第74話「戦いの決意」
アモンは部下である怖ろしい悪霊を召喚。
初心者殺しの連中は、今迄の悪行が返る自業自得という形で殺された。
いわゆる因果応報である。
骨となった奴等の骸……その傍らには所持していた多くのお宝が残されていた。
今迄襲った冒険者達から容赦なく奪ったものであろう。
盗賊の上前をはねるというか、そのような物を貰ってしまって本当に良いのか?
俺は、最後まで躊躇した。
しかしジュリアとイザベラは「問題なんか全く無い」と言い切るのである。
「それくらいOK! いい気味よ、あんな鬼畜」
「ジュリアの言う通りだ。私達悪魔にも劣る外道さ」
鬼畜に外道か。
確かに俺の知っている上級悪魔ふたりの方が全然立派だなぁと思う。
イザベラは筋を通す、粋な姉御。
アモンは礼儀正しく、正々堂々とした戦士。
あんな初心者殺し共に比べれば、俺から見ても淑女と紳士だ。
俺と嫁達は、車座になってお宝を確認した。
背後ではアモンが腕組みをして立っている。
奴等から頂こうとするものは、幸い呪われてはいない。
まず現金が金貨200枚で200万アウルム、そして銀貨等で30万アウルム、合計230万アウルムもある。
そして魔法指輪が3つに、魔力蓄積用の魔法水晶がふたつだ。
お~いジュリア、指輪の鑑定だ。
君の出番だよ~。
俺達のクランでは、指輪や貴金属は竜神族の血を引くジュリアが鑑定担当だ。
「うふふ、守護の指輪がひとつ。そして魔力回復の指輪がひとつ、そして最後は体力強化の指輪……かな」
死んだ奴がつけていた装身具はどうかとも思ったが……
一応俺は聞いてみる。
「この指輪……気持ち悪くない?」
「ええっ? 素敵な指輪じゃない! どうして嫌なの?」
と、イザベラは「しれっ」と言った。
ジュリアも同調している。
「あたしもイザベラと同じで全然平気よ! そんなの気にしていたら商売なんて出来ないし……さすがに呪われているのは勘弁だけどね」
悪魔のイザベラは勿論、人間のジュリアも全く抵抗がない。
前世の女の子だったら、絶対に嫌がるであろう。
男の俺でさえ、すっごく嫌だもの……
この異世界の感覚は俺には理解し難いものがある。
よ~し、だったら魔力回復の指輪はイザベラが、そして体力強化の指輪は君がつけなさい、ジュリア。
魔力蓄積用の魔法水晶に関してはイザベラかアモンに魔力を篭めて貰う。
俺の魔力切れの際の、予備バッテリー代わりとしよう。
鎧などの防具はさすがに放棄すると決めていた。
あいつらの使っていた武器はどうかな?
俺は奴等が使っていた武器を手にとって調べてみる。
なまくらなロングソードが3振りと、錆びた大型のメイスがひとつ、そして小さな宝石のついた短剣がひとつ。
……この中でましなのは短剣くらいか。
ちなみに、なまくらとは切れ味の鈍い、いわゆる質が悪い武器という意味。
……ようは殆ど価値が無いって事。
短剣だけ貰っておこうか。
ジュリアとイザベラが自分達がしているのと同じ指輪を見て、俺にも指輪をするように促した。
「トール、守護の指輪……してみてよ」
「そうそう! 左手の薬指にね。トールが教えてくれた夫婦の証だよ」
成る程、夫婦ね!
でも、こういう大事な指輪って死人から奪った指輪をつけても構わないのかな? 一応、結婚指輪……だぜ。
え? OK?
う~ん。
この異世界の不思議な価値観は俺にとって相変わらず理解不能だ。
まあ、良いか……
嫁ズにあげたのだって、オーダー品じゃないし。
俺は守護の指輪を左の薬指に嵌めた。
とりあえずこれで3人お揃いにはなったわけである。
目出度し、目出度し。
「もう話は済んだか? お宝の回収が終わったらさっさと出発するぞ」
アモンが指輪の話題で盛り上がる俺達に対して、早く出発するように促した。
ちょっとムッとしたが、タイミングとしては良い頃合である。
「分かった、出発しよう」
確かに、ここで油を売っていても良い事は無い。
俺達は素直に頷くと、さっさと立ち上がる。
そして妨害者の居なくなった、地下2階への階段を降りて行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
地下1階を苦労して通過した俺達。
地下2階に降りると、同じ様に下への階段を探す。
この迷宮の最深部地下5階まで、ずっとこのような探索が続くらしい。
地下2階へ降りた所で俺は少し先に何者かの気配を感じた。
素人の俺も、徐々に索敵が実行出来るようになっていたのだ。
今度の相手は人間ではなく、この階に居る魔物のようだ。
俺は振り返って3人に言う。
「数匹の魔物かな、この反応は……ゴブリンのようだ……よし、打合せ通りにやろう。良い訓練になる」
将来的には、優れた魔力波読みになれると言われた俺。
戦士としても有望だとも言われた。
だが、まだまだ経験不足なのは否めない。
但し、1回戦った相手の魔力波は何となく分かる。
今度の相手は……
ジュリアを助けた時に初めて戦った相手――ゴブリンだ。
この気配は、間違いないだろう。
俺達は奴等に先制攻撃を仕掛ける事にした。
―――幸い相手は俺達に気付いていない。
そろりそろりと距離を詰める。
相手の数は5体……
俺は自分が攻撃出来る間まで近付くと、音も無く跳躍した。
いわゆる、攻撃の間合いへ入ったって奴。
「しゅっ!」
俺の口から僅かに息が漏れ、愛用の魔剣が一閃した。
「!」
ゴブリン達は何が起こったか分からない。
あっと言う間に5体とも首を刎ねられ、絶命したのであった。
我ながらバッチリ。
それだけ俺の素早さは人間離れしていたという事だ。
俺が意気揚々と戻って来ると、アモンはさも当然という表情をしている。
「当たり前の結果……だな。次回は同胞の人間相手にその非情さが発揮出来るかどうかだ」
アモン……邪神様の言っていた通りだ。
その上から目線の物言いは、もう完全に俺の教師役じゃない。
そして愛する嫁ズも頼もしそうに俺を見ているが……倒したのは所詮雑魚のゴブ……
確かに全然威張れないか……
―――だが、とうとうその時はやって来た。
迷宮を進んでいたら、またもや俺達を待ち受ける気配を感じたのだ。
……今度の相手は山賊と呼ばれる迷宮内のならず者達らしい。
アモンの冷たい声が響く。
「良い機会だぞ。思い切りやってみせろ……」
でもな~
やっぱり人を殺すって躊躇いが……
「トール! さっきみたいにあたし達が滅茶苦茶に犯されても良いの?」
「トール! あんた、もしかして寝取られ上等って事? それじゃあアモンと同じだよ!」
愛する嫁ズ、ジュリアとイザベラから一斉に厳しい非難の声があがった。
分かったよ……
確かに君たちが俺以外の男に犯されたら困る。
『嫁は寝取られ上等』もありえない。
はっきり言って両方とも嫌だ!
「「だったら!」」
でも俺は考えたのだ。
最初に相手の意思確認をさせて貰おうと。
その意思確認方法とは何かと言うと……
「お~い、お前等。もしかして俺達と戦いたいか~!?」
俺は山賊達に間の抜けた声で呼びかけてみたのである。
まるで昔のクイズ番組のように。
ははは、馬鹿だろう?
しかしこれは、俺なりに悩んで出した結果。
自分からは仕掛けずとも相手が戦いを仕掛けてきたら倒す。
いわば正当防衛。
降りかかる火の粉は、防ぐという事。
戦いに慣れるまで、最初はその方針で行くしかないと考えたのである。
「てめぇ~!」
「殺してやるぅ!」
「女を犯せ~!」
こんな奴等が平和的な態度を見せるわけもない。
山賊は当然の如く襲って来た。
はい!
こうなれば仕方が無い。
戦い決定!
俺は戦意を高めると、改めて山賊に向かって行ったのである。
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