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第一幕 異変

 ロズとロズの弟が話し合う場を設ける事を了承した征四郎は、ロズの弟と五人の護衛を城内に招き入れる。


 残りの傭兵達は一部が使用人を引き連れて、近隣の村へと引き上げ、残りが古城を取り囲み待機と言う事になった。


 これが単なる男一人を殺して終わりという仕事であれば、討伐ボーナスを求め、彼らは不平を口にしたかもしれない。


 だが、蹴り上げた城の扉が自分達の元にまで届く様な、片手で大人四人を半ば振り回すように転がすような、怪力と相対するのは控えめに言って嫌だったのか、話し合いで済めばそれで良いと言う空気が場を支配していた事が功を奏した。


 傭兵とは、危機管理能力に優れていなくては長生きできない。


 人の形をしたドラゴンのような化け物と無理に戦おうとは思わないのだ。


 

 さて、城内に案内されたロズの弟と五人の護衛は、城の内部を慎重に観察した。


 死霊術を用いて幽閉された姫の住まう城である、何か在るのではと身構える者や、征四郎が先程告げた罠の存在に気を使う者は拍子抜けしただろう。


 ロズにも征四郎にも城に大掛かりな手を加えられるほど時間は無かったのだ。


 征四郎は彼等の様子を気にした風も無く、1階にある大広間に彼等を通すと告げた。


「今、姫を連れてくる。暫し、待たれよ」


 それだけ告げて、大広間を出ればロズが待っている彼女の自室へと向かった。



 部屋へと入り、状況を伝えるとロズは狐耳をぱたりと垂らして忙しなく周囲を見渡す。


 腰に届こうかと言う金色の髪を一房ひとふさ手に取って、指先でいじくり始めながら問うた。


「のぉ、セイシロウ。弟は……グラルグスは本当に会いに来たのかのぉ? 家族に疎まれていたりしないと言う保証が無い訳だし……」


「直接、問うがは宜しかろう」


「そうは言うが、不安なんじゃ。昔のまま迎え入れてくれるとまでは思わんが、拒絶されたりするのは嫌じゃ」


「私では、何とも言えんですな。ただ、関係をはっきりさせなくては、先には進めないかと」


 征四郎の言葉にロズは暫く考えていたが、一つ頷き席を立った。


 程なくして、ロズが征四郎を伴って大広間に入ると、弟のグラルグスと五人の護衛は所在なさげに立っていた。


「座っておらんのか? 其処まで警戒する事もあるまい?」


「いえ、姉上。何処に座って良いのか言われぬうちに座るのは流石に……」


 弟の言葉を聞きロズは征四郎を振り返り見ると、彼は一瞬きょとんとして、それから天を仰いだ。


「しまった。着席の指示を、出して居なかった」


「おい」


 ロズに突っ込まれながらも、征四郎はすぐさま席を案内し、皆が席について話し合いが始まった。



 話し合いは、穏やかに進んだ。


 少なくとも表面上はそう見えた。


「本当に父上も母上もふもとの村までは足を運んでいたのか?」


「ええ、本当です、姉上。なんなら、村まで行きましょうか? 村長もその時の事を覚えておりましたよ」


「余は……捨てられたとばかり」


「姉上! それは父上、母上に対してあまりな考えです! ですが……そこの彼より聞きましたが……」


 捨てられたとの発言には、強く諌めるように言葉を発したロズの弟グラルグスは、席につかずに姉の背後に控えている征四郎を一度見やって、言葉を止めて。


「そこまでの扱いを受けていたとなれば、俺もそう考えたかもしれません……。王の、伯父上の対応はおかしい! 姉上に死霊術の知識が在ったとしても、そもそも賊が入り込まねばこんな事にはなっていないのに!」


「――グラ様、落ち着いて」


 少年と青年のはざまに居るグラルグスと同じくらいの年ごろの娘が、そっと声を掛ける。


 長い亜麻色の髪で片目をかくし、征四郎が着ている様なローブ姿に籠手や胸当てを付けた姿や携えた錫杖から、どこぞの神職であろう。


 少女に声を掛けられると、グラルグスは激高しかけていた心を落ち着かせたようだった。


「グラ様? 随分と親しいようじゃな」


「お初にお目に掛かります、ロズワグン姫。私は三影神の一柱テマナに仕えし影法師(シャドープリーステス)の一人クラーラと申します」


「三影神の? 影法師(シャドープリーステス)が聖地を出るとは」


「死なずの兵士を造ると言う計画を追って、こちらまで」


「テマナは冥府の神と同じ側面があるからな。なれば、余と貴公は同じ宗派とも言えるな……。其方にとっては不愉快かもしれんが」


「実の所、そう思っている影法師(シャドープリースト)も多いですよ」


 宗教的な会話で、妙な意見の一致を見せかけているロズとクラーラを尻目に、護衛やグラルグス達は別の所を見ていた。


 死なずの兵士と言う単語が飛び出た途端に、それまで然程表情が動かなかった征四郎が明らかに表情を変えた。


 それは驚愕であり、怒りである事が見て取れた。


「すいませんね、お嬢さん方、ちょいとお姫様の後ろの人に聞きたいん事があるんで」


「セイシロウに? 彼は余に呼ばれただけで……」


「――あんた、何か知っているのか? 俺達には雲を掴むような話だったんだが」


 髭面の森守(ガーディアン)であるエルドレッドが女二人の会話に割って入れば、ロズは征四郎をかばうように言葉を添える。


 だが、同じく髭面の(こちらの方が豊かで整えられているが)狐獣人フォクシーニイゴーが、ロズの言葉を半ば無視するように征四郎に問いかける。


「驚いた、だけだ」


「何故?」


「こちらでも、私が戦った相手と、同じことを考える、馬鹿・・がいるのかとな」


 吐き捨てるような征四郎の物言いにイゴーとエルドレッドが顔を見合わせて軽く肩を竦めた。


「……セイ……シロウだったか? 良ければ話してくれないか、その敵の事を」


 姉との会話の時間を削るべきか、少しだけ躊躇したようにグラルグスは言い淀んだが、何か早急に対応せねばならないのか、意を決して征四郎に問いかけた。


「俺達は知りたいんだ。死霊術の一形態に過ぎないのか、全くの、本当に不死なる者が生まれるのか……。首を刎ねても死なない黄衣の悪魔達の事を」


 グラルグスの言葉に、征四郎は今度こそ赤土色の瞳に憤怒を宿し、吼えた。


「おのれ、芦屋大納言志津姫あしやだいなごんしづひめ!! この地でも暗躍しておったか!」


 それは征四郎の母国語であったので誰にも意味は通じなかったが、この場にいた誰もがその苛烈な怒りを感じ取っていた。

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