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第23話「ジュリアの秘密能力②」

 俺はジュリアを背負い、速歩レベルで歩き続けている。

 もう軽く1時間は経っただろう。

 

 ジュリアは目を丸くして言う。


「トールったら、あたしを背負っているのに何でそんなに歩くのが速いの?」


 ジュリアは自分を背負いながら、楽々と歩き続ける俺の歩行の速度に驚嘆している。

 聞けば、ジュリアが歩くペースの2時間くらいの道のりを、もう既に走破したと言う。


「ははは、少し鍛えたからな」


 曖昧に答えた俺だが、これもさっきの腕輪の出所と一緒で嘘。

 俺の歩みが速いのは、この世界の神であるスパイラルから与えられた頑健な身体のお陰だ。

 そして俺達が向かっているジェトレの村は俺が歩いて来た方とは逆、つまりは西へ5時間程度歩いた所だという。

 今、俺がジュリアを背負って歩いている速さは軽く彼女の2倍はある。

 つまり後、1時間半から2時間でジェトレに着く計算だ。

 

 本当はもっと早く歩けるけど、ひと目で尋常じゃないと分かる。

 まだ俺の全てを伝えていないのに、それはまずい。


「広くて温かいし、あたし……トールの背中が大好き」


 顔を、俺の背中にうずめて甘えるジュリア。

 

 しかし、そんな甘い雰囲気も30分後には様子が変わる。

 ジュリアが、不安そうに危険を告げたのだ。


「トール、今度は本当にやばいよ。この先に怖ろしい気配がする、迂回するか、少しこの場で待とうよ」


 これがジュリアの勘、優れた危機回避能力って事か。

 確かに俺の例の直感も、この先は危ないと告げている。

 しかし、残念ながら何がどうしてだから危険なのかという内容まで知る事は出来なかった。

 まあ考えられるのは魔物か、人間か、どちらにしろ害意を持った奴等の襲撃しかない。

 そして、ここでの選択肢は3つ、まあ正確に言えばふたつだが……


 このまま無条件に進む……こんな阿呆な事はしないから論外のNG

 注意しながら迂回して進む……でもジュリアによればこの直ぐ先はまた森でありゴブリンやオークなどの魔物が、跋扈する領域だそうなのでこれもパス。

 ここで1時間程度待つ……これが最も無難そうだ。

 幸いにも、辺りは草原であちこちに雑木林が点在するような地形だ。

 しっかりと警戒していれば、何者かが近付けば直ぐに分かるのも良い。


 当然ながら、俺は3つ目の安全策を取る事にした。

 ジュリアは、俺が意見を取り入れてくれたのをとても喜んでくれる。

 そうそう、お互いに意見は言うけど、ず~っと平行線のままってあるじゃない。

 それって不満が溜って、いずれは不和のきっかけになりそう。

 

 意見の一致は価値観の一致に繋がる。

 こうやって何気ない気持ちの積み重ねで、男と女って仲良くなる気がする。

 

 俺とジュリアは適度な休憩場所を探す。

 周囲が見渡せて、敵が隠れる遮蔽物が無い場所がベスト。


 丁度良い場所が見付かると、俺は腕輪から背負子を取り出した。

 すかさずジュリアは、休憩の際に飲めるようお茶の支度をしてくれる。

 後は水筒から水を鍋に注ぎ、お湯を沸かすだけだ。


 天気は良いし、心配事さえなければなぁ……

 俺は苦笑して、軽く息を吐く。

 だって、可愛い彼女とピクニックなんて初体験なんだもの。


 さて、ここで俺は、ふたつ目のカミングアウトをする事となった。

 例の……水芸だ。


「うっわ~、格好良いかどうか微妙だけど……旅には欠かせないよね」


 俺が指先から水を噴出して空の鍋に満たした所、驚きながら笑ったジュリア。

 いきなり、でっかい氷柱飛ばすとかよりは、ずっと地味で可愛い魔法だものね。

 俺は湯を沸かす為に、火打石など使わずに俺が魔法で拾ってきた枝に火まで点ける。

 するとジュリアの驚きはさすがに大きくなった。


「トール……あんた、凄いよ。こんな生活魔法が使えれば商人としては、ばっちりさ」


 商人としては、凄いし、ばっちりか……

 冒険者レベルじゃないって事だ。

 ははは、まあ改造人間トール・ユーキの魔法はこんなモノ。

 中二病な俺としては、まだ華麗な攻撃魔法に拘っているのだがね。

 4大精霊魔法とか、爆炎の魔法とか、響きからして恰好良いし。

 ああ、せめて「ファイアーボール」とか叫んで、火球くらいは飛ばしてみたい。

 でもないものねだりしても仕方がないか。

 

 気を取り直した俺は、鍋で沸かしたお湯を茶葉を入れたポットに注ぐ。

 やがて……紅茶の良い香りが辺りに漂って来た。

 おお、かぐわかしい。

 野外で飲むお茶って、もしかして凄く美味いんじゃないだろうか?

 見ればジュリアも、鼻を鳴らして香りを嗅いでいる。


 さあ、ひと口。

 おお、美味い!

 本当に美味いよ、コレ。

 茶葉は勿論、水が美味しいからだろうな。


 そしてもうひとつ分かった。

 美味いお茶を飲めば、話も弾むのは本当だって。

 お茶好きな女子の気持ちが分かったぞ、俺。 


 そんなこんなで…… 

 俺とジュリアは他愛のない話をしながら、ひと時の休憩を楽しんでいたのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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