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007

「はい、めでたしめでたし!」


 ぱたり、と絵本を閉じて青年は宣言する。


「これで『追放された裁縫師』のお話はおしまいでーす! みんな、どうだったかな?」


 彼は駆け出しの冒険者だが、冒険者組合の地域振興活動の一環として、地域の子供達に絵本の読み聞かせを行っていたのだ。

 戦闘や探索の腕はまだまだだが、集団を指揮するタイプの職を持っていることもあり、子供の扱いはお手の物だ。


 周囲に集った少年少女は口々に感想を述べる。


「ホウホウうるさい」

「語彙に無理やり感がない?」

「の方、の方、って多すぎるでしょ」


 やっぱり気になるよなぁ、と青年は思う。

 この絵本を書いたのは彼の知人だが、恐らく「追放された裁縫師」という言葉の響きに、何か感じ入る物があったのだろう。

 駄洒落じゃないか、とか、そのような。


「文体の件は俺も同意する。それ以外だと、何かあるかな?」


 延々と続く文体への文句を断ち切るように、そう尋ねる。


「シャンに救いはないの?」

「流石にヒツジ肉で腕が生えるのは無理があるでしょ」

「西方の至宝のワルメアって、実在の人じゃない? 訴えられない?」


 次々に飛んでくる質問に、青年は一つずつ回答した。


「シャンさんは強制奉仕を満了した後、ダウジングで石油を掘り当てて大富豪になって、奥さんと子供に囲まれて幸せに暮らしてるよ」

「めっちゃ救いあったね」


 ついでに言えば、この『追放された裁縫師』の絵本を書いたのもシャンだった。脇役なのに微妙に出番が多いのも仕方ないと言える。


「ヒツジ肉で腕が生えたのは事実らしいよ」

裁縫師(テイラー)こっわ……」


 青年の知るゴメスの腕は、普段は反対の腕と比べて大きな差はないが、定期的に剃らなければ、ふわふわの腕毛が生えてくる。

 物心つく前は、腕に抱かれたままその毛を引っ張るのが好きだった、と青年は何度も両親に聞かされた。


「ワルメアさんには、というか登場人物には皆許可を取ってるから大丈夫」

「へえー、すごい……というか、あれ、これって本当にあったお話なの?」

「そうらしいよ」


 青年の言葉に、少年少女はざわめいた。


「いや裁縫師こっわ……」

「非戦闘職ってすごいんだね」


 その反応に、青年は満足げに頷く。

 どうやら青年の思惑通り、非戦闘職冒険者の株を上げることにも成功したらしい。

 羊飼い(シェパード)という職が冒険者らしくないと侮られたことで、その感性を払拭すべく、私物かつパイロット版の絵本を読み聞かせたのだが――身内の恥を晒した甲斐はあったと言えよう。


「ねえ、羊飼いって何ができるの!」

「石をパンに変えられる?」

「スリングで巨人族に勝てる?」


 少々期待が膨らみ過ぎている気もするが。

 青年は、ただ苦笑いでそれに返した。



<了>

お付き合いいただき、ありがとうございました。

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