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第二幕 強襲

 思わず怒りが言葉になって迸ったが、征四郎はそれで一旦は落ち着きを取り戻した。


 そして、征四郎の怒りに驚く周囲を見渡せば、息を一つ吐き出して語りだした。


「私の敵は、術者であり公家と呼ばれる貴族階級だった。奴は、その立場を利用して、兵士の魂を改造し、死なない兵士を、造り上げようとしていた」


 赤土色の瞳で周囲を見渡しながら、征四郎はそう切り出した。


 その悪事をまだ人間だったころの征四郎がそのことを突き止めた事に端を発し、最後には所属していた近衛師団がその公家を告発するべく動き出した。


 その名を芦屋大納言志津姫あしやだいなごんしづひめ


 帝に覚えも良く切れ者と謡われた若き女貴族の裏の顔を、近衛師団は知ったのである。



 当時の国の情勢は、東方圏同盟の為に参加する戦はあったが、全面戦争には程遠い局面だった。


 軍の全体から見ても、前線に赴くのは全体の数パーセントにすぎない。


 戦に参加すれば全くの無傷とは言えなかったが、それは個人的な悲劇の積み重ねでしかなかった。


 国にとっては僅かな傷であり、軍の研究を推し進める明確な口実になっていた。


 そこを芦名大納言は逆手に取った。


 政治を司る公家らしく、表向きは儀礼式典用の部隊の創設を掲げて行われた選抜が実験の第一歩だった。


 そこで体が丈夫な、親類の少ない者を選出し、無茶と言える実験を繰り返していた。


「証拠固めの為、実験施設の、幾つかを襲撃した際に、出くわしたのは――黄色い軍服を纏った化け物だ」


「なっ……!」


「まさか!」


 黄衣の化け物と言う単語に絶句した影法師シャドープリーステスのクラーラ、反応を返したのは、森守(ガーディアン)の男ことエルドレッドだった。


 彼等は交戦した事があるのだ。


「数に勝り、武装に勝る私達を、圧倒する暴力、そして不可思議な力。それでも、まだ実験段階だったため、八回殺せば、死んだ。最後には、青い血が噴き出て、終わった」


「八回……?」


「……青い血」


「回数に意味があるのか、分からない。それも後には、ある事をせねば絶体に活動を止めない、真の悪魔となったが」


 そう告げて、征四郎は大きく息を吐き出した。


 そのため息とも言える呼吸には、多くの感情が込められている様だった。


「――何をしたら、死ぬように?」


「それについて、説明するには、奴らとの、戦いの最中、命を落とした私について、語る必要が、ある」


 そう告げて、征四郎は一度ロズを見やる。


「ロズ姫の、召喚に応じた事から、分かるだろうが、私も、言わば動く死体に近い。死の直前、ゾル・タルワースの神殿に転移し、彼の神の周囲に蠢く、黒い無形の存在を、私は、取り込んだ。その過程で、意志を鍛え、人の形を強く願い、再生を果たす。が、如何にも……吸血鬼や、首なし騎士など、その辺りと同じような存在に、なり果てていた」


 征四郎が自身の現状を淡々と語る様子は、たどたどしい言葉遣いもあり、何らかの悲哀が見て取れた。


 が、当の本人はそれ程気にはしていない。


 死んだ人間が何かを成そうと言う以上は、当然起こりえるリスクだと考えていたからだ。


 それに……。


「そんな存在だから、分る。死なずの兵士を作るの術は……二つの魂を、用いて強制的に、ソラより来る何者かの、生命力を宿らせる術。魂の結びつきが、強ければ強いほど、何者かは強く囚われ、宿主が死なぬ様に、いかなる傷も再生させるのだと」


「その結びつきを解けば良いと?」


「魂を縛る、見えない鎖を感じ取り、それを断つことで、不死身と言える、生命力を解放し、倒した」


 黄色い衣を纏った悪魔が、征四郎の語るそれと同一かは分からない。


 だが、死なずの兵士を倒す術を探していたグラルグスを始めとした面々は、何かのヒントを得た様に感じていた。



 征四郎の話が終わりかけた頃、俄に城の外が騒がしくなった。


「――なんだ? ちょいと見て来るよ」


 護衛の一人で、身のこなしの俊敏さが売りの若い傭兵キケが立ち上がって、大広間の扉を開けると……アルデアの声が響いた。


「こ、こんな事をして、何になるんだ!」


「――アルデアの姐さんが何か騒いでるな」


 そうキケが告げた途端、征四郎やイゴーらは気付く。


 僅かに鉄錆めいた臭いが漂っている事を。


「傭兵に払う金が惜しくなったんだろう。ここで、全て消えれば、彼の王は安泰と言う訳だ」


「何たることを! その様な無法、このアルデアが見過ごすとでも!」


「頭が固い法務官様か。柔軟に生きられれば良かったのに」


 響いて来る何者かの声。


 森守(ガーディアン)であるエルドレッドの尖った長い耳が、その声が誰であるのかを明確に聞き取り、呻いた。


「カーリッジの野郎……っ!」


「まさか、あのクラッサの聖騎士か!」


 イゴーが驚き目を見開く。


 キケが外に向かい大広間を飛び出ると征四郎もその後に続いた。


「若と姫はここで待機だ。クラーラ、任せるぞ」


「分かりました。しかし、何故聖騎士が……」


 大広間から響く声より、征四郎は意識を外して城の外に注意を向ける。


「レドルファ、聖騎士が如何に戦うか、良くその目に焼き付けろ」


「分かりました、聖騎士カーリッジ」


 男達の声が響く。


 キケに続き征四郎が外に出る。


「アルデアの姐さん!」


 響くキケの声、その視線の先には……。


 細身の剣を構えていたアルデアが、見知らぬ男が突き出した槍の穂先に貫かれた所であった。


 その周囲には数名の傭兵の死体が転がっていた。

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