4.空き部屋には
「以上で終礼を終わる。起立。礼。」
ガヤガヤとみんなが話す中、やっと学校が終わった。始業式を終え、自クラスで自己紹介したり、配布物が配られたりした。今日から高校二年生…という実感はない。というか憂鬱に感じる。三人で教室をでて廊下を歩く。
「翔太、これからいつもの本屋行かないか?」
「部活。」
翔太はそれなりに本を読むので僕とは仲が良い。共通趣味なので本のことはお互いに話したり、貸し借りをする。
「そうか、じゃあ茅陽。俺らは帰ろう。」
「翔太の部活そろそろ知りたいなぁ、教えてくれないの?」
「秘密。」
部活は僕にとってすごく貴重で心安らぐ時間。本を読む、絵を描く以外にも小説を書いたりする。誰にも邪魔されないあの空間が好きだ。
「それじゃあまた明日ね。」
「2人ともまた明日。」
2人と別れて足早にそこに向かう。昼間、窓から太陽の光が照らし光る渡り廊下を歩き、階段をあがる。3階の1番奥の空き部屋。部活で使う教室はいつもと違って中から声が聞こえる。
「彩っていく君との世界。描いてく明日の扉。忘れたくない思い出…」
そっと扉を開けて中を見ると女の子がいる。詩かな?いい趣味だ。つい、この情景が綺麗で眺めてしまう。女の子は僕に気づいたようで動きが止まった。不思議な表情でじっと見つめられる。
「…幽霊ですか?」
「え?」
女の子は僕に近づき手を触ってくる。触れるかどうか確かめているらしい。距離感が近くて少し心臓の鼓動が早くなった。自分でも驚きだ。それよりこの女の子の声、聞いたことあるような…
「さ、触れる…あ、はじめまして幽霊さん。その、お友達になりませんか?」
「いや待って、違うよ?」
「あ、ごめんなさい。幽霊じゃなくてお化けって呼んだ方が良かったですか?」
「それより、君は誰?高校1年生?どうしてここに?」
「自己紹介遅れてすみません、黒瀧凛音と申します。高校1年生です!…ここどこですか?」
この子は黒瀧凛音、制服のリボンの色からして高校1年生。この人は外見しっかりしてそうだけど中身はそうじゃない感じの女の子か。この子がいたら本も読めない。さて、どうしよう。
「帰ろうと思っていたらここに辿り着いて、窓からの景色が素敵で見惚れて…」
僕は黒瀧凛音に興味を持ってしまった。不思議に僕と同じというか似たような人だと感じたから…今日の柳沢さんの時と同じ感覚。すると
「えっとお化けさんの名前は?」
「…お化けじゃないし幽霊でもなく"生きてる"から!」
「え、ごめんなさい!」
彼女は慌てて距離をとって俯いてく。少し手が震えてるように見えるのは気のせいだろうか…?
「名前は藤崎翔太。あまり空き部屋に立ち入るな。僕はもう帰る。」
ため息をつき、ドアを閉めようとすると黒瀧凛音はカバンをもって近づいてきた。
「ま、待ってください…帰り方わからないです…」
「…」
俯いて喋る彼女の声が震えてる。今さっきの雰囲気との違いに驚かされる。帰り方がわからない事にも驚かされる。帰れないなどと言われたら断れなく、駅まで送ることになった。二人で何も喋らず静かに旧校舎を歩く。少し傾いた太陽の光が廊下を照らす。
その後結局何も話さず校舎を出てバスに乗り、駅で解散した後に一人で帰宅した。どこかで聞いたような声と言うのは気にかかるが、思い出せない…。考えながらも途中寄り道したりと家に着くまで時間がかかって気づけばもう夕方。玄関を開けると妹が出迎えて…
「遅ーーい!!!お兄ちゃん!ソドバするって言ったよね?!もう夕飯作るの時間なんだけど?!」
「悪い。本買いに行ってた。」
「ずっと待ってたのに!!!!約束破ってまで買いに行くなんて、よほど面白い本なんだよね?」
「ソドバの攻略本。」
「お兄ちゃん大好き〜!!!!今日はお兄ちゃんの好きなビーフシチューだよ!織音作るね!」
「極端だよ。」
織音は攻略本を手にるんるんでリビングに行く。僕はとりあえず自分の部屋に行きベットに横たわった。今日はなんか気疲れしたなと思いながら、カバンから小説を取り出して読む。ベットの上で読むのが割と好きなのだが、今日は本当に疲れていたらしく、いつの間にか眠たくなって…
「痛っ!!」
な、なんだ?!俺は何かが顔に降ってきて驚いて起きると…どうやら小説を読みながら寝落ちしそうになっていたらしい。顔にふってきたのは手から離れた小説だったようだ。流石に疲れすぎじゃね…なんて思いながら階段を降りると織音がニコニコしながら近づいてきた。
「お兄ちゃ〜ん!今日は織音の作ったビーフシチュー!…あ〜んしてあげてもいいよ…?」
「…いいよそんな媚売り。」
「お兄ちゃんだけにしかしないよ…?そんなの…」
「おう。そうか。」
「今のトキメキポイント30といったとこかなぁ?」
本当に妹ながら男の扱いが上手くて逆に心配だ。ストーカーとかされたらどうしよう…よし男ブチのめそうって考えるくらい心配だ。
「他の男にしてたら怒るぞ。兄ちゃんだけにしとけよ。織音ー。」
律が対抗してるのかちょっとふくれた顔で織音を見ている。織音も満更ではないようでちょっと嬉しそうだ。仲が良くて助かるな。
「今の律的にトキメキポイント50じゃない?」
「さっきからトキメキポイントとかなんだそれ。」
「お兄ちゃん知らないの〜?!」
え、知ってて当然なの?
「もぉ〜お兄ちゃんってばぁ〜当たり前の事だよ?」
「兄さん時代遅れなんじゃない?」
「そんなに言うか?」
内心そんなに言われるほどの事をしていないと思っているのだが…知らなくてマズイのか…これは…他の奴ら言ってなくね?
「そ〜だよ!!律と織音ルールだもんね!!」
「なんだそれ、知らなくて当然じゃないか。」
自分達のルールを他人が知ってると決めつけ話を進めるのは良くないだろ…と思いつつ、考えていた。トキメキポイントを競うほどのトキメキさせる技術もないから…なんともいえない。
「今のお兄ちゃんの言葉〜トキメキポイント0だねぇ〜」
「兄さんはダメだなぁほんと。」
「とにかくビーフシチュー食べたい。ビーフシチュー。ビーフシチュー。」
「あーわかったわかった!ほんとビーフシチュー欲しがると手に負えなくなるんだから!」
そう言って織音はビーフシチューを鍋から掬い皿に盛り付けた。なんとも言えない美味しい香りが鼻をくすぐり、湯気が立ち上るこのビーフシチューを口に運ぶ。
「上手い!織音!ありがとな!」
「い…今の…トキメキポイント…0なんだから!!」
織音と律は僕と一緒にビーフシチューを食べる。仲睦まじい景色だなぁと思いながら美味しいビーフシチューを食べた。
…結局ビーフシチューを3杯も食べてしまった。
お読み頂きありがとうございました!
登場人物
主人公:藤崎翔太
幼馴染:福月茅陽
幼馴染:濱瀬飛鳥
弟:藤崎律
妹:藤崎織音
教室で出会った女の子:柳沢美凪
空き部屋で出会った女の子:黒瀧凛音