第94話「連れて行って!」
ソフィアの『制圧』命令。
身構える俺達。
……しかしゴッドハルトは微動だにしない。
一体、どうした事なのか?
信じられない状況にソフィアは驚愕する。
忠実を旨とする自分の親衛隊長が、言う事を聞かないのだから当然であろう。
「ななな、何故じゃ!? ゴッドハルトよ! 何故、妾の命令が聞けないのじゃ!?」
「姫様! オ聞キ下サイ! 私ハ、コノトールト真ッ向勝負ヲシテ完敗シ、命マデ救ワレタノデス」
「何!? ゴッドハルト! お前のその最新式の機体が負けたと言うのか!」
「ハイ! 我等ハ戦ウ前ニ約束ヲシマシタ。負ケタ方ガ傘下ニ入ルト! ソノ上姫様モ、ソノ機体ニ居ルトイウ事ハ、トールニ命ヲ救ワレタノデハ、ナイノデスカ?」
「う、そ、それは!」
「ナラ、今ノ命令ハ聞ケマセヌ。人トシテ如何ナモノカト」
ゴッドハルトから人の道に外れて良いのか? と聞かれたソフィアは思わず俯いてしまった。
「ううう……」
「我々ガルドルド人ハ誇リダケハ捨テラレマセン。例エ姫様ノ、ゴ命令デモ、トール達ヘ手ヲ出シタラ、忌ムベキ外道ニ堕チテシマイマス」
ゴッドハルトに諭されたソフィアは、さすがに堪えたようである。
止めをさされてしまった彼女はその場に、がっくりと膝を突いてしまった。
30分後――差し支えないレベルと言う前提でだが、現状の説明が行われた。
俺が自分達の素性を始めとして、それをアモンやジュリア、イザベラが補足するという形でソフィアに対して話をしたのだ。
所々、ゴッドハルトも説明を入れた。
当然、説明する側もお互いに知らない事も多かったから、知識や情報を共有する意味合いもある。
それが終わると今度はソフィアから説明が行われた。
あの古代文字がびっしりと書かれた円筒形の長いカプセルは……
やはり彼女の棺だそうだ。
更に驚いた事があった。
あのカプセルの中には数千年前の彼女の肉体がそのままの状態で眠っているという。
……長い眠りについていたソフィアはある時、目覚めた。
そして、ふと魂のみで抜け出る事が出来るようになったようだ。
「一般的に言えば、精神体という奴じゃな……」
成る程。
俺の中二病的知識で言えば、幽体離脱みたいなものだろう。
ソフィアはこの墓所から出て、あちらこちらを自由に行動しようとしたが、不思議な結界があり、玄室の外には一切出られなかったそうだ。
しかし、遠くまで見通せる能力や対象者に話しかけられる能力はあった。
なので、迷宮に入って来た人間達の魂に触れて念話で話す事はしていたらしい。
迷宮に居た俺に対してしたのと同じ様に、身分を隠し正体不明の声として呼びかけていたのである。
だがこれまで話し掛けられたのは、一攫千金目当てのいいかげんな冒険者ばかり。
俺達が来るまでは、碌な人間が居なかったという。
それでも、冒険者達から断片的な情報は集める事は出来た。
ソフィアは慎重な性格で、冒険者から得た情報自体を頭から信用しなかった。
その為、正確な情報収集と親衛隊以外の新たな人間の下僕を得たいと思うようになったのだ。
そして5階のボスであるミノタウロスが倒された場合、連動して魔法の扉が出現するように仕掛けをしたのである。
しかし!
ある日、アクシデントは起きた!
棺の機能に故障が発生して、ソフィアの肉体自体が崩壊する危機に陥ったのである。
ソフィアは焦った。
棺の機能により維持されていた生身の肉体の崩壊が進み、それに比例し魂も崩壊して行くからだ。
だが、生き延びる方法はあった。
ゴッドハルトの機体、滅ぼす者と同様に旧ガルドルド魔法帝国は人間に極力近い構造で永遠の生命を持つ究極の自動人形を開発していた。
それもソフィアをモデルとし、寸分違わない機体を造りあげていたのである。
生き延びる方法とは、その自動人形に秘法を使って自らの魂を移す事。
但し、いくつかクリアしなければならない条件があった。
玄室にある仕掛けにより隠された自動人形を出現させるには、秘密のキーワードが必要である。
キーワードとは創世神の言霊であり、神力を行使出来る使徒たる者の詠唱が必要なのだと。
並行して崩壊寸前である、ソフィアの魂の修復も行うという厳しい条件である。
そこにたまたま現れたのが俺。
創世神の息子スパイラルの使徒で、魂を一時的に修復出来る魔道具『反魂香』を所持した俺であったのだ。
「ふ~ん……まあ、お前の命が……いや、魂かもしれないけど、助かってよかったじゃあないか?」
「…………」
俺の問い掛けにソフィアは無言であった。
まあ、良い。
後はゴッドハルトにオリハルコン錬金の秘法を聞くだけである。
それで、ミッションは完了するのだ。
――30分後
俺達は希望した通りに、ガルドルド帝国の秘伝であるオリハルコン錬金の方法をゴッドハルトから取得した。
俺が聞いても難しい方法だが、イザベラやアモンは理解したという。
悪魔王国には凄腕の錬金術師達が居るというし、技術習得や加工は彼等で何とかなるらしい。
イザベラの話では必要な金属素材もバッチリ揃えられそうだ。
そして錬金には必須と言われるキーアイテム『賢者の石』は俺が持っている。
これで万全だ。
後は婚礼の時間に間に合うかどうかだけ。
やはりあの時響いた、俺への内なる声は運命の指標だった。
結果的にこの『賢者の石』と『反魂香』は共に売却しないでよかったというオチなのだ。
よっし、パーフェクトだ!
俺達はこの迷宮での目的を完全に果した。
後はイザベラの実家である『悪魔の王国』に急ぎ向かうだけである。
俺達はおもむろに立ち上がると、ソフィアやゴッドハルト達に別れを告げた。
ゴッドハルト麾下、鋼鉄の巨人達が俺の配下にはなったが、よくよく考えたら彼等を地上に連れてはいけない。
元通り、ここでソフィアを守護する存在であった方がお互いの幸せの筈だ。
俺達は早速、迷宮の5階に繋がる通路の入り口へ向かおうとした。
と、その時。
「待って! 待ってたもれ! 妾も一緒に連れて行って欲しいのじゃ」
手を振り挙げたソフィアが、大声で同行を求めて叫んだのであった。
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