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第93話「恩を仇で返す?」

 ソフィアは俺を見てから、周囲を見渡す。

 そして大きな声で言い放つ。


「ひとつ聞きたい! お前達の中に我がガルドルドの魔法工学師の血を、もしくは知識を引き継ぎし者はおらぬか?」


 それは(すが)る者の必死な叫び。

 先程の慌てぶりからすると、ソフィアの身に何かトラブルが起こったに違いない。

 だが……

 当然ながら、俺達は知らない。

 アモンでさえ、ガルドルド魔法工学の知識は有していなかった。

 

 ソフィアの言葉を聞いて、アモンは遥か昔の記憶を呼び戻したようである。


「悪いな……我々が勝ってお前達の王宮を占領した時には何も無かった。貴重な魔法設備や資料などは、あらかた破壊、廃棄されていたのだ」


「そうか……」


 うつむいて呟いたソフィアであったが、何か思い出したのか、「ハッ」としてアモンに向き直った。


「そこな悪魔! お前の言う通りであれば……冥界大戦はお前達悪魔の勝利のようだが?」


「名乗ろう! 俺の名は悪魔侯爵アモン。お前の言う通りだ、お前達が冥界大戦と呼ぶ(いくさ)は俺達悪魔が勝利したのは間違い無い」


 きっぱりと言い放つアモンの言葉はソフィアには相当、こたえたようだ。

 無理もない。

 目の前に故国を散々蹂躙した上に、滅ぼした相手が居るのだから。


 しかし、ソフィアは気丈にもアモンを問い質す。


「では皇帝である兄上は? そして我がガルドルド魔法帝国は現在、どうなっておるのだ?」


 その問いに答えたのは、アモンではなかった。

 この世界の各地の情勢を知るジュリアである。


「残念ながら……貴女の国は数千年前、とうに滅んだわ。今は同じ名前の国があるけど……現在の統治者が昔の貴女の国の繁栄にあやかってつけただけで直接は何の関係もないのよ」


「う、嘘じゃ…………」


 厳しい現実を突きつけられて、言葉を飲み込んでしまったソフィア。

 俺はとりあえず戻る事を提案した。


「話が長くなりそうだから、一旦表に出よう。ゴッドハルトも待っているだろうからな」


 俺がゴッドハルトの名前を出すとソフィアは色めきたった。


「ゴッドハルトじゃと!? その名は(わらわ)の親衛隊である騎士団の団長の名じゃぞ! か、彼が外に居るのじゃな?」


 俺は黙って頷くと、ソフィアがとんでもない事を要求して来た。


「よし! トールよ! そこまで妾を背負って行け!」


 出たよ……

 確かに王女ならば、周囲にかしずいた臣下に対して、雑務を命じるのは決して不自然ではないだろう。

 だが俺はソフィアの家来や下僕ではない。


「どうした? 何をしておるのじゃ? ガルドルドの可愛い王女を下賎な者が背負えるのじゃぞ、光栄な話であろうが?」


 光栄な話ね……

 ソフィアの価値観は、数千年前のままなんだろう。

 今のキミはただの少女、いや単なる自動人形オートマタなのに……


「……う~ん、お前の事は可哀想だと思うが……断る!」


「な、何故じゃ!?」


「悪いが俺はお前の下僕じゃない。どうせ、俺達は地上に帰るが、お前と部下達は今後もこの地で暮らすのだからな。背負ってくれとか、そんな事は部下であるゴッドハルトにでも頼むが良いさ」


「ううう……」


 不満そうに唸るソフィアであるが、俺はスルー。

 そんなこんなで、俺達は玄室の外で待つゴッドハルトの下へ戻ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ヒ、姫様! 何ト言ウ、オ姿ニ!」


 自動人形(オートマタ)の姿で出て来たソフィアにゴッドハルトは嘆く。

 ゴッドハルトはソフィアがどのような姿で眠っているか知っている。

 だから、重大なトラブルがあったと理解しているのだろう。


「そなたこそ……とうとう、その最終型の機体へ魂を移したか? クラウディアとシャルロッテはどうした?」


 ソフィアがゴッドハルトに尋ねる名前は彼の身内――家族であるらしかった。


「……我ガ妻子ハ、姫様ヲ守ル為ト伝エタラ、快ク送リ出シテクレマシタ。アレカラ数千年ガ経ッタヨウデスカラ、今ハモウコノ世ノ者デハアリマスマイ」


 機体から発せられる合成音声的な抑揚の無い言葉の筈なのに、俺には何故か悲しく聞こえて仕方がなかった。

 

 どうやらソフィアも同じ気持ちのようだ。

 大きなため息を吐いたのである。 


「はぁ……そうか、そなたの忠誠はしかと受け取ったぞ。では妾が改めて命じよう」


「ナンナリト」


「ふむ、この者達を……制圧せよ!」


 な、何だと!

 いきなり出た俺達への攻撃命令!

 やはりソフィアは、主導権を握るチャンスを窺っていたのだ。


 ヤバイ!

 こんな近距離で、ゴッドハルトから攻撃されたら?

 抵抗しようがないぞ。


 俺達は本能的に、思わず身構えたのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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