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二人のようになりたい

 小一時間ほどミスリル鉱山で過ごしたアルとセアラは、今も宴会が催されている街の中心の広場へと戻る。

 するとジュリエッタの母親で、マルティンの妻、エリカ・アルデランドがアルの左腕に抱きつきながら、再会を喜ぶ。


「ユウちゃん久しぶりねぇ〜、心配したわよ〜?」


 そのまま『大きくなって〜』と背伸びをしてアルの頭を撫でるエリカ。

 普段であればセアラがむくれるところではあるが、そこに艶っぽい雰囲気は微塵も無く、ただただ子供の成長を喜ぶ親のような様相だった。


「お、お久しぶりです、エリカさん。今はアルですので、そのように……あと大きくはなっていないですし、ちゃん付けは流石に……」


「あら、そうだったわね。ついクセで、ごめんなさいね、アル《《ちゃん》》」


 エリカの目から、ちゃん付けは絶対に譲らないという強い意志を感じると、アルは小さく嘆息し受け入れる。


「……いえ。ヴェンデルさんもご無沙汰しております。先程は失礼致しました。改めて紹介させてください。私の妻のセアラです」


 既に顔は合わせているが、アルの紹介で礼をするセアラ。その優雅な一連の振る舞いに、元々貴族令嬢であったエリカですらも、思わず見惚れてほうっと溜息を漏らす。


「ああ、元気そうでなりよりじゃよ。それに……どうやら良き伴侶にも恵まれたようじゃな」


「ええ、本当にお義父様の言う通り。ただの美しいご令嬢じゃ不安だったけれど、しっかりと芯の通った女性で安心したわ。セアラちゃんならアルちゃんを任せられる、今もとっても幸せそうだもの」


 親目線のような二人のもの言いにアルは苦笑し、セアラはいつものニコニコ顔で『ありがとうございます』と頭を下げる。


「じゃが、そうなると……」


 ヴェンデルがちらりとジュリエッタに視線を送ると、ジュリエッタはこくりと頷き、ヴェンデルの前に進みでる。


「お爺様、もしも私がアル様と結婚すれば、きっと私を無下に扱うこと無く、大切にしてくれるのでしょう。ですが私はそれでは嫌なんです」


 ジュリエッタは両手を胸に当て、少女らしくニコリと微笑む。


「アル様のことをお話するセアラさんを見ていて、本当に羨ましいと思いました。心から恋をしてみたいと思いました。あんな風に誰かのことを想い、そしてその方からも想っていただくことが出来たのならば、どれだけ素敵なことだろうかと思いました。ですから誰かに決められた相手などではなく、私自身が好きだと言える方と寄り添って生きたいと、今はそう強く思っています。アル様とセアラさん、そして大好きなお父様とお母様のようになりたいと」


「……ジルっ!」


 感激した様子のエリカがジュリエッタをぎゅっと抱きしめ、ワシャワシャと頭を撫でる。


「お、お母様?」


「嬉しいわ、貴女が私たちみたいになりたいと思ってくれるなんて……いつも仕事ばかりで寂しい思いをさせてしまってごめんね」


「……いいんです、働いているお母様は格好良くて、いつだって私の憧れです……だからお父様とお母様が恋愛結婚だと聞いて、本当に嬉しかったんです。今夜はお父様との馴れ初めを教えてくださいね?」


「ええ、いいわよ。でも一晩で語り尽くせるかしら?」


 二人が顔を見合わせて笑う。ヴェンデルはその様子を見ながら、伸びた顎髭をさすり静かに頷くと、アルとセアラに向かって頭を下げる。


「アル、要らぬ気を使わせてしまったな。セアラさんにも不快な思いをさせてしまったであろう?済まなかった」


「いえ、私のことを心配しての事だったのですから、謝っていただく必要なんて有りませんよ」


「不快だなんてそんな、元より夫が私以外の方と結婚する心配はしておりませんでしたので、お気になさらないでください」


 セアラの自信に満ち溢れた笑みに、ヴェンデルは目を丸くすると、体を仰け反らせ豪快に笑う。


「ふはははっ!!そうかそうか、女性に使う言葉ではないかもしれんが、セアラさんは豪胆であられるようだ」


「うふふ、それくらいどっしり構えていないと、英雄の妻なんて務まらないわよねぇ?」


「ええ、それはもう」


 にこやかに返答するセアラ。アルが『どっしり構えるとは?』とでも言いたげに首を傾げると、セアラから脇腹を肘で軽く小突かれる。


「え、ええっと、ところであの三人は?」


 慌てて話題を逸らすアルに、エリカはクスクスと笑うが、ヴェンデルは気付かないふりをして咳払いをする。


「心配は要らんよ、今は取引再開に向けた話し合いをマルティンとしておる」


「それでは……」


「うむ、正式な決定は議会に諮ってからにはなるが、今回のミスリル鉱山の功績とエドガー王のこれまでの実績を鑑みれば、問題ないであろう」


「そうですか」


 アルがホッとした顔を見せる。無理やり巻き込まれただけのアルにとっては、本来気にする必要のない事。それにも関わらず安堵する様に、ヴェンデルは懐かしさと呆れを含んだ視線を向ける。


「お主は変わらぬな……あのような目に遭っても、英雄と呼ばれるようになった今でも変わらず甘いままじゃ」


「……いえ、さすがにあの時は変わりましたよ。何の夢も希望も持てずに、似合いもしないペシミストを気取って……そんな面倒な私に向き合って、こうして変えてくれたのがセアラですから。なのでやはり私にとってセアラは……」


「かけがえのない特別な存在で、大、大、大《だ〜い》好きな人だから、他の誰かと結婚するなんて有り得ない、かしら?」


 照れ臭さからアルが少し口ごもると、エリカがニンマリと笑い、わざと誇張した表現を使って尋ねる。


「……ええ、そうですね。その通りですよ。これから先もそれは変わらないと思います」


「愛されてるわねぇ、セアラちゃんは。これじゃあ確かにジルの入り込む余地なんて無いわよね」


「はい、お二人は本当にお似合いだと思います!とっても素敵です!」


 興奮気味のジュリエッタが両拳を握って熱弁を振るうと、セアラは優しくその髪を撫でる。


「ありがとう、ジュリエッタさん。いつか素敵な人が現れるといいですね」


「はい!」


「でもね、ジル。これからの時代、女だって待ってるだけじゃダメよ?チャンスを逃がさないように、日頃の努力を怠らないようするのよ?」


「はい、お母様やセアラさんのように素敵な女性になれるよう、頑張ります!!」


 やる気を漲らせて高らかに宣言するジュリエッタを、大人たちは微笑ましく眺めるのだった。

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