第19話「初仕事決定!」
俺にとって生まれて初めての取引は、ジュリアの助けもあって無事に済んだ。
万屋の店主モーリスはジュリア同様、俺にも人懐こい笑顔を向けた。
「トールよ、さっき言ったようにウチは『買い取り』もやっているからな。宜しく頼むよ」
買い取りか……
ジュリアも彼の店の買い取りの仕事をやっていると言っていた。
そうか、こうやって彼の代わりに商品や素材の買い付けをしてくるのが仲買人の仕事なんだな。
仲買人の仕事に興味が出て来た俺はもう少し内容が知りたくなった。
「トール、そういう時はモーリスの希望と条件を聞くんだよ」
「成る程! モーリスさんは何か特に希望はあるの?」
俺も最初よりはモーリスと気安く話せるようになっていた。
徐々にだけど……
こうやって少しずつ、コミュ障も克服出来るのかしらん。
「ああ、店で売れそうな日用品は勿論だが、俺が使う錬金の材料とかも買って来て貰えると助かるな」
錬金の材料って……ええと……
ああ、色々あるよな。
記憶が甦った俺は錬金術師に好まれる素材を片っ端からあげて行く。
「金属ならまず、金、銀、銅、鉄、鉛、錫、そして水銀ですか。他にも黄鉄鉱、孔雀石、トルコ石、石炭などたくさんありますね」
俺が調子に乗って資料本の受け売りで話を合わせると、元?錬金術師であるモーリスは嬉しそうに笑う。
ああ、ちょっと不安。
偉そうに語る俺だって、資料本から受け売りの知識で心もとないから。
だけど、普段は錬金術の話題を交わせる相手など居ないのであろう。
そのせいか、モーリスは結構、嬉しそうだ。
「おお! お前やけに詳しいな。いや、そうなんだよ。さすがに高価な金とか銀が欲しいとは言わん。だからそれ以外の金属を調達して来てくれ。物に応じて報酬を払うぞ。俺の作った『金』でな、ふふふ」
ああ、そうか。
俺の前世の錬金術師達は、結局金を造る事は出来なかった。
化学的な発見は多くしたけれど。
しかしモーリスの口ぶりでは、この異世界の錬金術師は金を造る事が可能なんだ。
俺は凄く驚いてしまった。
だけど、ここでストップをかけたのがジュリアである。
「ちょっと待った! おっちゃん、言っとくけど勝手にトールと契約しないでよ。トールとあたしは一心同体なんだから」
俺とジュリアが一心同体?
嬉しいけど……文字通り重い言葉だ。
段々俺って、君の尻の下に敷かれている気がして来たよ。
「分かった、分かった。それで、一体何が不満なんだ?」
「支払い条件さ。怪しげな元錬金術師のおっちゃんの作った『金』なんて危なっかしくてしょうがないよ。あたしは現金主義だから真っ当な金貨で購入して貰うか、どうしてもって時はトレードだね」
ジュリアにきっぱりと言われたモーリスは頭を掻いた。
「ひで~な。俺ってそんなに信用無いのか?」
「当り前じゃない。あたし、人生に飽きたからって簡単に投げ出す人なんか嫌いだもの」
ジュリアの容赦ない言葉が、モーリスに向かって投げつけられる。
叔母さんが居たとはいえ、両親に死なれてぎりぎりの生活をして来た彼女にとってモーリスの悠々自適な生活は少しいらっと来たのであろう。
この場もジュリアの機嫌もこれ以上悪くなるとさすがにまずい。
とてもまずい。
俺は微妙な雰囲気になる前に、別の話題を振る事にした。
「ジュ、ジュリア、今のトレードって何? 教えてくれないか?」
モーリスを睨んでいたジュリアは、俺に声を掛けられてハッと我に返った様だ。
「あ、ああ、トール。ええとトレードっていうのは買い手と売り手が商品同士を交換して商売する事さ。手持ちの現金が無かったり、お互いに過剰な在庫を持っていたり、相手から自分の持ち物が望まれたり、状況はいろいろあるよ。折り合えば旨みもあるからぜひやるべきだね」
ああ、トレードって……
ようは物々交歓って事か、納得。
ジュリアにもう少し聞いたら、商品がダブついていて、手持ちの現金が無い時は良くあるパターンだそうだ。
「じゃあ、おっちゃん。さっきあんたがトールと話した件はこれで良い?」
買い付ける品は錬金術用の素材。
納品のタイミングは、俺達の都合でOK。
代金は通貨による現金支払いのみ。
初回だけ全額前払いで、2回目以降は半金前払いで残金は現品と引き換え。
ジュリアは『契約条件』を具体的にモーリスへ提示する。
俺達側に圧倒的有利な契約内容に苦笑しながら頷いたモーリスは、契約を快く締結してくれた。
今回は金貨10枚を俺へ託してくれる。
これで効率よく材料を買って欲しいという事だな。
これで俺とジュリアの初仕事が決まった。
ちなみに買う素材の種類と量は俺に任せてくれるそうで、これも納期と共に破格の好条件である。
まあ俺を信じて任せるというよりも、同じ村民であるジュリアに対して特別の計らいだろうけど。
でも素直に喜ぼう。
人との繋がりって、本当に大事だと思ったもの。
初めて仕事をくれたモーリスに丁寧に礼を言って、ジュリアは俺の手を引っ張って店を出たのであった。
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