魔法の使えない無能令嬢、趣味にかまけてたら踏み倒される
誰かの目に止まる作品でありますように
「待ってくれ!王国を見捨てるのか?」
私が拠点を移す事を聞きつけたのか、姿を見せたスタイン殿下が叫ぶ
「見捨てるも何も拠点を移すだけですわ」
「どうして、なぜだ?」
「あらあら、おかしな事をおっしゃられる、ご存知のはずですよ?分割払いの報奨金、支払いが一方的に打ち切られましたの」
悲しそうに俯いてみせる
「そんな馬鹿な!?」
「王の確認を取らずに官僚が先走って物事を決める?絶対王政のこの国においては許されることではありませんよね?」
つまり王が指示、もしくは承認して支払いの約束を破ったという事に他なりません
若干、やらかした自覚がないわけでもないので強くも出れませんが安く受けすぎましたねぇ、魔王討伐
ほぼ定期的に現れる新魔王
美味しいご飯が食べたい私
両者の利害が一致して?ほぼ毎回狩りに行く私
予算の都合なのか、魔王討伐が簡単なものだとの認識になったのか、どんどん下がる懸賞金
気にせずに狩り続ける私
そして、いつの間にか魔王討伐の懸賞金が当初の二十分の一程に値下がりしていました
何度目かの魔王退治後に、アテローラ王国が分割払いとなっている虎系魔王討伐の報奨金の支払いをごね出します
あ、アテローラ王国ってのはスタイン殿下含む旧知の王族が治める国、私が元貴族令嬢してた国、つまりこの国の事ね
そしてつい先日、報償金を受け取りに行った際に宣告されました
『当初の基準となる報奨金が高過ぎた。ゆえに再査定し、それに基づいて計算すると既に魔王バトラ討伐の支払いは済んでいる事になる。よって、これ以上の支払いは拒否する』
との事でした
遂行された契約を後から片方の当事者が一方的に変更するとか、ありえないんですけど!!!
茫然としていると、そのままお城を追い出されてしまいました
気を取り直してこれから討伐に行く予定の鬼系魔王の討伐報奨金の値上げ交渉をしたところ
『嫌なら受けなきゃいい!いずれ他の人間が倒してくれるから、貴方でなきゃいけない理由なんてこちらには無いんだから』
という、ありがたい言葉をいただいて拠点を移す決心がつきました、ありがとう屑供
こんな所にいたら、クズ根性が移ってしまいますわ
「引き止めたいのであれば、約束の報奨金の残りを一括払い。あと違約金、慰謝料、耳を揃えてお支払いいただけますか?」
「なっ!」
「ステイン殿下、支払う必要なんてありませんよ」
絶句するステイン殿下の背後から甲冑を着込んだ騎士が姿を表す
「デモナ将軍!!」
「白面の魔女殿、このまま旅立って二度と王国にお戻りならないで頂きたいものですな」
「あら、そのつもりですけど?でも、どうするかはこちらの自由ですわ」
いずれは姿を表すとは思っていましたけど、予想より早いですね。てっきり王都を出た後の森の外れ辺りだと見当を付けていたのですけど
懸賞金の支払いを断られて城から宿に戻ったら鏡台の上に置いておいた装備品の『特製の仮面』が無くなっていたんですよね
無理矢理侵入した形跡が無かったので合鍵を使っての侵入、宿屋に命令を下せる立場の人間だとは予想していたのですが、騎士様でしたか
「相変わらずの強気なご様子、くっくっく。いつまで続くか楽しみですな」
これ見よがしに右手に持つ『特製の仮面』を見せつけてくる
「聖女様も不安がられておられるのですよ。王国に戻らないと神前にて誓って頂きたい。ですが、何やら不満げな様子ですので、神前決闘といたしましょう!いかがですかな?」
神前決闘、それはお互いの正義を掛けて神前にて闘う事をいう
勝った方が正義。そして事前に神前にて宣誓した約束を守らせる
これは神聖なものとされ、勝者は絶対であった
「今からですの?」
「何かご都合が悪い事でも?」
デモナ将軍の右手を見つめながら答える
「いえ、別に構いませんわ。些末な事はさっさと済ませましょう」
ニコリと微笑む、最後だからね大盤振る舞いしてあげる
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着いた闘技場の観客席は既に満席でした
道理で街通りの人影が少なかった筈です
予め準備していたという事ですね
「どうかいたしましたか?」
「いえ、用意が良いなと感心していましたの」
「ははは、戦いとは準備が要なのです。戦う前から勝敗は決しているのですよ!」
「あら、気が早いですわね、もう勝った気でいらっしゃるの?」
「仮面なしでどこまで戦えるのか楽しみにしてますよ、くっくっく、あっはっはっ!」
「将軍!そろそろ時間です、よろしいかな?」
「ああ、始めてくれたまえ」
「互いの正義を掛けて神の慈悲の前に勝負を行います!各自宣誓を!!」
神官の神への宣言の元に神前決闘が始まり、観衆が盛り上がる
そして最初にデモナ将軍が宣誓する
「我が勝利の暁にはここにいる『白面の魔女』の王国からの追放を!!」
うおおおお!!
観客席が地鳴りの様に響きました
次は私の番ですね
「私が勝利の暁にはデモナ将軍の四肢一本に付き、金貨10万枚を頂きます!!」
「「「「えっ?」」」」
「ですから、腕と足、それぞれ一本につき金貨10万枚としてお支払いして頂きます。拒否した場合は四肢を奪います、それを治療した場合は同罪としてその方の四肢も奪います、もちろん治療指示を出した方も同様ですわ」
満面の笑みで微笑みます
貰い損なった虎系魔王討伐代金はデモナ将軍から代わりに頂きますね
ぶうぶう!!会場全体が震えています
「そんな理不尽がまかり通るとでも思っているのか?」
「あら?条件が合わない様ですので、この神前決闘は無かった事でよろしくて?では、ごめんあそばせ」
くるりと背を向けると出口へ歩き出す
どうせ引き止めるんでしょうけど
「将軍!!」
貴賓席から声が掛かる
その瞬間に固まっていたデモナ将軍が我に返ったかの様に叫び声を上げた
「!!まあよい、どうせわしが勝つ試合だ!」
根拠の無い自信は身を滅ぼすだけだと思いますけど?
仮面が無いので確かにこちらも多少はやりづらいのですけど、どうにかなるでしょう
「では、両者の構えて、始め!!」
神官の号令と共に試合が始まった
デモナ将軍は剣を両手で構えて身構えている
こちらはじっくりと観察をする
するとデモナ将軍は器用に右手で胸当ての後ろから『特製の仮面』を出して来た
「!!」
「ほう、やはり気になるか?」
「まあね」
「こうするとどうなるのだ?」
デモナ将軍が『特製の仮面』を空に投げ上げると、そのまま剣で斬りつけた
『特製の仮面』は綺麗に二つに割れ床に転が
った
「弁償して貰いますよ?」
「ははは、腕ずくでさせてみな、出来るものならな!!」
そういうとデモナ将軍が飛び掛かって来る
「ええ、当然ですわ」
将軍が飛ぶより早く四肢の関節を爆散させる
甲冑に守られているから血肉の飛散も回避出来るのです、やったね
通常なら『特製の仮面』を装着せずに全力を出すと返り血肉で酷い目に合うのですよ、やれやれ
そのまま床に倒れたデモナ将軍に微笑みながら近づく
炸裂した四肢の血が甲冑の隙間より流れ出し床を赤く染め始めていた
「ば、馬鹿な?」
「続けますか?それともお金支払ってくれますか?」
「まだ、戦える!!なっ!」
カランカラン!
起き上がろうとするデモナ将軍の右手を吹き飛ばす
「なぜ魔法が使える、仮面は既に処分したはず!!」
仮面、仮面とうるさいですわね
ついでに左手も吹き飛ばす
カランカラン!!
良い音色を奏でて中身の無くなった甲冑小手が転がっていく
「残りの二本、代金を支払うか失うか?どちらを選択しますの?」
「そこまで!!勝負あり!!」
神官が止めに入る
「誰か早く将軍の治療を!!」
貴賓席から声が飛ぶ
「あら、治療ですって?まだ支払いの事何も決まって無いはずですが?」
王宮付きの治癒士達が私の言葉を無視して、魔法での治療を開始した
「あら、残念!」
そのまま右手を治療した治癒士の右腕を爆散させる、左手を治療した治癒士は左腕を
「「「「なっ!?」」」」
「支払いがあるまで、将軍の四肢の自由は私にあるはずですよ?勝手に治療した方も同様にって宣誓しましたよね?」
「白面の魔女め!!」
神官の誰かが叫ぶ
誰が命名しているのでしょうね?センスないですね
「わかった、支払う!!だから治療させてくれ!」
「一括ですよ?分割払い認めません」
「わかった!!」
「あと、支払い後でしか治療を認めません」
「この、悪魔め!!」
唸る様に吐き捨てる
「あら?何度も約束を違えている王国の方とはニコニコ現金払いでしか取引しませんわ」
口約束とかだと神様でさえ騙しそうですね、敢えて口に出しませんけど
「神前での誓いを破る方が恐ろしいですわ」
か弱い乙女らしく震えてみせる、ええもちろん本気でふるえてますよ、怒りでね
神への誓いを破るなんて、神前決闘の存在自体否定してますわ、神への侮辱、許すまじ!!
「ええっと?国王陛下?王妃?それとも聖女様かしら?先程、勝手に治療の指示を出された様ですが、宣誓にしたがって両腕をいただきますね」
貴賓席に声を掛けニコリと微笑む
最後だからね
この国を離れる前に大盤振る舞いしてあげる
爆散させまくりますよ♪
「ひい、待て、待つのじゃ!!これい、直ぐに金貨を持って参れ!!!早く、早くじゃ!!!!」
貴賓席から国王陛下とおぼしき男の声が響いた
「直ぐに持って来させる、だから待つのじゃ!な、待っておくれ」
「その言葉を信じろとおっしゃるのですか?」
「無論じゃ!」
「魔術師に魔法防御結界を張らせた上で神前決闘させる様なお方を信じろと?」
「「「「なっ!!」」」」
「あら?気付かないと思っていましたの?残念な頭をしておられますね」
「な、ならばなぜ決闘を受けた!」
「無意味ですから」
「はっ?」
「ですから、無意味ですの。私の攻撃は魔法防御では防げないのですわ。どうして巨大な魔力を持つ魔王を私ごときが倒せるのか、不思議には思いませんか?」
「それは仮面の力で」
「これですか?」
「なっ!」
私が懐から取り出した『特製の仮面』を見せると絶句する
宿屋を引き払った後にわざわざ予備の製作をお願いしてた職人さんの所まで引き取りに行ったのです
この肌触りを出せる職人さんはなかなか居ないのです、逸品なのです
「これを被ると全力が出せるってだけですよ、こうして」
皆さんの前で被って見せる
「ほらね?これで反射物を気にせずに思いっきりやれます」
「「「「「なっ!?」」」」
「時間引き延ばしに付き合うのはここまでです。ではケジメといきましょう、国王陛下」
「やめてくれ!!」
バン!
貴賓席横の扉を吹き飛ばす
その扉の影から金貨の入った袋を抱えた男が姿を現した
「陛下ご無事で何よりです!金貨はここに!!」
扉の後ろで出るタイミングを見計らってた狸親父、国王陛下がなんらかの怪我をするまで入室を控える気だった様ね、奸臣だわ
「これで約束は果たした、受け取るが良い」
国王陛下が宣言し、そのまま狸親父がこちらにやって来たので金貨入りの袋を受け取る
「中は確認しませんけど、誤魔化しが発覚した場合は責任取らせますわよ」
「えっ?わしか?」
声が裏返っている国王陛下
「ええ、どちらも」
狸親父をジト目で見つめてあげる、あっ仮面つけてたままだった
国王陛下も不安そうに狸親父を見つめる
「ああ!どうやら小分けした袋を渡し忘れる所でした」
私と国王陛下からの視線に耐えられなくなった狸親父がそしらぬ顔で懐から小袋を取り出して渡して来る
「確かに受け取りましたわ。どうぞ、治療を開始しても構いませんわよ」
私の声に反応して王宮付きの治癒士達が慌てて治療を再開し始める
流石は王宮付きの治癒士、みるみるうちにデモナ将軍の四肢が復元されていく、ついでに巻き添えを喰らった治癒士の腕も
「うう、この魔女め!」
治療の痛みに耐えながらデモナ将軍が唸る
「あら、神の前での神聖な勝負を卑劣な手を使って汚す様な方に言われるなんて逆に光栄ですわね」
おほほほほ、嘲笑ってあげますよ
「この様な無様な姿を晒す騎士様だと、魔王どころか幹部クラスでも歯が立たないと思いますわよ?次の魔王が現れたら大変な事になりますわね」
まあ、その頃にはここにはいないので私には関係のない話ですけど
「魔王討伐を王国の手柄にしていたのは知っていますわ。いずれ誰かが倒すのでしょうけど、魔王を倒すまでの間、他国に対してどの様な態度を見せるのかも楽しみにしてますね」
貴賓席にも呼び掛けます
魔王を退治する力を持つ国として、他国に威圧を掛けていましたよね?私を追い出した後、この程度の戦力でこれからどうするつもりでしょうか?
「魔女など居なくても我が王国には」
「そうだ!」
負けた癖にグチグチと煩いデモナ将軍の発言を遮るように提案する
「そろそろ傷も治ってるようですし、もう一試合しませんか?次の宣誓は、敗者の癖に私に対して暴言を吐くようならお仕置きする事にしますわ」
「い、いや、結構だ」
顔をひきつらせながらデモナ将軍が即答で拒否する
あら、残念ですわね。こんな根性なしでも騎士が務まるのですね
「それではそろそろ失礼しますわ。私から王国への公共工事のプレゼントを差し上げますね。早めに取り掛かった方がよろしくてよ」
おほほほほ
意味がわからずにポカンとしている王族、神官、観客を尻目に颯爽と闘技場を後にした
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数刻後には王都外れの門へと辿りつく
門には出入国の手続きをする列が出来ていた
さてとやりますか!
『特製の仮面』をかぶり直すと王都を囲む防壁を順番に爆散させる
北から南に、西から東に、順番に
兵士がいる所は残してあげますよ、遺族に恨まれるのもあれですからね
数分後にはすっかりと見晴らしの良い景色になっていた、外の緑が目に眩しい
門は残っているけれども、その両側の壁は無くなっているので出入り自由です
「ちょっと待て!」
そのまま門を通らずに外へ出ようとすると門番に呼び止められました
「何ですか?」
「貴様、どこから出ようとしている!!」
「はあ?」
「きちんと門を通って出ろ!」
「そこですか!?」
几帳面な門番は私が出国の列に並ぶと満足したようで、そのまま無事に王都を出る事が出来た
あとは、森を抜けるだけ
森の中心部にある魔王城を突き抜け、そのまま反対側に出れば隣国のカシミール王国にたどり着く
魔王城へは2日もあれば着くので大体5〜7日程の旅程ですね
何度も魔王討伐に通い、その度に拡幅を続けたので、今では私の付けた通路は荷馬車が対向してもぶつからない程の幅になっています
軍隊の行進も可能かも?
攻めやすく、攻められやすい
早く防壁直さないと大変な事になりそうですね
この先にはまだ見ぬ美味しいご飯が私を待っているはず
今行きますわ!!
お読み頂きありがとうございました