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第三幕 会談への道筋

 堂々とした征四郎の、しかし、たどたどしい言葉に呆気に取られていた武装した一団だったが、その中の一人が大きく笑いだした。


 狐獣人フォクシーニにしては随分とガタイが良く、髭を生やした大柄な男だ。


 腕や足、そして首が太くぶ厚いと言う表現が似合う男だと征四郎は思った。


「はははっ! 何が不貞者一人の簡単な討伐だ! 大人四人を片手で転がし、扉を蹴り壊す暴力と非を鳴らして俺達を委縮させる頭があるじゃねぇか! 若よぉ、こいつは苦戦するぜ!」


「何を笑っているのです、イゴー! あの不貞な輩を討つのがあなた方の仕事だ!」


 イゴーと呼ばれた狐獣人フォクシーニは、うんざりしたように発言した女を見た。


 文官と思しき女、しかし、その身なりは周囲の一団と比べれば良い。


 まだ若く生意気そうな所のある狐獣人フォクシーニの女にイゴーは口を開く。


「アルデアさんよぉ、俺は、若様に言ったんだぜ? あんたに言ってねェよ」


「何と無礼な!」


 二人のやり取りを見やりながら、征四郎は彼等を計る。


 イゴーと言う男、中々の使い手の様だし、物事に頓着しない性質の様だ。


 その姿や物言い、物怖じしない立ち振る舞いや、神が長い者が多い中で短めの銀髪と言う姿が好漢を思わせる。


 だが、割って入った女、アルデアは文官か貴族かは不明だが規律に煩そうだ。


 赤みがかった金色の髪、整っていながら何処かきつさを感じさせる容貌などから、若さに似合わぬ要職に在るのだろう。


 にらみ合う二人に周囲は困惑したり、嘆息したりしている。



 そこに。


「やめなよ、お二人さん。やっこさんが俺達を計っているぜ」


 そう征四郎の動向を見抜きながら声を掛けたのは耳が尖った金髪の男だ。


 その容貌から射手が多いと言う森守(ガーディアン)と呼ばれる種族の様だ。


 今広く傭兵として活動しているのは森に住まう種族のためか射撃を得意とすると言う森守(ガーディアン)にしては珍しく、その男は剣を携えている。


 イゴーと同じく髭面であるが、此方は明らかに無精髭で、体はイゴーのような分厚さはない。


 ただ、巧妙に隠しているが抜身の刃の様な威圧感を征四郎は感じ取った。


 この百名前後の兵の中でも際立った二人と言えた。


 そのほか何人か気になる連中はいるが、今は評価を下している時間は無い。


「それに、決定を下すのは若だろう?」


 髭を擦りながら森守(ガーディアン)の男が言葉にイゴーとアルデアはロズの弟を見やる。


 同じく征四郎もロズの弟を見やると、彼は厳しい表情のまま征四郎を見つめていた。


 緑色の双眸には若さに似合わぬ苦悩の影を見て取った気がした。


 ロズの弟はゆっくりと征四郎に近づいてきて告げた。


「今の言葉、嘘はないか?」


「ない」


「合点はできるな。――姉が家族の面会を断ったと言うのは、聞いた事があるか?」


「ない。家族と出会う日が、設けられていたのならば、私など呼ぶまい。寂しさから、呼ばれたのだ、私は」


 その言葉を聞き、そうかと呟いてから押し黙ったロズの弟。


 沈黙の間は征四郎は何も言わず、周囲を警戒するに留めた。


「姉と会って話がしたい」


「止める理由はない、姉弟で、ゆっくり話すが、良い」


「姉を討つとは、思わないのか?」


「させると思うのか。この私が」


 あまりに堂々とした物言いに、ロズの弟は呆気に取られて、それから可笑しげに笑った。



 笑い過ぎて浮かんだ涙を指先で拭いながら、ロズの弟は振り返り告げた。


「待機だ! 俺は姉とまず話をする」


「なっ! それは王命に違反するのでは!」


 他の兵士達はまあ、そうなるなと言った風だったが、アルデアのみが驚愕に目を見開いて食い下がった。


「その王命が法を逸脱しているではないか! 法務官アルデアは王命と法律を秤にかけどちらに傾くのか?」


「そ、それは……法でございますが……」


 ロズの弟に強く言われると、案外脆いのか、法や規律に忠実なだけなのかアルデアは口ごもった。


「そりゃそうだ。ロズワグン姫とは一切接触を持たず、その従者を討てと言うのはおかしいもんな。ましてや、やっこさん、王都の衛士以上に立派な護衛役じゃねぇの?」


 森守(ガーディアン)の男が癖なのか、髭を擦りながら茶化す様に言えば、アルデアは鋭い目つきで睨み返すが、反論は出来ない。


「しかしよぉ、その口ぶりじゃ若と姫だけじゃなく、アンタも同席する様な口ぶりだな。こっちも何人か護衛を付けたいんだがなぁ」


 イゴーが思いの外、気を回したように告げやると征四郎は頷きを返した。


「護衛ならば、五人まで選抜して、若君と入るが良い」


「アンタ一人で五人とやり合えると?」


「ここに住んで、それなりだ。罠くらいは用意してある」


 にこりともせずに、征四郎がその言葉を口にすれば、イゴーはまた大きく笑った。


「いやいやいや、使用人たちがいてソレが出来たのかい?」


 森守(ガーディアン)の男がそう問いかけると、征四郎は何事も無かったように肩を竦めて。


「そいつらの目は、姫の、美しさも、何も分からぬ節穴の目だ。罠くらい、隠れて張れる」


 そう言い切った征四郎の顔をまじまじと見て、森守(ガーディアン)の男も破顔して告げた。


「若も人たらしだったが、姉上も相当なようだ」


 そう告げながらロズの弟を見やって、何とも言えない表情をしているその顔を見れば、また森守(ガーディアン)の男は可笑しげに笑った。

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