第41話「名品・珍品の店」
俺とイザベラは商業ギルドで登録を終えた。
職員に聞き込みをした後、ジュリアに連れられて、このジェトレ村の商業地区へと向かう。
当然の事だが、この異世界ではどこに行っても、行く先々が初めての俺。
いわゆる『おのぼりさん』状態だ。
イザベラにしてもこの村は初めてな上に、来たばかりで右も左も分からないらしい。
こうなれば仕切りを含めた道案内は、情報通のジュリアにお任せである。
「とりあえずオークション入札でオリハルコン獲得の目星はついた。だけど落札出来ない場合の手立ても考えなきゃいけない」
そうそう二段構え、三段構え。
手はいくつも打っておくに越したことはない。
俺が頷くと、ジュリアは「にこっ」と笑う。
「ジェトレの情報収集は勿論、イザベラの持っている宝石の売却もある。とりあえず、あたしの知っている店を回るよ、どう?」
「「異議なし!」」
ここはジュリアの商人としての経験が唯一の頼りだ。
イザベラにとって一番良い方法を見つけ、対応してくれるだろう。
「まずは悪名高い店に行ってみようか? 色々な店があるからね」
悪名高い?
店選びって大事じゃあないのか?
当然、選ぶのなら優良店しかないのでは?
俺がそのような疑問をぶつけると、ジュリアは苦笑して首を横に振った。
「殆どの人が悪名高いといっている店でも、見る人によっては凄い優良店にもなるんだよ。実際、その店はある一部の商人にはとても人気のある店なんだ。そんな店に行って、良し悪しを見分けるのも商人としての修行のひとつさ」
成る程!
物事は、一面だけから見ちゃいけないって事か。
俺達は、そんな話をしながら歩く。
やがて……
その悪名高いと言われている、商業地区奥のある店の前に立っていた。
『名品・珍品の店 ダックヴァル商店』
古ぼけた切り妻造りの2階建ての家屋。
1階が店舗のようである。
店の入り口の真上には、俺が想像していたよりは立派な看板が掲げられていた。
「ここは主に迷宮探索者の発見品を買い取って販売する店なんだ。ここの親爺はとても偏屈な上に変わっていてね。未鑑定の商品や呪われた商品も平気で買い取って販売するんだよ」
へっ!?
未鑑定の商品や呪われた商品?
どこかで聞いたような、とんでもない店だ!
「かといって、親爺は商品の価値が分からない素人じゃあないの。王家の発行したA級の鑑定資格を持つれっきとした上級魔法鑑定士……いわゆるプロなんだ」
こりゃ、驚いた。
鑑定資格って王家、いわゆる国家資格なのね。
いかにも癖のありそうな、この店の主は凄い目利きだという事になる。
「じゃあさ、ここでなら冒険者が持ち込んだオリハルコンの事が聞けるかもね。さっすが、ジュリア」
さっきまでは余り真剣に見えなかったイザベラも、店の説明を聞いて急に興味が湧いて来たようだ。
しかしなぁ……
この子はやる気のありなしの差が大き過ぎる。
いくら俺達に頼んだからといって、これは問題だろう。
案の定、ジュリアの教育的指導が飛び出した。
「もう、イザベラったら! いくら依頼があって、あんたが客とはいえ、あたしとトールは誰の為に働いているか少しは理解してくれないとね」
ジュリアが、ジト目で睨むとイザベラは慌てて手を横に振った。
「分かっているよ、御免! 私はどうも集中力がなくてな、悪魔だが決して悪意はない」
イザベラ……何か意味の分からない言い訳をしているな。
そんなイザベラの言葉を聞いたジュリアの目付きが益々厳しくなった。
「本当に分かっている? 真面目にやってよね?」
「ま、真面目にやる! 前向きに努力する……ようにする!」
イザベラそのコメント……何かだんだんどこかの、いい加減なお偉いさんみたいになって来たぞ。
「じゃあ、店の中に入ろうか?」
ジュリアはイザベラとの不毛な会話に終止符を打ちたいのであろう。
俺達に対して、店内へ入るように促したのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダックヴァル商店の店内は、様々なものが堆く積まれた雑然とした雰囲気。
魔導ランプの照明をやや落とした暗めの店内には古ぼけたもの、比較的新しいもの、武器防具、装身具、魔道具らしきものなど色々ある。
うわぁ、凄いや!
俺が資料本で見たファンタスティックな武器防具や道具で一杯だ。
「トール、商品を見るのは後で! とりあえず手持ちの商品の査定とオリハルコンの情報収集だよ」
ああ、ジュリアに叱られてしまったな。
いかん、いかん、確かに優先順位を考えて動かないといけないものね。
視線を移すと正面にカウンターらしきものがある。
座っていたのは店主と思われる50代後半の髭面した人間族の男。
何故か不機嫌そうに、こちらを睨みつけて来た。
「おっちゃん、こんちは」
「……ふん、誰かと思えばタトラ村のやせっぽち小娘か……今日も冷やかしなら、さっさと帰って貰おう」
何なんだ、挑発的なこのおっさんは!
今日もって……
客なんだから店内の商品を見るくらい、良いじゃあないか?
しかしジュリアは、そのような店主の毒舌も意に介さない。
はっきりと言い放つ。
「今日はいくつか用事があるんだ。ひとつはあたし達が持っている宝石の金額審査、もうひとつはお宝の情報を聞きたい」
「小娘! お前は相変わらず遠慮の無い奴だ。人を良いように使いおって」
成る程!
良く聞けばジュリアも負けちゃあいない。
凄いよ、ジュリア!
「おっちゃん、ここじゃなくて別室が良いな……」
ジュリアがそう呟いたので、周囲を見ると今迄居なかった客が3人ほど店内を物色していた。
「むう……おい、フランクよ、店番代われ!」
ジュリアの言い方に、雰囲気を察したのであろう。
店主が、カウンターの後ろの作業場に居た若い金髪の店員へ顎をしゃくる。
フランクという店員が、のそのそ歩いてカウンターに陣取った。
店主は奥へ入るようにと、俺達に顎でしゃくって指示をする。
何だよ、俺達は客だぜ。
店員と同じ扱いかい?
「ここに入りな」
店主が入室を促した部屋は、簡素な応接室であった。
重要な商談は、ここでするらしい。
俺達が肘掛つき長椅子に座ると、店主はすぐに本題へ入った。
「審査して欲しい宝石とやらをここに出しな」
イザベラも、店主の態度にはさすがに頭に来ているようだ。
むっとしたような表情で、宝石が入った例の革袋を取り出した。
テーブルの上に置かれたトレイみたいなもの。
革を張って作った、浅い容器の中に並べて行く。
その瞬間。
しかめっ面をしていた、店主の表情が一変する。
「ほう! なかなか良い宝石じゃあねえか!」
俺は店主の豹変振りに驚いて、思わずジュリアとイザベラを見た。
イザベラは俺と同じ様な反応だったが、ジュリアの表情は殆ど変わらない。
そうか……この親爺め。
こういう性格なんだ!
嬉々としてして宝石をじっくりと見始めた店主の親爺を見て、俺は小さな溜息を吐いたのであった。
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