護衛依頼⑤
アルフと入れ替わりでキャンプ地に戻ると、カプリスがダガーを磨いていた。
「んー。んー?」
時折光を反射させて磨き具合を確かめる彼女。
なんか、女子校生が刃物を熱心に磨いてる姿って見慣れないから面白いな。
「あ、マスターおかえり」
「ああ」
やっと気が付いたカプリスに挨拶を返して岩に座る。
「時間的に今日はここで野宿だな」
「今まで高速移動ばっかしてたから初めてだね」
「そうだな」
走ったり飛んだりといろんな移動方法で楽してたから、こう言ったのんびりする旅ってのは初めてかもしれない。
事が済んだらのんびりと世界を回ってみるのも良いかもしれないな。いや、回ろう。異世界散歩だ。
画面越しではなく、この目で、この肌で見て感じたい。
帰れるかもわからないしな。
夜になり、夕食を済ませた俺達は休むことにした。
寝袋を馬車から降ろし、それにくるまるアルフとカプリス。
「襲わないでね?」とニヤニヤしながら言ったカプリスには拳骨しといたのは言うまでもない。
「火の番は俺がやっておくから、ゆっくり休め」
「はーい。おやすみー」
「おやすみなさいです」
「ああ、おやすみ」
眠りについた二人を横目に焚き火へ枝をくべる。
特にすることもなく、暇だ。
パチッ・・・パチッ・・・と音を立てる焚き火を灯りに使い、アイテムボックスで肥やしになっている本の山から適当に引っ張り出して読むことにしよう。
こう言うキャンプとかで火の灯りで本を読むのは、地球でもよくやっていたな。
なんか、こう落ち着いて読めるんだよ。まぁ、読みにくいっちゃ読みにくいんだけどな。
「お、これは冒険譚か」
本のタイトルは【フレイア・クレイシアの冒険譚】。
冒険家フレイア・クレイシアの話らしい。
確か、お使いクエのアイテムだったか。報酬の取得経験値が50%上がるスクロールが美味しかったので、ドロップする魔物を狩りまくり在庫は腐るほどある。
今となっては肥やし以外の何物でもないが。
さて、良い暇潰しになると良いな。
三時間くらいだろうか?
集中して読んでいたが、これが中々に面白いのだ。内容はフレイア・クレイシアと言う冒険者が世界中を冒険し、冒険の最中で起きたことや、冒険しに行かないと見れない土地などを詳しく記されていた。しかも凄いのが、このフレイア・クレイシアは実在した人物らしい。まぁ、ゲーム時代からあるので設定上存在していたに過ぎないわけだが、この本にはゲームでも有名だった土地のことや、生息する生物などの詳細など、プレイヤーなら知っている情報から知らない情報まで乗っているのだ。
つまり、ゲームでは行けなかった場所にも絶景が存在し、まだ見ぬ生物が生息していると言うことになる。
これは行くしかあるまいな!
冒険者たるもの冒険してなんぼだ。
せっかく強い肉体を貰ってんだし、とっとと要件終わらせて旅をしよう。
「さて、次ーっと」
一応シリーズ物である。
夜も更け、だいたい深夜三時頃だろうか?
静かな夜だ。
空を見上げれば満天の星。
ああ、何度見ようとも飽きないな。この光景は。
視界いっぱいに広がる星々。焚き火の光でほんの少しだけ見にくくなってはいるものの、その美しさはさほど変わりはない。
と、夜空に見惚れていると、結界に何かが触れたようだ。感知の術式も組み込んでいるため、触れればどの位置に相手がいるかわかるようになっている。
「ギル。ここは頼むぞ」
『任せておけ』
俺の言葉に身を起こしながら答えるギルター。
フィズは爆睡である。まぁ夜行性ではないし、仕方がない。
大鎌を装備して、感知した位置へと向かった。
そこにいたのは三つ首の巨大な黒い犬。ケロベロスと言う奴だな。地獄の門番として有名なモンスターだ。
「なんでこんな所にいるんだか」
ユグドラシル・オンラインでは、ケロベロスは基本ダンジョンにしか存在しない。時たまイベントでワールドマップ上に現れることはあったが、本当にたまにだ。
そんなダンジョンモンスターが結界を破ろうと躍起になっていた。
とりあえず、突進してきたところを蹴りあげて、結界から遠ざける。
『クゥ・・・ッ! ヤッテクレタナニンゲ・・・ン?』
おい、なんで疑問系なんだよ。死神シリーズは装備してないぞ。
つか、喋るのかよ。いやまぁ、オリジンズも喋るけど、あれは別物だしなぁ。
『ナンダオマエ・・・ナンダオマエナンダオマエナンダオマエ!? ヒトガモツニハオオキスギルゾソノチカラ!!』
こちらの力量を計ったのか?
魔物がレベル差に驚き、恐怖してるのか?
『オリジンヲツカマエテコイトハイワレタガ、コンナノガイルナンテキイテイナイゾッ!!』
オリジンを捕まえるねぇ。ケロベロスごときにそれが出来るとは思えないけど、状況的に誰からか命令されて、その誰かはオリジンを使役する方法でも知っているのかな?
『ココハイチドヒイテ───』
「待て」
駆け出そうとしたケロベロスへ瞬時に近づき、前足の腱を切る。
『ガアアァッ!?』
身体を支えることができなくなったケロベロスはその場に倒れる。
「少し、話を聞かせてくれないか?」
三つある頭のうち、喋っていた頭の前へ移動して鎌を鼻先に掠めてから地面に刺す。
『・・・ハナサナイバアイハドウスル』
「殺すだけだ」
情け無用容赦なし。俺の大事な仲間を拐おうとしてたんだから。
『・・・ハナソウ』
あや、割りとあっさりしてるな。命令に逆らえないだけで、忠義とかはないみたいだ。
ケロベロスの話によると、命令もとはあの侵攻を黒幕である魔王だとか。魔王はオリジンの力をも使役しようとしているらしく、配下である魔物を使って捕縛を試みているとのこと。
まぁ、その殆どが返り討ちにあってるらしいけどな。んで、今回は魔王に強化されたケロベロス君が派遣されたんだと。
何を考えてるかわからない魔王だなぁ。
『スベテハナシタゾ。ワレハコレカラドウナルノダ』
「そうさなー」
とりあえず回復してやる。
『ナゼ・・・?』
不思議そうな顔をするケロベロス。
「話のわかるやつは殺さないさ。魔王のところに戻るでも、好きにしたらいいぞ。また襲いに来たらその時は殺すけどな」
『・・・スマナイ』
ケロベロスは一言謝ると闇夜に走り去っていった。
さてはて、危険分子は女神だけじゃー・・・ないみたいだな。めんどくちー・・・。




