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お父さんとお母さん

「あの……アルさん……この拷問はいつまで続くのでしょうか……?」


「分からん……分からんが、シルが楽しそうにしている以上は……」


「わぁ〜!!みんなありがとぉ〜!!ほら、パパとママを手を振らなきゃ」


「ああ……」「ええ……」


 シルを真ん中に据えて、これでもかとばかりに装飾された馬車に乗った三人が、カペラの町を周り始めてはや一時間。立ち上がったシルは大はしゃぎでぶんぶんと手を振っているが、座ったままのアルとセアラは顔を引きつらせて手を軽く上げるのみ。

 ちなみにセアラは着替えることを許されず、シルのコスプレをしたままの状態。その事がより一層、セアラの羞恥心に拍車をかけていた。


「シルちゃーん、誕生日おめでとう!!」


「おめでと〜!セアラさん、よくお似合いですよ〜」


「あうぅっ……恥ずかしい……姿を消す魔法を使いたい……」


 街頭から飛ぶ声に、シルはピースサインを作りセアラは堪らず両手で顔を覆って赤面する。


「ま、まぁ俺もよく似合ってると思うから……」


「それは全然フォローになってないです……」


 恨めしそうに指の隙間からアルを見るセアラ。


「ねぇママっ!もっとお顔をみんなに見せて欲しいなっ!!」


「わっ、ちょっとシル?」


「私とママ、みんなにはそっくりに見えてるのかなぁ?そうだったら嬉しいなぁ」


 強引に手をどけてにっこりと微笑むシル。セアラは困惑の表情を浮かべた後、すぐにそれを引っ込め柔らかく微笑み返す。


「……ええ、きっとそう見えていると思うわよ」


「ああ、俺が保証するよ。二人ともそっくりだよ」


「ふふっ、よかったぁ!……今日……お父さんとお母さん、来て、くれるのかな……?」


 ぼそりとシルがつぶやく。

 シルが言うお父さんとお母さん、それは実の両親であるレイとローナ。シルの希望を聞いた上で、アルとセアラからぜひ来て欲しいと連絡をしたものの、今日に至るまで色良い返事は得られていなかった。

 シル自身は既にアルとセアラという帰る場所があることから、二人に会うことにそこまで抵抗は無い。しかしレイとローナはやむを得ずとは言えシルを捨てた自責の念から、どうしても一歩引いてしまうきらいがあった。


「……大丈夫よ、レイさんもローナさんもシルのことが大好きだもの」


「……うん、だといいな」


 健気に寂しさをかみ殺して手を振り続けるシルに、セアラは月並みな言葉しかかけられない。それでもシルは母親の気持ちを察して歯を見せニカッと笑ってみせる。

 その痛々しさすら感じさせる笑みから逃れるように、アルが徐々に見えてきた終点となる中央広場へと視線を移す。


「シル、前を見てごらん」


 何かに気付いたアルの優しい声色に導かれ、シルが視線を前に向けると男女の猫妖精ケット・シーが大きく手を振っているのが見えてくる。


「あっ……お父さん……お母さんも……」


「良かったね、シル」


「うん……ありがとう、パパ、ママ。お父さんとお母さんを呼んでくれて」


 かすかに涙を浮かべながらぺこりと頭を下げるシル。


「ああ、どういたしまして」


「はい、どういたしまして」


 アルとセアラはシルが望むのであれば、生みの親である二人に会う権利は当然有るものだと思っている。それゆえにお礼を言われるようなことではないと思ってはいるが、シルの気持ちを尊重し、そっと頭を撫でる。


ーーーーーーーーーー


 まずはアルとセアラ、レイとローナが挨拶を交すと、アルが後ろに隠れるようにしていたシルを抱え上げ、二人の前に着地させる。


「誕生日おめでとう、久しぶりだね、シル」


「おめでとう、シル。元気にしてたかしら?」


「あ、ありがとう!うん、元気だったよ。えっと……お父さんとお母さんも元気そうだね?」


 さすがのシルも緊張の色は隠せない。いつもの天真爛漫さはすっかりとなりを潜めて、もじもじしながら上目遣いでレイとローナを見る。


「ええ、ソルエールでは本当に良くしてもらってるわ。少しづつだけど、ほかの妖精族や町の人達とも交流が出来てきてきたりしてね」


「そ、そうなんだ……」


 重苦しい雰囲気ではないが、沈黙が流れる。周囲も気を遣って誰も話しかけようとはしない。


「……そういえばそろそろ昼時ですね?」


「ええ、立ち話でもなんですし、せっかくですから屋台を見て回りませんか?」


 血が繋がっているとはいえ、複雑な事情を持つ親子。互いに会いたいと望んでいながらも、いざ顔を合わせるとなかなか会話が続かない。

 そんな状況を見兼ねたアルとセアラの助け舟に、シルたちが縋り付くのは当然のことだった。

更新遅くなってすみません。

色々と忙しいのですが、どうにか週に一回は更新出来るよう頑張ります。

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