おまえ追放されたんだろ?俺たちとパーティ組まないか?IFルート
お(略)か?勇者全滅IFルート
おま略いか?を先に読んでからお読みください。
上のシリーズ一覧より飛べます。
なお、コメディさんは旅立っております。
暗い闇の中、モンスターが蠢いているその場所で、異常が発生していた。
閃光が煌めくたびに、モンスターが一体ずつ倒れていった。
異常を感じたモンスター達は混乱し、怯えた個体は悲鳴を上げ、算を乱して遠くに逃げていった。
……逃げた個体へと、また閃光が煌めく。
一体、また一体と逃げた先から倒れていくモンスター。
まるで心が弱い個体から順番に、死神が魂を切り取っていくようであった。
煌めく閃光の場所へいつのまにか男がいた。
黒塗りの刃を持ち、全身真っ黒な装束に身を包んだ男がそこにいた。
強い個体であるモンスターは咆哮を上げ、男に襲いかかる。
だが、男は音を消し、気配を消し、その存在を景色へと溶かして消えた。
男を見失い困惑する個体。また、閃光が煌めく。
断末魔を上げ、モンスターは倒れた。
……そして静寂が訪れた。
辺り一面にモンスターが倒れていた。
男は他にモンスターがいないことを確認するとホッと一息ついた。
ここは魔王城。
魔王を討つために男は単身で忍び込んでいた。
遠くのほうから鬨の声が上がったのが聞こえてきた。
「……始まったか。急がねば」と、男が独り言を言う。
魔王打倒のために軍が攻めて来ていた。
もはや人族は追い詰められ、最後の抵抗であった。
男はその軍を相手に敵が出払った隙をついて魔王を倒すつもりだった。
だが、魔王がいる場所まではまだまだ遠い。
「……約束は必ず守って見せる」
誰に向かって呟いたのだろうか。
男はまたその姿を闇へ隠して進むのだった。
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―三年前―
”勇者パーティ、魔王討伐に失敗する”
その報が全土へ広がった結果、人族の士気は落ちる一方だった。
そして勇者パーティが誰も帰ってこなかったという報告は人々に絶望を与えるに十分であった。
追放された哀れな男にとっても。
……男は手紙を読んでもなお立ち上がれなかった。
後悔と無力感に苛まれ、毎日を惰性のようにただ生きていた。
娘と義妹になるはずだった彼女たちがやってくるまで。
「お久しぶりです。元気そうでは……なさそうですね」悲しそうに妹ちゃんが言う。
「……見ての通りだ」男が自嘲気味に答える。
「……お兄さんはいつまでそうしてるんですか?」と妹ちゃんが問う。
「……俺に何ができるっていうんだ」力なく男が答える。
「……逃げてもいいんですよ。魔王なんてもう放っておいて、静かに娘ちゃんと3人で辺境の地で暮らしてもいいと思います。だからいつまでも腐らないでください」と妹ちゃんは優しい提案をしてくる。
「妹ちゃんは自由になっていいんだぞ? まだまだ若いんだから。娘を預けたままで申し訳ないと思っている。今までありがとう。娘は引き取ろう」男は言う。
「嫌です! 娘ちゃんを私から取り上げないでください。娘ちゃんの世話をすることが私のやりたいことです。お兄さんのお世話も……」強い口調で妹ちゃんが答える。
「…………そうか、すまない。助かるよ」そう答えながら男は娘を見る。
娘ちゃんは真っすぐ男を見ていた。
母親とまったく同じ目で真っすぐに男を見ていた。
「……娘の前でかっこつけなきゃ父親じゃないよな」そう言って男は立ち上がった。
男の死んだような目は光を取り戻していた。
「お兄さん! 別にお兄さんがやらなくてもいいじゃないですか! お兄さんまで私を置いて行ってしまうんですか!?」少し泣きながら妹ちゃんが言う。
「泣かないでくれ、すまないがこれは約束なんだ。だからやらなきゃいけない。……それに、俺がやりたいんだ」男は覚悟を決めた声で答える。
「お兄さんも勝手です! 残された人のことを考えてないです!」妹ちゃんが感情的に言う。
「わかったよ……。妹ちゃんとも約束するよ、必ず生きて帰ってくると」男は答えた。
「絶対ですよ。絶対に約束を守ってくださいよ」妹ちゃんが懇願する。
「ああ、約束は必ず守って見せるさ」男は答えた。
魔王と戦う決意を固めた男だったが、如何にして戦うか考える必要があった。
仲間を集めることを考えたが、有能な人材はすでになんらかの重要な役職についており、男が勧誘したところで集められる大義名分がなかった。勇者がいればその知名度からいって簡単に集められただろうが。
育てれば光るような人材もいたが、育ち切るまでに時間がおそらく足りないだろうからあきらめることにしたようだ。
そうなるとソロで魔王と戦うことになる。
ソロで魔王となると、雑魚戦で消耗するわけにもいかないため、雑魚は避ける選択肢になる。
考え抜いた結果、出た答えがアサシンスタイルだった。
そして男はアサシンスタイルを目指し身体を鍛えるのであった。
3年間たゆまぬ努力によりアサシンスタイルを確立し、支援・補助魔法を練り上げ、魔王への切り札も手に入れた。
魔王を軍で総攻撃するという知らせを受け、覚悟を決めて男は旅立ったのであった。
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「もう少しだ。もう少しで終わる」
人型の魔王は玉座でこれまでのことを思い浮かべていたようだった。
最後の悪あがきとばかりに、人族の連合軍が魔王城に攻めこんで来ていた。
”世界征服”
この戦いに勝利すれば、それがみえてくる。
最後の抵抗に敗れたならば、もはや人族は心が折れるだろう。
そしてそれから支配するのはたやすいことだろう。
もう少しで世界征服が達成できるとほくそ笑んだときに、魔王は闇から奇襲を受けた。
「何者だ!我を魔王だと知ってのことか!」魔王は奇襲を腕で防ぎ、威圧を込めて叫ぶ。
「……ただの保険だ」闇の中から現れた真っ黒な男が言う。
しかし、魔王に男の隠密は効かなかった。
どんなに隙をついて隠れてもすぐ魔王に男は見つけられた。
隠密行動による死角からの奇襲は諦め、男は姿を現したまま、魔王に切りかかった。
だが、魔王の身体には黒塗りの刃が通じなかった。
「……やはり刃が通らないか」ぼそりと男が言う。
「ははは! 我に傷をつけたくば聖剣を持ってくるんだな! まぁ、使い手の勇者は我が倒したのだがな!」魔王が嘲笑する。
男は武器を持ち替え、再び魔王を攻撃する。
その刃は聖なる光で輝いていた。
「バカな! まさか聖剣なのか!」その輝きを見て慌てて防御をする魔王。
「違うな。これは祝福された聖なるナイフ。聖剣ほどの代物じゃないさ。……だが、お前を傷つけることはできそうだな」男が言う。
「ッチ。面倒なものを持ち出しよって!」魔王はかすり傷を負いながらも愛剣である魔剣を取り出した。
そして魔王と男は切り結ぶ。
力も速さも魔王の方が圧倒的だった。
しかし、それでもなぜか男はかすり傷を増やしてはいるが、魔王と互角に戦えていた。
「勇者でもない貴様ごとき存在がなぜ我と互角に戦える!? 貴様! 一体何をした!?」魔王が吠える。
「……さぁな。お前が弱くなったんじゃないか?」男が挑発するように言う。
種明かしであるが、男は魔法を使っていた。
魔王の攻撃前に速さを上げるバフをかけていた。
デバフ魔法は高レベルの相手には抵抗されることが多いが、バフはなぜか高レベル相手でも抵抗されない。
そのため、魔王の攻撃は急に上がった速さにつられ、剣は自分が思う軌跡を描けず、タイミングが狂っていた。
その隙をついて男は回避や反撃をしていたのだった。
無論、攻撃後には速さのバフをすぐ解除していた。
男は瞬間的にバフをかけることと解除ができるようになるまで魔法を鍛え上げたのだった。
勿論、相手のタイミングを外すだけなため、相手の攻撃力は変わらない、むしろスピードが上がったために返って危険にもなりかねなかった。
危険な戦法であるが、バフ・デバフを操ることで相手を自分の思うように誘導していた。
一撃でももらえば重傷間違いないため、綱渡りのような攻防だった。
魔王の攻撃は一撃必殺だが、男は、祝福されているとはいえ、ナイフ1本であり、魔王と攻撃力には雲泥の差があった。
攻防を続けるうちに男に傷が増えていく。
男は何かを求めるようにダメージを負いながらも綱渡りの攻防を続けたのだった。
近接戦ではらちがあかないと思ったのか、魔王は男から離れて距離を取ると、範囲魔法で攻撃した。
男にとってこれが一番やってほしくない攻撃だった。
魔力によるごり押しの躱せない飽和攻撃。
ダメージが少なくなるように範囲攻撃を見極め、盾を構えて耐える。
様々な属性の魔法攻撃が男を襲う。
男の盾付近でなぜか魔力が少し打ち消されていたが、男へのダメージは十分だった。
男は魔法が止んだ隙をついて接近戦を挑む。
男が焦っていたせいか、綱渡りであった、攻防のバランスが崩れた。
男は致命的な隙を晒し、魔王はその隙をついて魔剣を振り下ろす。
「ガアアアアア!!!!」なんとか身体をねじり、致命傷は受けなかったが、左腕を切断され、男は苦痛に叫んだ。
腕から勢いよく噴出した返り血が魔王の全身へかかる。
「人間にしてはよくやったほうだ。誉めてやろう」魔王が愉快気に言う。
そして魔王はとどめを刺そうと、愛剣を苦しむ男に向かって振り下ろそうとした。
『 拘 束 !!』
男は魔法を予定通りつかった。
全身に返り血を浴びた魔王はその血によって固められた。
「これは!?」魔王が驚愕する。
魔王のその隙をついて、男は魔王を足場に全力で飛び上がった。
そして切り札を取り出し、残った手で逆手に持ち、ありったけのバフを自分にかけ、魔王にデバフをかけ、全体重を切り札にかけて、落下していく。
切り札の名前は『すべての魔を食い尽くす魔剣』
文字通り剣の周りに存在するすべての魔力を食らう魔剣であった。
かなり危険な魔剣だったが、聖剣は勇者しか使えず、男が魔王へ致命傷を与えるためにはどうしても必要だった。
とある場所で厳重に封印されていたが、男はアサシンとしての技術を結集し、忍び込んで手に入れていた。
無論。普段は魔封じの鞘で封印されている。
封印をとけばすぐに男の魔力を吸い尽くすため、3年間で少しの間でも耐えられるよう魔力量を上げた。
狙いは魔族の身体の中にあるといわれる魔力の核。
先ほどの攻防で、魔王がどこをナイフで攻撃されて嫌がるかの反応をみて、男は魔王の魔力の核の位置を見極め、探り当てていた。
”すべてはこの一撃のために”
「貴様! これが貴様の狙いだったのか! ナイフも腕をわざと切られ返り血を浴びせたのも!」拘束された魔王が吠える。
『拘束』は魔王相手では長い間止められない、一回限りのチャンス。
これで決められなければ男は死ぬほかなかった。
「これで終われぇぇぇぇええええええ!!!」男が叫び、ありったけの力で魔王へ魔剣を突き刺す。
男の持つ魔剣が魔王の核へと突き刺さった。
「ぐぁあああああああああああああああああああ!!!!」魔王が断末魔の叫び声をあげた。
すぐに男は魔剣から手を放し、魔王から飛びのいて距離をとった。
やがて魔王の叫びは止み、静寂が場を満ちた。
魔王の姿は完全になくなり、最後そこには魔剣が残っただけだった。
男は息を飲んで、そこまで見守るとハイポーションで腕の出血を止め、座り込んだ。
男は肉体的にも精神的にも限界だった。満身創痍だった。
「……終わった。約束は守ったぞ。バカタレどもが……」誰かに向かって男がつぶやく。
男は満足そうな笑みを浮かべ地面に仰向けに倒れこんだ。
そのまま永遠に眠ってしまいそうなところで男は思い出したようにつぶやいた。
「もう一つ、約束……」倒れた男の呟きは誰にも聞こえなかった。
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軍と戦っていたモンスター達に異常が起きていた。
今まで統制がかった動きをしていたモンスター達がまったくバラバラな動きをしはじめたのだ。
何事が起こったのかと怪しんだが、千載一遇のチャンスを逃すわけにもいかなかった。
軍は一気に攻勢に出て、そして激しい戦いの末、見事モンスターの大群を打ち破ったのだった。
勢いのまま魔王城へ攻め込んだ軍であったが、そこで魔王城の中の光景を見て驚いた。
モンスターたちの死体が散乱していた。
魔王城の奥まで進軍したがモンスターの死体しかなかった。
玉座に魔王の姿はなかった。
魔王城のすべてを探索したが、モンスターの死体以外は見つけることができなかった。
軍の者たちは気持ち悪さを感じながらも、生き残ったことを喜び国へ帰るのであった。
……その後、魔王は二度と現れることはなかった。
男のその後を知るものはいない。
とりあえずこのシリーズのキャラ達の出番はこれでおしまいです。
この物語はフィクションです。いいね?
シリアスは似合わないことがよくわかった。
勇幼聖「出番がないんだけど……」
おまえらがでると全部コメディになるんだよ!
まったく人様の感想欄まで出しゃばりやがってw
よし、この調子で他の作者様にこいつらの物語を書いてもらおうか。
勇幼聖俺「おまえが書け」
すいませんでしたー。
でも感想にキャラたちが出てくるなんて、作者としてはうれしいかぎりです。
感謝感激!