽く会釈するとシルに自己紹介を促す。


「初めまして、シルです」


「おう、おはよう。セアラちゃん、アル。それでその娘が引き取ったっていう猫獣人の娘かい?」


「ええ、そうです。ご存知だったんですね」


「ああ、アンちゃんから聞いてるぜ」


「そうでしたか、それでシルは生活魔法全般が使えるので、ここでお役にたてないかと思いまして。家に残しても一人ですので……」


「ああ、構わねえよ。別に手伝いなんかしなくても、預かるくらいなら訳ねえよ」


「そうか、助かる」


 申し訳なさそうなセアラの申し出をモーガンが快諾すると、アルたちはホッ胸を撫で下ろす。ただし、それには歴とした理由があった。


「まあアンちゃんからも頼まれてんだよ、アルがシルちゃんがいるから登録しねえとか言わねえようにってな」


「……ずいぶん信用がないんだな」


 アルが不機嫌そうに肩を竦めて言うと、モーガンがそれを諌める。


「まあそう言うなって、それほどお前さんの力がギルドに欲しいってことだ」


「……まあいい。それで昨日セアラがミスコンで優勝したのは知ってるよな?」


「当たり前じゃねえか。言っとくがアルとセアラちゃんは町中の噂だぞ?二日に渡って夫婦で優勝するなんて、知らねえ方がおかしいってもんだ」


「そうか、それで副賞の温泉旅行なんだがな、なるべく早めに行ってしまいたいんだ」


「まあそりゃあ構わねえが、なんかあるのか?」


「ああ、恐らくセアラの母親がその付近に住んでいるはずなんだ。俺としては何とか探し出して、結婚の挨拶を済ませたいんだ。頼む」


 アルとセアラが頭を下げると、シルもそれを見て、頭をぺこりと下げる。


「おいおい、頭を上げてくれ。俺としちゃあ断る理由はねえよ。結婚する上できちんと親に挨拶しておくのは大事なことだ。日程が決まったら教えてくれればいい」


「モーガンさん……」


「とりあえず働くのは明日からで構わねえから、旅行の日程を決めちまいな。今日はどうせ暇だろうからな」


 三人はモーガンに促されると、解体場をあとにした。

アルは冒険者として、セアラとシルは解体場で働くことになります。

ちなみに解体場はセアラとシル以外は全員男なので、職場が華やかになり、大歓迎されます。


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