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爺さんチートでチートいい気分  作者: 猫野御飯
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【第一章・爺さん旅立ち編】チャプター1 茶の間と爺さん

その日、ワシは茶の間でお茶を飲みながら新聞を読んでおった。オリンピックがどうのこうのじゃとか書いてあってそう言えば東京オリンピックの頃ワシは何歳じゃったかと思いをはせておった。


 ワシのすぐ横では飼い猫のミケランジェロが毛繕いをしておる。物凄く自分の身体を舐めとる。

 英語ではグルーなんとかという奴じゃ。美味しそうに舐めとるわい。


「ねぇ、爺ちゃん頼みがあんだけど」


 孫の翔太が学校から帰ってくるなり開口一番で言う。穏やかな陽だまりに包まれた聖域だった茶の間が一瞬で凍り付くようじゃった。

 なにせ、孫はとにかくしつこい。


「俺、今小6じゃん。でも小学生でもスマホ持ってるのって当たり前なのね。でも、アイツらはどう言っても買ってくんない訳。考えが古いっていうかヤバイんだよね」


 ワシは黙ったままお茶をすする。実の親をアイツ呼ばわりとは世も末じゃて。ワシの小さい頃だったら間違いなく引っ張たかれて吊るし柿のように吊るし上げられておるな。


「でさ、でさスマホ買って欲しいんだけど。友達のケイもアキトも皆じいちゃんとか、ばあちゃんに買ってもらってるって話なの。だからさ俺も買ってほしいんだけど」


 ふむ、と曖昧な返事をしお茶をすする。飼い猫のミケランジェロは翔太が怖いらしく部屋の隅に逃げて翔太の動向を探っておる。いつも


「なあ、シカトしてないでさー、うんとか、すんとか言ってれよ」


 生意気じゃ。実に生意気なガキじゃ。


「すん」


 うん、と言ってしまうと買ってやるという意味に捉えられかねないのでそう言ってみよった。


「はぁ、マジで意味不なんだけど~。マジでそういうのヤバイし買ってくれるまで俺ずっとここにいるから」


 意味不というのは若者言葉で意味不明という意味よ、と嫁の美代子が言っておった気がする。

 翔太はどでん、とワシの正面の座布団に座り込むと仏頂面でワシを見よる。


「買って、買って、買って、買って、スマホ買って、買って買って、出来ればSIMフリーじゃないディズニーモバイルの奴買って」


 嗚呼うるさいのぉ~。本当に孫は鬼じゃ。孫がいる事で祖父母は本当に活き活きとして幸せそうです、なんてテレビでどこぞの嫁が言っていた事が全て幻想じゃ。


「スマホ、スマホ、スッマホ、スッマホ、スーマーホー」


 手拍子を入れてしつこく翔太が繰り返す。鼓膜が破れそうじゃ。

 その時、障子がガラっと開き嫁の美代子が不機嫌そうな顔で


「ちょっとおじいさん。スマホなんて買い与えたら承知しませんからね!」


 ピシャリと言う音と共に障子が閉まり、嫁の足音が遠ざかっていく。孫も鬼ならやはり嫁も鬼じゃ。

 そう言えば以前テレビで……。


 ――祖父に赤いチャンチャンコをプレゼントしたら喜んで着てくれたんです。もうとにかく可愛くって


 なんて嫁が街頭インタビューなるものを受けていた事があったわいな。勿論あれも幻想じゃ、現実はせちがらい。


「じいちゃん」


 と耳元で翔太が囁いてくる。


「スマホ買って、スマホ買って、スマホ買って、スマホ買って、スマホスマホ、スマスマホ、スマホ買ってーじいちゃん。皆持ってるスマ、スマホ」


 追い打ちをかけるように何度も囁いてくる。大声を出すと美代子がくるもんで小声作戦に切り替わったようじゃ。

 それにしてもなんてしつこい奴なんじゃ。まさに執念の塊、鬼じゃ鬼がここにはおる。ここは地獄間違いなく地獄じゃ。


 このままではワシの気がどうにかしてしまう。ワシはゆっくりと立ち上がる。


「仕方ない。今回だけじゃぞ」

 

 ニヤッ、と目を細めて笑う孫の得意げな顔を見て背筋にゾクッと虫唾が走るようじゃった。

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