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幻想怪異録(旧版)  作者: 聖なる写真
3.人形達の楽園
13/43

3:虐待文集

※この小説はフィクションです。

 不快になるような表現を今回含んでいますのでご注意ください。


「ふぎゃあ!」

「あっ、 すいません」


 清山県赤霧市にある児童相談所。 彩香の頭に証拠や調書を纏めた段ボール箱が直撃する。 箱は段ボールではあるものの、 中身はぎっしりと詰まっており、 中々の重さがある。 それが直撃した痛さに「ぐおおぉおお……」と頭を押さえてもだえる彩香。 落とした張本人である穂村は何度も謝りながら、 彼女の頭にたんこぶができてないか何度も確認する。


「気を付けてよ! これ以上わたしの背が縮んだらどう責任取ってくれるの!?」

「むしろたんこぶができた方が身長伸びるんじゃねえの?」

「うっさい!」


 相当痛かったのか、 落とした穂村とからかう桜子に噛みつく彩香。

 喫茶店を出た後、 児童相談所に向かう最中に間宮に連絡をしたが、 すでに近くの警察署に向かっているらしく、 向こうから連絡を入れてみるとのことだった。

 その後、 四人が児童相談所に向かうと、 話が通っていたらしく、 職員が倉庫へと案内してくれた。 倉庫にはたくさんのスチールラックがあり、 そこには数多くの段ボール箱が詰められていた。 これら一つ一つに虐待された子供達がいると考えると、 いささか気が滅入りそうになる。

 流石に時間がなかったようで、 彼女達が求めた事件の資料は用意できず、 「申し訳ありませんが……そちらで探していただければ」と四人に告げると職員はそそくさと立ち去っていた。 プライベートとかは気にしないのだろうか。 まあ、 それを言うならばいくら刑事の紹介があったとはいえ、 素人四人に事件の資料を漁らせるのはいかがなものかと思うのだが。


 まあ、 そんな児童相談所のガバガバぶりに助けられながらも、 四人は件の事件の資料を探して回った。 いささか乱雑に置かれた資料の山に苦戦させられつつも、 二時間後、 四人はついに事件の資料を見つけることができた。


「おう、 どうだ。 見つかったか」


 円が資料を棚から下ろしていると倉庫の外から声がかかる。 先に警察署に向かっていた間宮だった。 その手には安物の印刷機で印刷された紙の束が握られている。 盗難事件の資料のようだ。

 「今見つけたところ」と円が答えるながら段ボール箱を三個ほど下ろすと、 残りの三人が下ろした段ボール箱を開いて、 中身を次々と出し始める。

 人形、 作文などが中心のそれを軽く調べながら次々と出していく四人。 そんな四人に間宮は警察署で調べた事について話し始める。


「一カ月前の盗難事件。 盗まれたのはやっぱり“リサちゃん人形”だったそうだ。 しかもその数四万体」

「四万!?」


 思わず作業の手を止めて、 叫びながら報告者の方を見る彩香。 他の三人も驚きの表情をしたまま、 同じように間宮の方を見る。 間宮刑事は「あぁ、 段ボール数箱まとめて盗まれたらしい」と続けると、 下ろした段ボール箱の近くにしゃがみ、 手の止まった四人に代わって次々と中身を取り出していく。

 桜子が刑事から資料を受け取ると、 パラパラと捲っていく。 彩香が「手伝えよ」と言いたげな目線を送るが、 それを知ってか知らずか、 そのまま読み進める桜子。


「へぇ〜、 扉をピッキングで開けたのか。 古い商品しか入れてなかったからって防犯設備もおざなりだったらしい」

「古い商品ほどプレミア価値が付いて高値になりそうなものですけど」

「いや、 手伝えよ。 こっちを先にしようよ」


 事件の資料について話し合いはじめた二人を止める彩香。 その際にいささか口調が荒くなってしまうのは苛立っているためだろう。

 先程まで話し合っていた穂村はそれで黙ってしまう。 穂村はそのまま箱の中身を取り出す作業に戻るが、 桜子の方は「わりぃわりぃ」と心にもないようなことを言うとそのまま資料を読みふける作業に戻ってしまった。 彩香はそんなジャーナリストの様子を見て聞こえるように舌打ちをするが、 それ以上何も言わずに自身も段ボール箱を開ける作業に戻る。

 そんな三人を一目もせず、 必死になって段ボール箱の中身を取り出していく円。 そして、 とうとうそれを見つけた。


「これって……」


 あの日見た人形の軍団。 あれらが着ていた服とよく似ていたのだ。 他の人形も見比べてみるが、 この人形が一番良く似ていた。


「これだ! 間違いない!」


 人形の衣服の製作者の名前は『人長(ひとおさ) (るな)』と書かれていた。 大慌てで、 彼女が書いた作文を探していく一行。 目的の作文はすぐに見つかった。 彼女に関する調書もすぐに。

 作文の内容ははっきり言ってひどいものだった。 実の父親からの性的虐待。 それを忘れさせるための電気ショック……直接的には書かれていないが、 想像しうるには十分すぎる材料が揃っていた。 特に心理学を学んでいる彩香は読んでいくうちに内容を十二分に理解したのだろう。 顔を真っ赤にしていく。


「なんなのこれ! こんなのありえない! 父親は去勢されてしかるべきよ!」

「……ところが父親の方は無罪放免、 厳重注意で済ませている」

「はあ!? なんで!?」

「父親の言葉を全面的に信じたんだろう。『娘は母親が亡くなったショックで精神的に異常をきたし、 虚言癖を発症するようになった。 その治療の為に電気ショックを与えた』と証言している。 父親が精神科医、 しかも、 専門が思春期前の子供におけるトラウマの影響らしくてな。 厳重注意の方も、 娘の管理をしっかりやれとのことだと書いているな」

「なんで信じたの!? 理解できない! 子供に電気ショックなんてそれこそ影響が一生残るのに!」


 調書をペラペラと捲っていた間宮の言葉に更にヒートアップしていく彩香。 確かに、 妄言とも言える父親の主張を全面的に認めた当時の児童相談所の判断は狂っているとしか思えない。 一方で他の子供達は親元から引き離しているなど成果がゼロとは言えなかった。


「住所は載っていますか?」

「調書には載ってるが……二十年前のものだぞ」

「精神科医だよね? どこで働いてるか分かる?」

「……こいつ近所の病院で働いてるな。 まだいるかもしれん」


 穂村と円の質問に間宮は調書をパラパラと捲っていきながら答えていく。


「一応、 行ってみよう。 もしいなくても今の状況が分かるかもしれないし」


 そう言うと、 立ち上がる円。 しかし、 現在六時半ばであり、 外から職員の「まだかよ」という視線を感じる。 病院に到着するころには七時を過ぎてしまうだろう。


「今日はもう遅いし、 明日にしよう。 向こうにも迷惑になっちゃうだろうし」


 彩香にそう言われてしまい、 渋々しゃがむと、 他の三人と一緒に中身を段ボールに入れなおす。

 ただ一人、 桜子だけは間宮が持ってきた資料を読みふけっていたが、 間宮に取り上げられると、 不満そうな表情をしながら他の面々と同じように中身を纏めだした。






 †






 翌日。 近くにある病院に到着すると、 間宮は受付の女性に手帳を見せ、 精神科医、 人長 (すばる)がいるか確認した。


「今日はまだお見えになっていないですね。 もう来られてもよいのですが……」

「どうしました? 何か問題でも?」


 何か隠しているような表情を見せる受付の女性に対して、 もう少しだけ問い詰めると彼女は少し悩んだ末に小さな声で刑事に話し出した。


「実は昨日も来られてなくて……電話も出られないようで、 今日来られなければ、 一度様子を見に行くべきじゃないのか話し合ってたところなんです」

「あぁ、 じゃあついでに様子を見に行きますよ。 住所を教えていただけますか」


 間宮がそう言うと、 女性は間宮を信頼したのか、 あっさりと人長の住所を教えてくれた。 ついでに自身の電話番号も。

 「何かあったら連絡してください。 何かなくても連絡くださいね」とウィンクしながらどこか色っぽい声色で話す彼女に別れを告げて、 間宮は入口で待機していた四人と共に外に出た。


「現住所は手に入れた。 ただ、 昨日今日と職場には来ていない」

「何か事件に巻き込まれたかな。 それとも事故か」

「今回の件とも関係があるかも」


 ぐちぐちと話し合いながら人長 昴の家に向かう一行。 病院から人長の家まではそう遠くなく、 車であれば十分で行ける距離にあった。 閑静な住宅街にある家は他の家と同じような気がした。


「見て、 窓ガラスが割れてる」

「玄関も開いてるね……泥棒かな?」


 あくまで“気がした”だけだった。 円が割れた窓ガラスを、 彩香が玄関に鍵がかかっていないことを確認すると、 間宮がインターフォンを鳴らす。 何かしらの事件かそれとも、 ただの泥棒かは不明だが、 中に人がいるのか確認するべきだろう。

 しかし、 インターフォンを何度鳴らしても、 家から人が出てくることはなかった。 そこで一行は思い切って家主の了承を得ぬまま中に入ることにした。


 玄関のドアを音をたてないように慎重に開けて、 「お邪魔しま〜す」と小声で喋りながら、 円を先頭に中に入る一行。 室内は明かりがついておらず、 窓から入ってくる日の光だけが家の中を照らしていた。


「人長さ〜ん、 いらっしゃいますか〜」

「いらっしゃったら返事をしてくださ〜い」

「小声で喋るくらいなら、 いっそ喋らない方がいいんじゃねえの?」


 小声で喋り続ける円と彩香に対して突っ込む桜子。 彼女の言葉に思うところがあったのか、 喋ることをやめて、 何も話さず、 廊下を歩む一行。

 家の主、 人長 昴はすぐに見つかった。 ただし、 すでに生きてはいなかった。

 彼は書斎と思わしき部屋で見つかった。 全身を鋭利な刃物で刺され、 流れた血で全身を真っ赤に染めた姿で倒れていた。 刺し傷の数は簡単に把握できないが四十は超えているように見える。

 彼の足元には人形が数体転がっていた。 “リサちゃん人形”だ。 手足が砕けたり、 胴体から二つになっている人形もあったが、 それら全てがカッターナイフや包丁といった刃物を握っていた。


「人形に襲われたんだ……!」


 円の言葉に異論を唱える者はいなかった。

 盗まれた四万体のリサちゃん人形。 それらが全て敵になる光景を思い浮かべて、 五人は顔を青ざめた。




「警察が来る前に簡単に調べられないか?」


 ふと、 桜子がそう呟くことで五人はできる限り現場を荒らさないように家中を調べ始めた。

 刑事である間宮はあまりいい顔をしなかったが、 四人に手袋をつけて、 指紋を付けないようにさせたあたり、 黙認するつもりらしい。


 そうして、 書斎内を探索し始めた円と桜子だが、 出るわ出るわ、 十歳から十二歳あたりと思われる少女達の裸の写真集が。 中には彼自身が撮影したものもあるらしく、 この書斎を背景にした写真もあった。 っして、 ロリコン大歓喜の写真集の一番初めのページには。


「“月 九歳 二〇〇二年十一月十二日”……か」


 人長 昴の娘、 人長 月と思しき裸の写真があった。 彼女の股は赤い液体が流れており、 その表情はどう見ても幸福そうには見えない。 胸を隠すように抱きかかえている三体のリサちゃん人形の服装に円は見覚えがあった。 数日前、 自身と従妹を襲った人形達が来ていた服装だ。


「おい、 こことは違う住所が書かれたメモがあったぞ。 こことは違う家の間取り図もだ。 ……どうした?」


 円の作業が止まったのを見て、 桜子が横から覗き込んだが、 円が見た内容を知ると、 悲しげな表情をして書斎内を見渡す。

 書斎内には精神医学の本だけではなく、 いくつかの賞状や写真、 そして可愛らしい人形が置かれていた。 お堅い学術書と可愛らしい人形のミスマッチ感が妙に調和がとれている。 しかし、 この書斎の主の性癖を知ってしまった今では、 可愛らしい人形もお堅い学術書も本来の物とは別の雰囲気を醸し出している気がする。

 その中で唯一奇妙な石が書斎の机の上に置かれているのを桜子は見つけた。 いかにも周囲の雰囲気に合っていない。 手に取ってみるが、 別に地質学に詳しいわけでもない彼女はそれが何の石なのか見当もつかなかった。


「人長 月はどこにもいなかった。 多分別のところに住んでいるんじゃないのか?」

「居間は特に目に付くものはないよ」

「二階の方も特にありませんでした」


 家中を探していた他の三人が書斎に集まって来た。 三人はどこか暗い表情をしている二人に疑問を持ったが、 円が何も言わずに、 持っていた写真集を差し出すと、 三人とも何とも言えない表情になった。 一方で、 桜子が見つけたメモと間取り図を見せて、 情報を共有する。 そのうち、 間宮が「後は警察(俺たち)に任せてくれ」と言って、 一一〇番に電話をかけて、 オペレーターと話し始めた。

 「警察が事件に遭遇したらまず、 一一〇番するってのは本当だったんだなー」と石を机の上に戻しながら考えている桜子。 そんな彼女を放置して、 彩香は円に声をかけた。


「あの棚の上にあるトランクケースって取れる?」

「取れるけどあれが何か?」


 そう言いながらも、 棚の上にあるトランクケースを背伸びしてあっさりと取る円。 「身長高いってうらやましいなぁ」と思いながらも、 円から受け取ったトランクケースを開ける彩香。


「多分、 円満解決にはこれが必要だと思う」


 トランクケースの中身。 それは、 床で転がっている人形と同じ服を着たリサちゃん人形だった。






 ふと思ったんだけど、 〇カちゃん人形がカッターナイフや包丁持っているってシュールな気が。

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