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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ファンタジー的世界観でサクッと読むヒューマンドラマのすゝめ

軟禁のヒミツ

作者: 絹ごし春雨

 私は一冊のノートを手に頭をフル回転させていた。ここは、とある研究室であるらしい。らしい、というのは、私自身の記憶が、途中からプッツリ切れたように曖昧だからだ。目が覚めて見知らぬ窓のない部屋に驚いた。唯一の救いは、自身が研究者であることが分かっていることと、今まさに何かの実験中であることが、手元にある一冊のノートに記されていることだった。


 ノートにはこう書かれていた。

 “これを読む私へ。私は今、人生最大の実験をしている。タイムリミットは1日。1日ごとに記憶をリセットする薬を飲むこと。その限られた時間の中で、封印された記憶を解き明かし、謎を全て解けたと思ったら、机のスイッチを押すこと。毎日、日記をつけること。以上”


 これは自分から自分への挑戦状だ。やる気に満ち満ちて辺りを見回した。まず、壁にかかった時計。これで時刻を知ることができそうだ。そこの棚に置かれているのはどうやら研究資料のようだ。これは、手がかりになるのだろうか?ぺらりと一枚めくってみる。どうやら、一応いくつかの研究が乱雑に置かれているらしい。途中まで仕分けした跡が残っている。記憶にはないが、私がやったのか? それにしても、バラエティにとんでいる。


 ふむ、と腕を組むとお腹がぐうっとなった。そうだ、食事は? 食事はどうしたらいいのだろうか。トイレもあるし、水道は通っている。水は確保できるとして、と、そこまで考えた時この牢獄のような部屋の扉についた唯一のドアの、その下側、30cmくらいがスライドした。外から暖かい食事が運ばれたのだ。30cmでは外には出れそうにない。試しにドアノブを押したり引いたり回したりしてみるが、当然ドアは開かない。外から鍵がかかっているようだ。


 そうだ。私は思った。自分には確か妻も助手もいた。この先にいるのは、そのどちらかなのだろう。早く謎を解いて部屋から出なければ。


 私はとりあえず、研究資料の読解と仕分けに取り組むことにした。しかし、部屋に積み上げられていた、資料をひっくり返しても、なんの研究をしていたのかさっぱりで、記憶の謎につながるめぼしいものは見つからない。あっという間に時間が過ぎ去っていく。


 そういえば、日記! ふと思い出して日記を読むことにした。日付も何もないそれは唐突に始まっていた。初めの日は“なぜこのような事を私は始めたのだろうか?” という興味と混乱が綴られており、次の日には意気込み、また別の日には“妻や助手に会わなければ”といった切羽詰まった内容が綴られていた。それは40日あまりにも及ぶ日記だった。


 40という数字を見て、今日の私は思った。なんて馬鹿げた実験なのだろう。目が覚めた気分だった。そうして、日記からわかったことは、私はどの日も研究資料の読解にとりくんでいたことだ。本当にこの研究資料の中に知りたいことが書いてあるのか? ふと疑問に思った。ここまでして、解決しない問題なのだ。これはミスリードされているのではないだろうか。しかし、何をすれば実験の謎が解けるんだ?


 私は知りたかった。この自分がここまでして成し遂げたかったことはなんだ? なぜ、妻や助手は止めなかったのだろうか。だんだんと自分に腹が立ってきた。この実験を停止する方法はないのだろうか。机の引き出しをゴソゴソあさると、一番奥から、小さく折りたたんだ一枚の紙と、袋に入った薬が出てきた。


 “実験を中止したくなった私へ

思い直し1日でも続けることをおすすめする。この薬を飲めば、全ての記憶が蘇るだろう。しかし、実験は失敗だ“


 “失敗だ“という言葉が重く響く。私は悩んだ。そして、一計を講じてみることにした。それは、全ての謎が解けたフリをすること。そうだ、机のスイッチ……。どのみち、この実験は失敗だ。おそらく失敗するように作られている。ままよ、とスイッチを押し込む。


  けたたましいビープ音が悲鳴のように響いた。

 すると、その後ダダダッと激しい音がして、ガコンとドアに体当たりしたかのような勢いでドアが開き、記憶の中よりも老け込んだ助手が現れた。

「博士!この日が来なければいいと思っていました」

 彼は泣いていた。声をかけようとした時だった。

ドンッという音がした。ついで腹が激しい熱と痛みに襲われる。思わず手で触るとべっとりと赤いものがついた。血だ。彼の方を呆然と見やると、震える手で拳銃をにぎりしめている。


「奥様にも先立たれ、あなたも同じ病気だと知った時、僕がどれだけ悲しかったか。最後の瞬間まで、実験と研究、追求をして終わりたい。全てを思い出したら殺してくれって酷すぎますよ」


 ああ、そうだったのか。私は理解する。酷いことをしたものだ。

「私は幸せだったんだな」

 噛みしめるように呟いた。

「君には悪いことをした。私は全ての謎を解くことができなかった。しかし、君のおかげで謎が解けた。もう思い残すことはないよ」

 そうして、満足して微笑むとゆっくりと目を閉じる。

「博士?」

 足から力が抜けていく。

「博士⁉ 謎は解けなかった? それじゃ、僕が、僕がただ殺しただけ?」

「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だうそだぁぁぁぁ‼ 」


 助手の彼の悲痛な叫び声は意識の彼方へと消えて行った。


推理のつもりで書きはじめましたがが何かしら間違ってヒューマンドラマになりました(汗)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 推理モノって自分では書けないので、もうそれだけでチャレンジ精神に乾杯! [気になる点] そうですね、謎解きが謎解きになっていないですよね。そこが難しいところだと思います。  謎解きって、絡…
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