表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/18

第一幕 度忘れ

 カーリッジとスラーニャを退けた征四郎は、まるで軍人だった頃のように忙しく動き回っていた。


 とは言え、野戦指揮官だった頃に比べれば、その内容は大きく異なったが……。


 今、この城に居るのは城主のロズとその従者の征四郎、それに討伐に来たはずの百名の武装集団である。


二割から三割はこの城を離れて、故郷に戻ったり、別の仕事を求めに行ったとは言え、数十名の滞在者を抱えこんでしまった。


 そうなると食い物や衛生管理などが重要になってくる。


 幸いなことに総勢の三分の一は女傭兵などであったから、少数の女に男が群がると言う状況には陥らなかったが、城を管理する者としては其れは其れで気苦労は絶えない。


「飯だぞ! 並べ!」


 大鍋で煮込み作ったのはカバナの煮込み料理。


 国によっては貧民の食べ物と呼ばれたこれに、征四郎は改良を加え、提供すると最初は仕方なしと言った風情だった傭兵達の反応が、みるみると変わった。


 彼らが今まで食べていたカバナとは何であったのか、口々にそう言って、喜び勇んで食べた。


 それ程に改善が加えられたのだ。



 征四郎がこの城に召喚され、最初に食べたのがロズに分けて貰ったカバナの煮込みだった。


 贅沢をいう気はないが非常に不味く、何故こんなに不味いのか、その理由を調べていたのだ。


 これは粒が不ぞろいのカバナを適当に煮込んでいるためであるとすぐに見当がついた。


 粥を作るのに似た行程ではあるのだが、米のように粒が一定でないため、ある物には火が通り過ぎ、ある物にはあまり火が通らずと言う状態が均一でない事に気付く。


 そこでカバナの粒をふるいを使って選別し、これを煮込んで食べた。


 以前よりはマシだが、まだ何か足らない。


 その頃はまだいた使用人達の奇異な者を見るような視線を無視して、征四郎は改良を重ねる。


 カバナの粒は噛んだ瞬間にプチッとした食感が返ってくるのが面白いが、小さな粒ではあまり感じない。


 とは言え、大きな粒を煮込むのは火加減が難しく失敗することもある。


 ならばと、カバナを荒く挽き煮込めば食感が残るのではないだろうかと考えた。


 一口食べるとカバナの風味が生きており、尚且つ食感も楽しめる。


 これにナジと呼ばれる山草の実の蜜漬けを添えると甘味もとれる朝食として作用したし、野菜のスープなどに投入すれば、スープでも主食となり得た。


 味付けは近隣の物と大差なかったが、下処理の行程がカバナの味わいを豊かにしていた。


 ひと手間加え均一に火の通ったカバナは、まるでブレト(これは上質なカバナを挽いて粉にしたものを練り上げ発酵させ、焼いたもの。征四郎の知るところのパン)に使うような上質なカバナの様に感じられたのだ。


 それに加え、古城とは言え王家の持ち物。


 近隣の山は言うなればロズの持ち物と言う事になる。


 そこに生息する獣も、山草も、一般人が勝手に手を出せば法に触れるが、ロズの命令であれば全く問題はなかった。


「つまるところ……傭兵を養っていける……糧食は……現地調達に依存せず……合法的に解決できる……立地であったのだ」


「アルデア姐さん、解説するか、食うのかどっちかにして」


「……」


「え、食う方に集中かよ?」


 キケとアルデア、イゴー等も食事をして、その味に感嘆していた。


 傭兵が屯する事により、周囲の村に被害が及ばないかと危惧していた法務官アルデアだったが、結局古城の立地ならば百名前後は養えるのだと悟り、素直に現状を受け入れていた。


 キケは何故か、この頭が固いと称される法務官によく話しかけ、信頼を得ていたので、二人で行動する事も多かった。


 それに同族のイゴーが加わって、食事にありついて居た訳だ。



 征四郎が厨房を取り仕切る最中に、ロズとグラルグスは今後の行動について話し合っていた。


「階下から良い匂いがする……」


「話し合いが終わるまで我慢だ、クラーラ」


 エルドレッドとクラーラは話し合う姉弟の護衛もかねて参加していたので、階下から漂う食欲を刺激する匂いに何処か気もそぞろになっていた。


 だが、流石に王族、ロズもグラルグスも真面目に話を重ねていた。


「伯父上があのような手段を用いた以上は、黙っている手はない。ただ、父や母が心配です」


「父上と母上の安否の確認も重要じゃが、王都の動きを知りたいところ。傭兵にその辺を頼って良い物か?」


「頼る以上は信じるしかないでしょう。最も、カルサドレのセイシロウある限り、裏切るとは思えませんが」


 グラルグスの言葉にロズは大きく頷く。


 聖騎士を単騎で退けるほどの武、話をしっかりと聞ける精神性は指揮官が務まる器だし、何より……。


「作る飯が美味い」


「食う事は彼等には大きな喜びでもある、それが美味いのだから言う事なしですね」


 そんな結論が出されると、クラーラもエルドレッドも笑いをかみ殺すのに苦労した。


 存外に高い評価を受けている黒い戦士殿が、傭兵何人かを使って鬼のような形相で飯を造っている姿を思い出したからだ。



 この様に、現在の征四郎の日々は概ね良好と言えた。


 無論、この先には多くの問題が立ち塞がっているが、それを感じさせない程明るい。


 少なくとも、呪術の神ゾル・タルワースとの約束の日まであと三日しかない事を思い出す今日の夜更けまでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ