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セアラの決意

本日2話目です!

ブックマーク本当に有り難うございます!

 徐々に空が白み始める頃、アルが目を覚ます。

 移動した覚えがないのにも関わらず、何故かベッドで寝ていることに驚くが、横でセアラとシルが眠っていたので、声を出したりはしなかった。そして二人を起こさないように、ベッドからゆっくりと降りる。


 二人が寝ている間に、手早く風呂を済ませるアル。時刻は六時を回った頃だったが、既に通りにはちらほらと人が出てきていた。


 昨日の朝はセアラに一人で朝食を用意させてしまったので、今日は自分がと思いアルが準備を始める。

 メインの皿は腸詰め肉のボイルと目玉焼き。六月も半ばに入り気温が高くなってきたので、スープはガスパチョを作る。

 この世界では年間を通して、地球の北半球のような気温変化が起こる。ちなみに一ヶ月は三十日で、一年は十二ヶ月だ。

 カペラでは日本ほどはっきりとした四季はないが、それでも八月頃がもっとも暑くなる。

 あとはパンを用意すれば完成というところで、タイミング良くセアラとシルが起きてくる。


「アルさん、おはようございます」


「パパ、おはよう」


「ああ、おはよう。朝食出来てるぞ」


「わ、真っ赤なスープですね、トマトですか?」


 セアラは興味津々といった様子で、ガスパチョをまじまじと見ている。


「トマトの冷製スープだ。最近大分暑くなってきたからな」


「アルさん、また作り方教えてくださいね」


「ああ、今度一緒に作ろう」


「私も一緒に作りたい」


 二人の様子を見て羨ましくなったのか、シルが話に割って入ってくる。


「そうだな、三人で作ろう」


「うん!」


「ふふ、良かったですね、シル」


 アルに頭を撫でられ、気持ち良さそうに目を細めているシルを見て、セアラが頬を緩ませる。

 そして三人は朝食を取りながら昨夜の話をする。シルが魔法を覚えていること、アルがダイニングで寝ていたこと。もちろんアルがセアラに抱き抱えられて、ベッドまで運ばれたことも話題に上る。


「……セアラ、すまなかったな」


 表情を変えないように努めてはいるが、顔を赤くしてセアラに謝るアル。


「いえいえ、お気になさらないでください。またやりたいくらいです」


 いつものニコニコ顔で言うセアラだったが、アルは二度とベッド以外で寝ないようにしようと心に誓う。


「ところで、シルは魔法はどれくらい使えるんだ?」


「生活魔法くらいだよ」


「そうか……生活する上で便利だから、ということか」


 そうなると、まず間違いなくシルにそれを教えた存在がいると言うことになる。

 シルにかけられていた呪いは簡単に解呪出来たことから、悪意がなかったのではとアルは考えていた。

 つまりシルに魔法を教えたものが、シルのためにかけたという可能性もあり得る。


「アルさん?どうされたのですか?」


「ん?ああ、セアラにも魔法を教えないとと思ってな」


 アルは自身の考えを悟られぬよう、話題を逸らす。アルの予測は恐らくシルにとってはあまり良い話ではない。


「ママは魔法使えないの?」


「うん、そうなの。だからアルさんに教えてもらうのよ」


「じゃあ私も一緒にママに教えたい!」


「そうだな、折角だからそれも三人でやろう」


「はい、お願いします、アルさん、シル」


「うん!私、頑張る!」


 シルはセアラの役に立てるのが嬉しいようで、鼻息荒く、拳を突き上げてやる気を漲らせている。

 微笑ましいその姿に、アルは頬を緩ませ、セアラはコロコロ笑う。

 食事と片付けを終えた三人は、少し時間を潰した後、シルの服を買いに行く。三人が向かったのは、最初にセアラの服を買った場所。その後も何度か訪れているので、雇われ店長のメリッサとセアラはいまや友人となっていた。


「こんにちは!メリッサ、いるー?」


 セアラが店に入って友人の名前を呼ぶ。この時初めてアルは、セアラが友人には気さくな言葉遣いをすることを知る。

 出来るようになったのであれば、自分にもそうしてくれればいいのにとアルは思うが、それを言い出しても拒否される予感と共に、何となく今のままが心地よい気もしていた。


「ああ、セアラ、いらっしゃい。旦那さんもお久しぶりですね……えっと、こっちの可愛い子は?」


「シル、ご挨拶なさい」


「うん、初めまして。シルといいます」


 シルがメリッサに向かってペコリと頭を下げる。


「あらあら、ご丁寧にどうも。私はメリッサよ。この店の店長でセアラの友達なの」


「実は事情があって私たちが引き取ることになったの。それでシルの服を探してて」


「ええ!?まだ新婚なのに、ずいぶんと思いきったことするわね……まあいいわ、じゃあ普段着でいいのよね?」


「うん、お願い」


 メリッサに連れられて三人は子供服売り場に向かう。

 子供服売り場の中でも人用と獣人用でコーナーが別れており、もちろん今回は獣人用だ。

 シルは猫獣人ではなくケット・シーになるのだが、それを一目で看破できるような者はそうそういない。

 魔法が堪能なものであれば、意識してシルを見れば分かる者はいるかもしれないが、普通は気にも止めないので心配する必要はない。逆に一目で看破できる者であれば、詳しく話を聞きたいくらいだった。


「それにしてもシルちゃんはきれいな銀髪ね、私初めて見たわ」


「確かに珍しいよね」


 セアラが少し焦るが平常心を保つ。事前に普通にしていれば大丈夫だとアルから言われていた。猫獣人に銀髪がいないというのは悪魔の証明で、言い切れるような者はいない。


「うーん、素材がいいから迷っちゃうわね。でも銀髪で色白だから黒系の服が良く似合いそうだわ」


「確かにそうよね、シルは黒い服はどう?」


「パパの髪と同じだから好きだよ」


「……ああ、ありがとう」


 ぼーっと三人を眺めていたところに、突然水を向けられて驚くアルだったが、嬉しい言葉を言ってくれた娘に頬が緩む。

 その後シルの服は黒系統を中心に選ぶ。逆に白系統はあまり似合わず、本人も微妙な表情を浮かべていたので買わなかった。

 買い物が終わるとセアラはついでに相談したかったことを、メリッサに尋ねる。


「ねえメリッサ、ミスコンってどんな服で行けばいいの?」


「え?もしかしてセアラ、ミスコンに出るの?」


 なぜかメリッサの目が鋭く光る。


「うん、一昨日出るのを決めたんだけど、どうしていいか良く分からなくって……」


「何で今さら言うのよ!出ることが決まった時点で相談しなさいよ!」


「え?う、うん。なんかごめん……?」


 いきなり怒り出すメリッサに、セアラだけでなくアルとシルも驚く。


「ふう……幸い時間はまだあるわ。私があなたを優勝させてあげるわ!」


「……何でメリッサがそんなに熱くなるの?」


 三人の疑問をセアラが代表してメリッサにぶつける。


「だって私は絶対セアラなら優勝できると思ってたのよ!だけどそんなのに出たがる性格じゃないから遠慮してたの。そうしたらいきなり出るって言うじゃない?これぞ僥倖、渡りに船よ!」


「そ、そう……」


 いまいち理解に苦しむといった様子のセアラを見て、メリッサが苛立ちを見せながら続ける。


「いい?ミスコンに優勝する女性の服を選ぶなんて、服屋に勤める者としてこれ以上無い名誉なわけ。宣伝効果は計り知れないってこと!!だからセアラのスタイリストは私ってことでいいかしら?」


「う、うん。お願いします……」


 断りでもしたら何か大変なことが起こりそうな勢いなので、セアラは了承する。どのみち他に頼れる人もいないのだから、助かるのは確かだった。


「ところで本選は水着審査もあるけど、用意した?」


「え……?」


「……セアラ、止めよう。出なくていい」


 アルからすればセアラの水着姿を衆目に晒すわけにはいかないので、何としてでも出場は取り止めねばならない。

 しかしそんなアルにメリッサは黙っていない。


「旦那さん、いえ、アルさん。セアラが一番きれいだということを証明しなくてもいいんですか?」


「しなくていい、それは俺だけが知っていればいいことだろう?わざわざ他のやつに見せる必要は無い」


「むむ……」


 アルの直球過ぎる物言いに、さすがのメリッサも言葉を続けられない。ちなみにセアラは横で顔を赤くし、シルはアルに尊敬の眼差しを向けている。

 もはやミスコンの存在意義を全否定する発言に、形勢は決まったと思ったその時、セアラが宣言する。


「……アルさん!私出ます!必ず優勝しますから!」


「セアラ……」


「私がアルさんにふさわしい妻だと、カペラの町のみんなに知ってもらいますから!」


「……?どういうことだ?」


「昨日のコンテストでアルさんに言い寄る人がいるかもしれません。ですので私がふさわしいと証明して見せますから!」


 セアラはアルに心配要らないと言われても、昨日レイラとヒルダに言われたことを気にしていた。しかしミスコンで優勝してしまえば、自分がアルの妻だと自信を持って言えると考えていた。

 そんないじらしい妻の決意を聞いてしまったからには、もう口を挟むことはできない。


「……分かった。シル、一緒にママを応援しよう」


「うん!」


「ありがとうございます。アルさん、シル!」


「そうと決まれば準備開始よ!!」

セアラは自分を過小評価しがち

アルは最初からそうですが、基本的には尻に敷かれるタイプ


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