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第二幕 到来

 結局、征四郎はロズに補強をしない事を進言し、それは受け入れられた。


 二人だけではどうしても補強など出来ないし、使用人と言うスパイがいる以上は下手に動くことは止めて、何も気付いていない風を装う事に決めたのだ。


 故に、使用人の存在はそのままにしておくことになり、彼らは未だに古城内をうろうろとしている。


 とは言え、彼等に隠れて食料の備蓄は行っている。


 水は井戸がある為、問題が無いと言えばないし、あると言えばある。


 事が起こる前には、使用人達は速やかに拘束し、井戸に排せつ物などの不純物を投げ込まれないようにするべきだろうと言う事で話はまとまっている。


 最も、古城に潜む亡霊であるラギュワン・ラギュが言うには、使用人達はそこまで考えが及んでいない様子だとは言うのだが。


 高々、奇妙な男一人、どれ程の化け物かは知らないが派兵された舞台に勝てる筈もないと言う考えなのだろう。


 そうなると、使用人達にはさほど気を回さなくても良いかも知れない。


 無論、油断はできないが。


「カムラ王国の軍とは、如何程で?」


「剣を主力武装とした戦士団が主体じゃが、彼らは独特な制約を誇りとする旧態依然な兵団じゃ。それに弓とれき撃ちの射撃戦士団と少数の騎馬軍からなるが……果たして軍が動くかな」


「礫撃ち?」


「知らんか? 岩妖精(ロックフォージ―)の工房で作られる金属の筒みたいなものじゃが、火が付くと爆発する粉を使って礫と呼ばれる金属の弾を飛ばすのじゃ」


(……銃もあるのか。まて、これはどちらだ?)


「火がつく、と言う事は、火種は?」


「縄に火がついておってな、引き金を引くとそれが動いて火皿と呼ばれる場所に触れる事でズドンっ! とな」


(火縄……と言うか、マスケット銃か、威力は強いと聞くが命中精度は悪かったはずだな。)


 流石に火縄銃は既に訓練でも使われていなかった代物であり、征四郎が経験した戦場では無いよりマシ程度の代物である。


 その力は伝え聞いた物でしかない。


 なるほどと口にして見た物の、礫撃ちとやらがどんな物で、どの程度の威力かは見てみないと何とも言えないなと肩を竦めた。


 そして、更に問いかけを続ける。


「王の権力は強くないので?」


「王権はいわば政治の最上位、兵権とは別に考えられている。無論、戦う相手を決めるのは王権の保持者たる王だが……、今回の件は戦士団が動くとは考えづらい」


「ふむ……すると、姫が軍部を抑えれば、王と立場が逆転すると?」


「……余が男子であれば」


 ロズの言葉には苦々しさが込められている。


 いや、その表情も渋面を作り、美しい眉根を顰めていた。


 余程思う所があるのだろう。


「貴公の居た所では、如何だったのだ?」


みかどは、つまり王は代々女性ですし、軍の中には、女性の将もおりましたが」


 軍学校の先輩が入り婿になったのは、女性将帥である野津のづ中将閣下の元であったことを思い出しながら、征四郎が告げると、羨ましげにロズは息を吐き出す。


「羨ましい事よ」


 その一言の切実さに苦笑を浮かべた征四郎だったが、不意に表情改めて遠くを見やる。


 ある種の気配を予感めいて感じたのだ。


「如何した?」


「来たようです」


 ロズは誰がとは聞かず、小さく頷くに留めた。


 そして、二人でテラスに出てみれば、征四郎の感覚に間違いが無かった事を知る。


 百名前後の武装した一団が、ゆったりとした足取りで道を昇ってくるのが見えたからだ。



 武装した一団が古城を取り囲むように配置につくまでの時間を、征四郎は無駄にしなかった。


 即座に階下に降りて、使用人達を一人、一人と拘束していく。


 使用人達は王が何時ごろ到着するのか知らせていたのか、征四郎を見れば勝ち誇ったようにせせら笑った。


「今更慌てても遅いぜ、お前は死に、あの姫はまたひっ!」


「うるさい」


 無造作に放たれた征四郎の右拳が使用人A(征四郎は名前を知らないし興味がない)の顎を打ち抜き、物理的に黙らせた。


「お、俺達を攻撃したって何もかわっ!」


「知ってる」


 使用人Bも同様に右拳で顎を打ち抜き、沈黙させる。


「まさか、女の私をなぐっ」


「拳じゃないから、良いな」


 使用人Cは性別が女であったので、顎を掠める様に手刀を振い、上手く当たって意識を奪う。


 最後の一人は一言も発する間もなく蹴りを喰らって、鼻血を吹き出しながら悶絶した。


 蹴りを放った理由はこいつが使用人を取りまとめていたからである。


 征四郎から見ればこの場の一番の悪党と言う事になり、拳では無く蹴りを放つに十分に値すると判断したのだ。



 こうして、残っていた計四人の使用人を殴り、蹴り、手刀を振るい黙らせると征四郎は淡々と彼等を縛り上げて、外へと引きずる。


 四人を縛ったロープを手に、扉の傍までくれば、敵の配置が整うのを待った。


 暫くすると、ロズが階段を下りてきて。


「整ったようだ……。それとな、カルサドレ……あ、いや、セイシロウ」


「どちらも私の名だ。それで、如何された?」


「弟が、来ておる。大分背も伸びているし、顔付きも変わっているが、間違いない」


「では、まずは脅すだけにしよう」


 告げて、征四郎は閉じられた扉を思い切って蹴り開けた。


 勢い余り扉は吹き飛び、大きく弧を描いて敵兵の一部に目掛けて飛んでいくと、彼らは慌ててばらばらと逃げた。


 続けて、扉が消えた入口から外に出た征四郎は、片手で使用人四人を縛りつけてあるロープを引っ張り、引きずったかと思えば、半ば振り回すように城の外へと投げ捨てた。


 流石に宙を飛ぶことはないが、気絶している使用人達はごろごろと大地を転がり更に傷を作った様だが、征四郎には特に慈悲は無かった。


 度肝を抜かれた武装した一団、その主は何処かと征四郎は視線を巡らせ、一人の少年の姿を見つける。


 金色の髪、髪と同じ色の柔毛に覆われた狐に似た耳、緑色の双眸、凛々しく整った顔立ち……。


 彼こそがロズの弟であろう。


「この者らは、姫に十分な食事を与えず、監禁するが振る舞い、許し難し。よって、多少の暴力を、振るった。だが、所詮は、民間人。この程度で、済ませている。これは、ロズワグン姫の、温情であると、知れ!」


 ぎこちなく、たどたどしい言葉使い。


 本来ならば失笑でも起きようものだが、征四郎の堂々とした立ち振る舞いと、機先を制された一連の出来事に武装した集団は呆気に取られていた。

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