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第一幕 連撃

 傍から見れば征四郎の圧勝だったのだろう。


 そして、一部始終を見ていた傭兵達からしてみれば、それは紛れもない事実だった。


 瞬く間に数名の仲間を殺し、口煩いがそこそこの腕を持つ王国が派遣した法務官すら容易く退けたカーリッジ、そして、それを無手で圧倒した征四郎と言う展開に見えたのは当然と言えた。


 だが、征四郎本人の考えは違った。


「私が知るアレならば……今ので殺せる筈だった」


 だが、実際には違う。


 明らかに聖騎士と名乗った男の生命力は異常。


 征四郎の知る死なずの兵士は、死に難いが殺せる存在だった。

 

 だが、先程の男は……。


 少しばかり考えた征四郎だったが、今流行る事があると切り替え、肩を貫かれたアルデアの入城を許可した。


 今会談の場には影法師シャドープリーステスがいる。


 普通の女司祭プリーステスとどれだけ違うのか分からないが、傷を癒す術は何かしら持っているだろうと踏んだからだ。



 危険は去ったと判断してか、再び戻って来た傭兵達が集まってくるのが見えれば、振り返り征四郎は告げた。


「お前達も、姫に手を出さぬと、誓うならば、城に詰めても良い。古い、戦の為の城だ。埃っぽいが、部屋は数ある」


「――なんで、俺達を助ける?」


「カムラ王は、傭兵代金を払わずに済む様に、刺客を送って来たのだろう? 金にならない所か、裏切る様な、雇い主の為に、お前らが、戦うとは思えんが」


「……敵の敵は、か」


「納得する、しないは任せる。ただ、間借り、する以上は、働け」


 告げて踵を返せば、征四郎は城内に向かう。


「こんな状況だ、あんたと姫様の為に働くのは吝かじゃない。だが、その前に、こいつらを埋葬したい」


 仲間の死体を埋葬したいと言う申し出には、再び振り返り、城の裏手を指さして征四郎は告げる。


「こちらで良ければ。……死ねば、遺恨も何もない。その眠りは、誰にも邪魔はさせない」


 古城の裏手に穴を掘り埋葬することを許せば、征四郎はアルデアを担ぐキケを伴い古城に入っていった。


 残された傭兵達は何か囁きあっていたが、程なくして仲間の死体を引きずり裏手へと向かった。



 征四郎が聖騎士なる者について考え込んでいる最中も、事態は動いていく。


 影法師シャドープリーステスのクラーラが肩を貫かれたアルデアを治療している様子を眺める面々。


 額に汗を浮かべ、掌を淡く発光させながらクラーラは祈り、祈りによって生まれる力を行使する。


「本日は、ここまでとしましょう。骨の修復には時間がかかりますが、後二日もすれば元の状態に戻るかと。それから肉と皮膚の治療を行うので、三日で完治するかと思われます」


「……すまない、クラーラ。恩に着るわ」


「しかし、なぜ聖騎士が……」


 いきなりの展開に困惑気味な姉を一度見てから、グラルグスが呟く。


 聖騎士とは強国クラッサが強国たる理由の一つ、その最奥であり深淵足る者。


 それが、態々この古城を襲撃に来た。


 それも自分達がここに来るのと同じタイミングで。


「――王は、法を犯した。法務官として、見過ごせない」


「まさか、聖騎士を派遣したのは?」


「奴が語った通りであれば、カムラ王だ」


 アルデアの言葉に室内がざわめく中、征四郎はそっと肩を竦める。


 傭兵を取り込むための口実の心算が、本当の事を口にしていたか、と。



 アルデアの話によれば、瞬く間に傭兵を数名血祭りに上げたカーリッジは、まるで誇示するようにロズやグラルグスを始めとしたこの場にいる全員を殺すと告げたのだと言う。


 確かに、それらしいことは言っていたと征四郎も思い返すが……。


 それが解せないと首を捻って征四郎は誰ともなく呟く。


「何故、態々、説明を?」


「あんたは、実利の人間か……実直な武官みたいなやつだ。いや、あんたは自分を人じゃねぇと言うかもしれないが、聖騎士共に比べりゃ人間さ」


 イゴーが渋面を造って告げると、グラルグスが後を続ける。


「クラッサの聖騎士は強者だ。黄衣の悪魔達と同じくらい死なない。だが……強さに飽いている節があるんだ」


「……死なない、程度で、慢心か?」


 強さに飽くなど、魔人となった今も、自分より強い強者は幾らでもいると思っている征四郎には俄かに信じ難く、緩く頭を振る。


「いや、死なない程度って……。全く慢心しないんだったらあんたの方が怖いねぇ」


 そう告げたのはエルドレッド。


 茶化すように告げながらも、その目は笑ってはいなかった。


 クラッサが聖騎士と言う存在を生み出して既に八年。


 今の所、聖騎士は無敗であり慢心していない聖騎士はいない。


 幾ら首を刎ねら様が、彼らは必ず生きて帰り、彼等の敵はただの一度首を刎ねられれば終るのだから。


 そんな聖騎士の中で、征四郎のように慢心しない存在などいれば、首を一度刎ねる事すら厳しい。


 それを思えば、まるで笑えないのは致し方が無い。


 だが、その征四郎が先の事は分からないが今は敵ではない状況は、グラルグス一党にしてみれば有難かった。



 征四郎達が、聖騎士の意図を話し合っている最中、外の傭兵達は仲間を埋める穴を掘っていた。


「まさか、聖騎士が来るなんてな」


「逃げちまおうか」


「……俺はあの黒い男について行こうと思う」


「強いしな、それに、何と言うか……聖騎士とは違った」


 穴を掘りながらそう話していると、不意に声が掛かった。


 若い女の声。


「その黒い男ってのは、どんな人だい?」


 声を掛けられた数名が一斉に振り向く。


 一切の気配を感じさせなかった、黄色い衣を纏った女が一人そこに立っていた。


 征四郎の変形した衣服とよく似た形状の、それでいて全てが黄色に統一された衣服を纏った金髪の女が。


「懐かしい気配を感じてね、やって来たらカーリッジの旦那が撤退している所。まさか、まさかねぇ」


 不穏な言葉を呟きながら、眼つきの悪い小柄な女は、口元にパイプを運んで煙をくゆらせる。


 風に揺れる黄色い外套。


 腰に携えるは黄色い悪魔達と呼ばれるものが好んで使う僅かに湾曲した片刃の剣。


「その人ってさ、カンド・セイシロウって言わないよねぇ?」


 ただ、そう問いかける言葉と表情には、何処か期待するような、奇妙な色が浮かんでいた。

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