第16話「俺の意外なチート&才能」
ここはタトラ村唯一の店、万屋モーリスの店。
店主モーリスが、店のカウンターに並べた商品は3つである。
これらを相場より安く売ってくれるという。
今迄のやりとりを見る限り全然信じられないが……
超男嫌いなジュリアに、俺と言う彼氏が出来た。
モーリスはそれを記念して、いわゆるご祝儀価格って奴を提示してくれたのだ。
ええっと、ひとつめは乾燥させた薬草の束?
ふたつめは、綺麗な紅い宝石。
そして最後の3つめは良く分らない赤い粉末であった。
これが、それぞれ5,000アウルムか……
本当の値段は均一ではなく、バラツキがあるとも言っていた。
俺はラノベ小説を書く為に、何度も資料本を読み込んだ知識を呼び覚ます。
まずは、薬草の束を手に取ってみる。
ええとこの薬草の形や色などは資料本に無い物だぞ。
……あの有名なマンドラゴラとも全く違うし……
全然分からない。
体力回復系なのか、解毒系なのか、それとも毒薬なのか……
もしくは魔法に準ずる効果を与えるものなのか……
ううう、困った!
余り、考え込んでいても仕方が無い。
ええい、次だ。
ふたつめは宝石だが、血の様に赤い小粒な石である。
中二病知識を働かせてと……これは何とか分かる……
多分、柘榴石だろう。
1月の誕生石でもあるガーネットは、かつて十字軍の兵士達がお守りに使った事でも知られている。
言い伝えでは心臓を強くし、疾病を寄せつけず、逆境に耐え抜く精神面も培うとされている宝石なのだ。
ペンダントや指輪にしたら、ジュリアに良く似合うだろうな。
いかん、余計な事を考えては、次、次!
最後の商品は……赤い粉末……であった。
一体、何で出来ているのだろうか?
密封された、透明で小さな容器に収められている赤い粉。
鉱物を粉にした物なのか?
それとも、何か果物の実を乾燥させているのか?
熱心に商品を見る俺をジュリアは、はらはらして……
モーリスはにやにや笑いながら眺めている。
俺が商品を凝視していたら、いきなり不思議な事が起こる。
見入っている商品から、それぞれ色や形の違う波動のような物が立ち昇ったのだ。
何、これ?
俺はその波動を掴もうとしたが手を伸ばしてもすり抜けてしまい、掴めない。
どうやら、何か特殊な物のようである。
「どうしたの? トール」
「ええっと……何か波動の様な幻が見えたんだ」
俺の言葉を聞いて、それまでにやにや笑っていたモーリスが急に眉間に皺を寄せた。
少し驚いた顔をしている。
「おっ、そりゃ多分魔力波だな。つまりは魔力の波動さ。生きとし生ける者から発するのは勿論、あらゆる物からも同様に出る物なんだ。トール……お前は魔力波読みの能力があるって事だろうな」
「魔力波読みぃって! す、凄いよ、トール」
ふたりに褒められても、俺には全然意味不明。
そんなに凄い事なのだろうか?
「こんなわけの分からない波動が見えるのが、何かの役に立つんですか?」
俺が思わずそう言うと、ジュリアとモーリスが顔を見合わせて呆れ顔になる。
「ええっ、知らないの? 魔力波読みって言ったらスパイラル様が与える、持って生まれたあらゆる才能の中でも、五指に入る素晴らしい物なんだよ」
ふ~ん……素晴らしいって言われても……そうですかね。
何かピンと来ないが、これもこの世界の神であるスパイラルの加護って奴だろうな。
それより俺は華々しく格好良い魔法の才能の方が全然良いんだが……
俺があまり嬉しそうな顔をしないのでジュリアは再度、魔力波読みの素晴らしさを力説した。
「良いかい? 魔力波が読めるって事は商品の真贋だけじゃなくて、相手の言葉の表裏を見破ったり、相手の体の動きも見切れるようになるんだよ」
ふ~ん
そうですか?
それは良かったねって……ええっ!
ジュリアにそこまで言われて、俺は初めて魔力波読みの能力の凄さを認識した。
鑑定能力は勿論備わるのと、他人の心の中を知り得る力って……他心通じゃないか!
研ぎ澄まされた五感の能力に加えて魔力波読みの能力って……
おいおい……
俺って結構チートじゃないか!
そして傍らには可愛い彼女のジュリアまで居るし……
『だからぁ、僕のお陰だよ! あの時、君を改造して良かっただろう?』
ああ、何か自分を正当化しようとする神様がここにひとり居るけど……聞こえなかった事にしておこう。
まあ今の立ち位置を考えればこの世界に転生した事で自分の人生が良い方向に転換したと思わずにはいられない俺であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しかし!
俺は、肝心の事を見落としていたのである。
魔力波読みの能力は確かに素晴らしい。
だが放出される魔力波が一体どのような物なのか、知識の無い俺には皆目見当がつかないのだ。
困った!
俺はモーリスが出した3つの品を改めて見直した。
ううむ、どれだろう?
俺は改めて見ると薬草は淡い緑、ガーネットは淡い赤、そして最後の赤い粉末は何と強い黄色の魔力波を発しているのが見て取れる。
そこで、俺に働きかけて来る何かがあった。
いわゆる『勘』という奴だ。
しかし勘というよりは確信に近い感覚で、これはジュリアを助けた時に働いたのと同じ物である。
よおし!
これだ!
結局、俺は密封された透明で小さな容器に収められている赤い粉を手に取ったのである。
「ははは、それを選んだか。トールも中々やるな!」
モーリスは面白そうに茶化して言うが、俺の選んだ物に対してジュリアは不満顔だ。
「トール……何故そんな訳の分からない粉なんかを選んだのさ。この3つの商品でどれを選べば良いか、誰が見ても分かるじゃない? 薬草は体力回復の効き目がある治癒草、宝石は小さめだけど結構質の良い柘榴石だったのに……おっちゃん! そのふたつ、あたしが代わりに買うよぉ」
文句を言うジュリアにモーリスは手を横に振る。
「ははは、ジュリアちゃん。何を言っている? お前の彼氏は本当に大した奴さ。彼が選んだのはこの世界の錬金術師全員、喉から手が出るほど欲しがる貴重な『賢者の石』さ」
「け、賢者の石ぃ! な、何それっ!?」
モーリスはにやりと笑って驚くジュリアに説明する。
「錬金術師の最終目標が黄金などの貴金属を生み出す=すなわち精製に成功して『神の力』を手に入れるという事は知っているな?」
大きく頷くジュリア。
俺も資料本で読んで知ってはいるが、一応モーリスの説明を聞く事にした。
「全ての金属は基本物質と言われている第一質料に4大元素と呼ばれる地・水・火・風が加わって作られている。その精製の為の触媒となるのが賢者の石なんだ」
「しょく……ばい?」
ジュリアは可愛らしく首を傾げる。
「ははは、トールは知っていそうだな? 説明してみろ」
モーリスから見て、「俺は知っていますよ」という顔をしていたらしい。
説明を求められた俺は、息を大きく吐いてから口を開いたのであった。
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