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幕間 現状と思惑

 征四郎が図らずも傭兵達の心を捉えようとしていた頃、カムラ王国の王都では騒ぎが起きていた。


 西方の強国アロとの戦を控えたクラッサ聖王国の使者が、同盟の締結に訪れていたのだが、その使者が殺されたのだ。


 強国の使者が何者かに殺された、その事実はカムラ王国を消し飛ばしかねない大事件である。


 クラッサの軍事力であれば、カムラ王国など簡単に捻り潰せる。


 それを知る王の焦りはすさまじく、苛烈な捜査で犯人を探し出し、法で定められた裁判を経ずに処刑を敢行した。


 だが、問題はここからだった。


 犯人とされ処刑された男には明確なアリバイがあったのだ。


 クラッサ側もその事実を把握しており、クラッサの武の象徴である聖騎士が民衆の前で激しく王に詰め寄ったのだ。


 それで、無実の男を処刑したことが明るみに出た王に対して民衆は怒りの声を上げた。


 現王は、王の器に有らず!


 その叫びが王都内に木霊する様子を、面白くも無さそうに聞いていた聖騎士にもたらされた一報。


 カーリッジの敗北。


 カムラの外れの山中にある古城に、同盟を結ぶ見返りの一つとして傭兵の始末に向かった聖騎士カーリッジが恐るべきアンデットに敗れたと言うのだ。


「その話は真か?」


「レドルファ様が一部始終を見届けております。カーリッジ様は全身を黒い炎で焼かれながら撤退、敵が追撃を掛けても良いように一人迎え撃つ心算つもりの様です」


「ただの死人では無かったと言う事か……生前は如何なる使い手か」


「信じ難い事ですが……その者は無手でカーリッジ様の腕を切り裂いたと」


「その距離までカーリッジが迫られたと? 信じ難い……そこまでの使い手であれば、カーリッジは生きては帰れんか」


「いえ、如何やら魔人衆のお一人が足止めをしていただいた様で今は傷を癒していると」


 その言葉を聞き、聖騎士ソシオは部屋に隅でこちらに背を向ける事も無く佇む黒い髪の女を見た。


 黄色い衣を纏った魔人衆の一人を。


「何故だ?」


「どちらかと言えば、我々はそのアンデットに興味がありましたので」


 魔人衆の中で二人だけの仮面を付けない者達。


 他の魔人衆にはない人間らしさは感じるのだが、やはりこいつらも得体が知れた物ではないとソシオは肩を竦めた。


「ちなみに、その理由を聞いても?」


「小官とスラ―ニャ以外の者にとっては、自身の仇でありますれば」


 その言葉に潜んだ毒々しい憎悪をソシオは聞き逃さなかった。


「……なんだと?」


「彼等は一度死んでいるのですよ、明確な死を彼に与えられている。あいつらが魔人衆? 笑わせる名前ですね、我が国において彼と同時代に魔人と呼ばれたのは彼ただ一人」


「薄々と感じていたが、仲間に対して大した憎悪だ。――だが、その話が事実であれば……こんな所で暇をつぶしている訳にも行かん」


「仲間? 憂さ晴らしで我が身を刻み、犯す輩を仲間と呼ぶ筈がない。……あそこにはカムラの王族も幽閉されていると言う話……ここの王より手ごわいのでは? カーリッジ卿が失敗したとなれば、傭兵達もあちらに就く公算が高いでしょうし」


 端正な顔を歪めて憎悪を吐き散らしたかと思えば、黄衣の女はすぐに平素通りに戻り、淡々と分析を伝えた。


 憎悪と冷静、その二局面を見たソシオだったが、注意深い彼は見逃さなかった。


 ただ一人の魔人を語る際の女の瞳に宿ったのは、憧憬か、別の情念か。


「魔人衆同士で殺し合う分には構わない、だが、お前はそんな状況で我が国に手を貸すのか、貸せるのか?」


「従わねばならんのですよ、あの女には。生きて還るには」


「……苦渋の選択か。何でも良い、裏切らぬのであれば」


 ソシオは報告に来た兵士に出立の準備をするように伝え、部屋を後にする。


 兵士も一度、黄衣の女を見やって、慌てて部屋を出れば黄衣の女、草間伊都(そうまいと)は小さく呟く。


「スラ―ニャ……聖騎士が動く。武器は渡せたのか?」


「イトが煽ったんだろう? かっぱらってきた刀を渡した。これで切り抜けて貰わないと困るね」


「そうだな。だが、託したのは魔人七號まじんななごう神土(かんど)少佐だ。上手くやってくれるだろう」


 魔力による通話を終えれば、伊都も部屋を出る。


 如何にもこの国の中枢に妙な物が巣食っている。


 自分はクラッサの客人としてここに残り、それを炙り出しておこう。


「さて、藪を突いて何が出るか……」

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