知れわたる二人
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アルたちは結果発表までの時間で、まだ開いている屋台を巡って夕食を済ませる。
ある程度、腹拵えが出来たころ、俄に広場のステージ付近が慌ただしくなったかと思うと、ステージ上に一人の運営委員らしき男性が姿を表す。
「会場の皆様、ステージにご注目ください!ただいまより祭りのメインイベント、本年度のミスカペラを発表いたします!」
拡声魔道具を使用した声が広場に響き渡り、静寂と共に注目が一気にステージへと注がれる。
「それでは発表いたします!本年度ミスカペラは…………エントリーナンバー九十八番セアラさんに決まりました!なんと全投票数の八割を越える得票率と言う異次元の強さでの優勝です」
瞬間大歓声が上がる。
「ママ、やった!優勝だって!」
「セアラ、おめでとう!」
「はい……はい!ありがとうございます!」
シルだけでなく、珍しくアルの声も大きくなる。
セアラは口元を押さえ、目に涙を浮かべながら二人に礼を言う。
「それでは優勝されましたセアラさん、ステージにお上がりください」
「え?あ、じゃ、じゃあ行ってきます!」
わたわたしながらも、アルとシルに手を振って、小走りでステージへと向かうセアラ。ステージ上に上がるとやはり怒号のような歓声が上がり、驚いて回りをキョロキョロ見渡す。
「セアラさん、どうぞこちらへ。まずは優勝おめでとうございます」
司会の男性から拡声魔道具を向けられるセアラ。先程のランウェイとは違い、その顔には深刻な緊張が見てとれる。
「は、はい、ありがとうございます」
「まず今回の衣装やメイクは素晴らしいものでした。これはご自分でされたのでしょうか?それともどなたかがご担当されたのでしょうか?」
「はい、友人のメリッサにお願いしました」
セアラはアルたちの横にいるメリッサに向かって手を振る。
「成程、ご友人ですか。お話を聞いても大丈夫ですか?」
セアラが再度メリッサの方に視線を移すと、とんでもないと言わんばかりに、大きなバッテンを作って、物凄い勢いで頭を振っている。
「えっと……ちょっと人前が苦手なようで、興味がある方はメイン通りの服屋に行っていただければ、店長として働いておりますので」
「そうでしたか、それは残念です。ところで受付をした運営委員から聞きましたが、セアラさんはご結婚されていると言うことですが、本当でしょうか」
「はい、本当です」
その質疑応答で多数の男性が膝から崩れ落ちる。
「そうですか。いやぁ、こんなきれいな女性と結婚できるなんて羨ましい限りですねぇ」
「いえ、私が夫のことを大好きで結婚してもらいましたし、本当に格好良くて、優しくて、素敵な人ですので」
崩れ落ちた男性たちが、地面に拳を叩きつけながら嗚咽を漏らす。
嬉しいことを言ってくれるセアラに、アルはニヤけそうになる表情を引き締めながらも、耳まで赤くしていた。しかしその一方で、セアラが緊張しすぎて訳の分からないことを口走らないかと思い、ハラハラしながらステージを凝視している。
「ちなみにご主人をこちらにお呼びしても?どうやら観客の皆さんも知りたがっているみたいですから」
「ええ、もちろんです!」
「……は?」
アルは突然の展開に、思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。
ここで出ていったら完全に晒し者、先ほど膝から崩れ落ちた男性陣から怨嗟の声を受けることは想像に難くない。
「パパ、行ってらっしゃい!」
「アル君、行ってくるといい。シルちゃんは私たちが見ているから」
「アルさん、早く行かないと!」
「いや、ちょっと……」
「アルさーん、来てくださーい!」
シルとブレットたちに促され、セアラからは大声で呼び掛けられて、もはや逃げ道はない。
ステージ上にはニコニコして、大きく手を振ってアルを待つセアラ。ここで行かなければ、彼女を悲しませることになると、腹を決めてステージ上に向かうアル。
昨日の力自慢コンテストでは大いに目立っているので、当然その姿に見覚えのある者は一人や二人ではない。徐々にざわめきが大きくなる。
「ねえ、あれって昨日の」
「うん、めちゃくちゃ強かった人だろ?」
「あの人が旦那さんなのか」
「うーん、悔しいが……お似合いと言うべきか……」
アルがステージ上に上がると、大きな歓声が聞こえる。
思っていたものと違うと動揺していると、セアラが満面の笑みを浮かべながら、アルの胸に飛び込んでくる。そして困惑しながらもそれを抱き止めるアル。
「セ、セアラ。みんな見てるぞ?」
「いいんです!そのためにミスコンに出たようなものですから」
一切の迷いなく言い切るその姿に、やはりセアラには敵わないとアルは改めて認識する。
司会をしている男性も、昨日のことなので、やはりアルのことを覚えていた。
「いやぁ、セアラさんの旦那さんが、昨日の力自慢コンテストの優勝者アルさんだとは驚きです!夫婦で二つのコンテストを優勝するのは前代未聞の快挙ですね!この素晴らしくお似合いなお二人に、大きな拍手と歓声を宜しくお願い致します!」
大きな拍手と歓声が上がると、司会に促されるままアルはセアラをお姫様抱っこの形で抱き上げ、セアラが観客に向かって大きく手を振る。
そしてそれを見てまたさらに大きな歓声が上がる。
これによってこの日はカペラの多くの人たちが、二人が夫婦であるという認識をした日となった。
表彰式が終わり、アルとセアラが戻ってくるとシルが二人に抱きついてくる。
「パパ、ママ、すごかったね。みんな二人のことお似合いだって言ってたよ!」
「ふふ、ありがとう」
「ああ、ありがとう」
セアラは優勝したことよりも、多くの人からアルにお似合いの妻だと言ってもらえることが嬉しい。
それはアルも同じで、ミスコンで見せたセアラの雰囲気はえもいわれぬものだった。そんな彼女の夫として相応しいと言ってもらえることほど嬉しいことはない。
そしてシルはそんな二人の娘であることが誇らしかった。赤の他人であるはずの自分に優しくしてくれる二人。そんな二人が褒められているのを見るのは、自分のことのように嬉しかった。
「アル君、セアラさんおめでとう。まさか本当に二人とも優勝するとはね」
「「ありがとうございます」」
ブレットの祝辞に二人が声を合わせて礼を言う。
「セアラさん、これで自信を持ってアルさんに相応しいと言えますわね」
「はい、とりあえずはですが。まだまだ家事も仕事も頑張らないといけませんから」
レイラの言葉に気を緩めることなく、セアラがやる気を漲らせる。
「まあ最初からお似合いでしたけどね」
「そ、そうでしょうか?」
「当たり前じゃないですか。いくら他の女性がアルさんに言い寄ったとしても、あんな経験をして結ばれた二人の仲を引き裂ける人なんていないですよ」
「……レイラさん、ヒルダさん、意地悪です」
ヒルダの言葉にセアラは頬を膨らませて、二人を恨めしそうに見る。
「ふふ、ごめんなさい。でも今のヒルダの言葉も、昨日のセアラさんでは信じられなかったのではありませんか?アルさんもセアラさんも互いを誰よりも愛しておられる。端から見れば最初から誰かが入り込む余地なんて、少しもありませんでしたよ?なのにセアラさんはどこか不安そうに見えましたので、少しお節介を焼いてしまいました」
「……そう、ですね。その通りだと思います……私はアルさんに比べたら凡庸で、優れた所があるなんて思いません。だから自分に自信がありませんでした。心のどこかで自分でいいのかなと思っていたんだと思います」
レイラの言葉に触発されるように、セアラがぽつぽつと以前の自らの心の内を確認するように口に出す。
「セアラ……」
「でも……でももう大丈夫です。自信が無いと、うじうじするのは時間の無駄です。そう思うならアルさんに相応しい自分になれるよう、努力すればいいだけですから!」
そこまで言うとセアラはアルに向き直り、曇りの無い瞳でアルを見つめる。
「だからアルさん、改めて言わせてください。私はあなたを愛しています。至らないところもありますが、これからもずっとおそばにおりますので、よろしくお願いいたします」
その思いを受け止めたアルが、セアラをまっすぐに見つめ返す。
「ああ、俺もセアラを愛している。これからもずっと一緒だ、一緒に成長していけばいい。もちろんシルも含めて三人でな」
「はい!」
「うん!」
家族の絆を深めた三日間の祭りはこうして幕を閉じた。
というわけで二人の存在がカペラの中で大きく知れわたりました。
とりあえず今回で第二章は終わりです。
第三章はアルの冒険者話など、少し日常的な感じになります。
それでも本編に絡む話ですので、よろしければ読んでやってください。
繰り返しになりますが
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