第17話「万屋店主の正体」
「モーリスの言った触媒って一体何? トール」
ジュリアが、俺の方を向いて聞き直す。
ここはぜひ、中二病的な『拘り』を披露してやろう。
「ああ、触媒っていうのは自分自身は変化をしないが、他の物質……ここでは第一質料に4大元素――いわゆる地・水・風・火だな。これらを結びつけて変化させる為の特殊な物質なんだ」
熱く熱く語る俺。
身振り手振りまで入ってしまう。
どう?
ジュリア?
「???」
う!
ジュリア……首を傾げてる。
栗色の髪がふわっと揺れた。
大きな鳶色の瞳が不思議そうに俺を見つめている。
凄く可愛いけど……話は全然通じていないみたい。
俺は、一応聞いてみる。
「ど、どう? わ、分かったか……な?」
「う~ん、ええと……トールの言う事は難しくて良く分からないけど……」
ジュリアったら話は分からんけど、何か答えを出すべきだと判断したみたい。
暫し考えた後に、彼女はポンと手を叩く。
「そうか! 簡単に言えばあたし達、仲買人みたいな物だよね! 全く知らないお客同士が、あたし達と絡む事で皆、ハッピーになるって感じ?」
「…………」
だよなぁ……こういう反応って仕方がない。
まだ、好意的に解釈してくれるだけマシかも。
前世でも、興味ない人にはドン引きされた事さえある。
ジュリアへ、俺のオタク&中二病的な難しい説明をしても、直ぐには理解して貰えなさそうだ。
答えを聞いた俺が無言のリアクションだったので、ジュリアは不正解だと感じたらしい。
顔が少し歪んでる。
あれ、涙が出そうになってる?
慌てた俺はひきつった笑顔のジュリアへ、すぐフォロー。
また泣かれたら困るから。
「まあそんなもの」と曖昧に頷いておいた。
加えて『賢者の石』は結構、高価な物だと告げたのである。
俺のコメントにジュリアが一抹の不安を覚えたのであろうか、今度は心配そうな顔をする。
暫く考え込んだジュリアはハッとした表情をすると、鋭い目をしてモーリスを睨んだのだ。
「おっちゃん! その賢者の石って、もしかして8,000アウルムどころの値じゃないんじゃないの!」
「ああ、そうさ。まともに買えば100万アウルム……いや、その数倍は、するかもな」
賢者の石のあまりの法外な値段に、ジュリアは目を丸くする。
「げぇ!? す、数百万アウルム!? その変な粉が!?」
「そうだよ。だが、あくまでもどこかで買えばって話さ」
「どこかでって! おっちゃん!」
ジュリアは大きな声で叫ぶ。
モーリスを睨んでいる。
睨まれたモーリスは、ちょっと吃驚したようだ。
「な、何だよ? いきなり大きな声を出して」
「大きな声も出すわよ、数百万アウルムなんて! まさか、それ……ヤバイ盗品じゃあないでしょうね。もしかして足がつく前にあたし達に売ってしまおうとか目論んでいるの」
「おいおい! 人聞きの悪い事を言わないでくれよ。これは俺が作ったのさ。だから盗品じゃあないぞ」
え、このおっさんの自作!?
ちょ、ちょっと待ってくれ!
『賢者の石』を作るのは大いなる作業と呼ばれ大変な技術が必要だぞ。
「嘘! 何でそんな凄いものをおっちゃんが作れるの?」
「う~ん、何でかな。実は今迄秘密にしていたんだけど……何故だか、トールの顔を見たら話したくなったんだ」
え?
俺の顔を見て?
うう、それ……まさか、邪神様のたくらみ?
俺は不自然な展開につい邪神様の関与を疑ってしまう。
それにもっとおかしいとも思った。
賢者の石を作れるのは凄腕の錬金術師。
何故、そんな凄い技術を持った錬金術師が、こんな田舎で万屋をやっているのか?
怪訝そうな俺の表情を見て、モーリスは何を考えているか分かったらしい。
「ははは、トールは賢者の石を作れる俺が、何故こんな田舎のタトラ村で店やっているか聞きたいようだな?」
「え、ええ……」
図星を指された俺は、思わず頷いた。
「実は、俺さ……昔、この国の王都で一端の錬金術師だったんだ。でもなぁ……真理を極めてしまうとその先の目標を見失ってな。残りの人生を故郷のこの村で、のんびりやり直そうと思って戻って来たんだ」
そうなのか……
『賢者の石』がさくっと作れてしまうくらい、モーリスは凄腕の錬金術師だったんだ。
俺の居た地球の、過去の時代である中世西洋では、数多の錬金術師が日夜大いなる作業に励んでも結局、賢者の石は作れなかったわけだから。
でもさ、すげ~よ!
伝説の賢者の石がさ……今、俺の目の前にあるんだよ?
色々なラノベやマンガで、散々ネタにされた超が付く激レアアイテムじゃない。
俺は、とても感動してしまった。
さすが異世界ファンタジー。
でもよくよく考えたら邪神様が言う通りかも。
ここは俺の知識と願望がしっかり反映される世界だったと、改めて実感したのである。
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