二人ならば大丈夫
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目の前で繰り広げられている会話に完全に置いてけぼりのメリッサ。
とはいえ目の前にはどう見ても貴族の一家にしか見えない三人。
そんな三人と普通に話すアルとセアラが異常なのであって、普通は一般市民と貴族は気さくに会話などできるような間柄ではない。
「そう言えばそちらのお嬢さんは?」
「は、はい。初めまして、メリッサと申します。セアラの友人で今回のミスコンでは、彼女のスタイリストを務めさせていただいております」
メリッサの自己紹介を聞いて、レイラとヒルダが目を輝かせて、ずいと前に進みでる。
「まあまあ!?そうだったのですか!?セアラさんのお化粧、とても素敵でしたよ!」
「ええ、お母様の言う通りです。是非ともご教授いただきたいものです!」
「きょ、恐縮です……」
ファーガソン家の三人は決して偉ぶることなく、メリッサに接してくれているが、一言返すのが精一杯だった。
「失礼、自己紹介がまだだったね。私はアルクス王国の辺境伯ブレット・ウィル・ファーガソンだ。こちらが妻のレイラ、娘のヒルダ。よろしくね」
「は、はい。こちらこそよろしくお願い致します」
「それでメリッサさんは、この町でお店でもされているのですか?」
「はい、この町の服屋で雇われ店長として働いております」
「そうでしたか、お店のお名前教えていただいてもよろしいですか?また伺いますので」
「え?は、はい。分かりました……」
メリッサの働いている店は、典型的な大衆向けのものであり、とても貴族の人間が来るような店ではない。それでも貴族から教えてくれと言われて答えないわけにはいかず、恐縮しながら答える。
「しかしスタイリストさんまで付いているなんて、なかなか本格的じゃないか」
「あ、はい、友人の力になりたかったので……」
先程までの勢いが嘘のように殊勝なことを言い出すメリッサに、アルたちは思わず苦笑する。しかし、恐縮しきりのメリッサが少し気の毒になったのか、セアラが会話に割って入る。
「メリッサは本当に良くやってくれてます。正直なところ分からないことだらけで、私一人ではどうにもならなかったと思いますので」
事実セアラだけでは服を選んだりするのにも四苦八苦しただろうし、審査員受けするメイクなどはまるで分からなかった。そもそも水着審査があることすら見落としていたのだから、メリッサの協力を得られたことは、紛う事なく僥倖だった。
「ええ、セアラさんのお姿を見れば良く分かります。きっと本選にも進まれると思いますから、楽しみにしておりますね」
「ところでアル君、私たちも一緒に見ていてもいいかい?」
「ええ、もちろん、構いませんよ」
「ありがとう、それにしても夫婦で二つのコンテストを優勝したら史上初の快挙だね」
「そうしますと一躍、町の名物夫婦になってしまいますわね?」
「あ……そうですね……」
レイラの言葉にアルははっとする。あまり目立ちたくないと思っているアルだが、もしそうなれば自分とセアラに手を出そうと考える輩はいなくなるのではないかという思いに至る。
「セアラ、俺たちのために頑張ってくれ」
いきなりアルに両手を握られて、セアラは驚きのあまり目を白黒させるが『俺たちのため』と言ってくれたのが嬉しくて、思わず破顔する。
「はい、必ず優勝しますから!」
「ママ、頑張ってね!」
「うん、シルも応援してね」
「うん!ママに聞こえるように、大きな声で応援するから」
「あ、セアラ、予選の結果が出たみたいよ」
祭りの運営本部に大きな紙が貼り出されて、回りには出場者とおぼしき人垣が形成されていた。アルは緊張した面持ちのセアラが、なかなか動けないでいるのを見かねて、声をかける。
「セアラ、大丈夫か?俺が見てこようか」
「あ……アルさん、大丈夫です。私も行きます」
「私も行く!」
アルの言葉に背中を押されて、セアラが覚悟を決めて結果を確認しに向かう。
背の低いシルが埋もれないよう、アルが抱き抱えて、セアラはアルに寄り添うように進んでいく。アルは未だ緊張と不安に押し潰されそうなセアラの表情を見て、シルを右腕一本に抱え直すと左手を差し出す。
「セアラ、手を繋ごう」
「あ……はい、ありがとうございます」
セアラがその手を取ると、冷たくなっていた手にアルの体温が伝わり、ガチガチだった表情が少し柔らかくなる。
「……あったぞ、九十八番」
「え?あ!本当!」
「ママ、良かったね!」
「うん、ありがとう!」
三人はほっとして笑い合うと、メリッサたちのもとへと戻る。
予選を通過したと告げると、ファーガソン家の三人は喜んでくれるが、メリッサだけは腕組みをして、まだまだ勝負はこれからだと気を引き締めていた。
「次の審査は何なんだ?」
「ええっと……水着……審査です」
顔を赤らめながら発せられたセアラの言葉にアルが嘆息する。しかしセアラが決心してそれを応援すると決めた以上、ここで萎えるようなこと言うのは野暮と言うもの。言うべきことは唯一つだけ。
「セアラ、ちゃんと見てるからな。シルと一緒に応援している」
「……はい、見ていてください。頑張ります」
そんな二人の様子を見てメリッサが、サムズアップしながら口を挟んでくる。
「大丈夫ですよ、ちゃんとアルさんのことを考えて、あまり露出が激しくないものにしましたから」
「そうか、しかしそれで大丈夫なのか?」
「大丈夫です、セアラのスタイルはしっかりと分かるようになってますから」
「……そうか」
アルは自身の考えと、メリッサの考えには大きな乖離があると認識するが、もはや手遅れだった。
「楽しみですね、お母様」
「ええ、そうね。あなたはあまり鼻の下を伸ばさないようにしてくださいね」
「……レイラ、それは少し酷くないか?」
「あら、あなたが水着審査で鼻の下を伸ばすのは毎年のことじゃないですか」
「……善処する」
夫婦漫才のような掛け合いを見せるブレットとレイラの様子に、セアラは緊張が解れたのか、強ばっていた頬をふっと緩める。
「セアラ、控え室に行くわよ。化粧直しもしないといけないから」
「あ、うん。じゃあアルさん、シル、行ってきます」
「ああ、頑張ってな」
「ママ、行ってらっしゃい!」
メリッサとセアラを見送ると、シルが心配そうな声を漏らす。
「ママ、大丈夫かな?」
アルはそんなシルの頭を撫で、優しく語り掛ける。
「ああ、大丈夫だよ。セアラはやると言ったら絶対やる。俺と結婚すると言って、本当に結婚したくらいだからな」
「え?ママがパパと結婚するって言い出したの?パパからじゃなかったの?」
シルには心底意外だったようで、驚いた表情でアルを見上げる。
「そうだぞ、それでまだ結婚していないのに家に住み出すんだからな。俺がダメだと言っても聞かないし困ったよ」
「ふふふ、じゃあパパよりママの方が強いんだね」
「そういうことになるな。だから心配しなくていい。セアラなら大丈夫だ」
「うん、分かった!」
二人の本当の親子のような様子を、ブレットとレイラは微笑ましく見ていた。娘を持つ二人だからこそ、アルとセアラが単なる憐れみではなく、愛情を持ってシルに接していることが分かる。
二人はアルとセアラがシルを引き取って育てると聞いたときには半信半疑だった。まだ新婚の、しかも二十歳にもならない二人が、いきなり十歳ほどの子供の親になると言うのだから心配しないわけがない。事と場合によっては自分達が引き取ってもいいと思っていた。
それでも二人のシルに対する愛情と、シルの二人に対する信頼を見て、それは要らぬお世話だったと認識する。きっと二人ならば、シルを愛娘のように育てるだろうと思えた。
「アル君とセアラさんなら心配要らないみたいだな」
「ええ、そうね」
「お父様、お母様、なにを二人で話してるの?」
こそこそと話している二人にヒルダが近寄る。
「アル君とセアラさんは私たちが思うよりも、ずっと大人だってことさ」
「それだけ辛い思いもしてきた、ということですけどね」
「ああ、そうだな。二人にはこのまま幸せになってもらいたいものだ」
二人からすれば親子ほど年の離れたアルとセアラ。その幸せを願ってやまないブレットとレイラだった。
アルとセアラにとって、シルの存在は段々と大きくなります
子は鎹、二人を今以上に強く繋ぐ存在になっていきます
前書きでも書きましたが、ブックマーク、評価ありがとうございます!
投げ出さず書くつもりではありますが、応援があると本当に助かります!
昼にもう1話更新します!