勇者再び
「ふぃー、食った食った」
飯屋を出て、宿を探すためにぶらぶら。
「ねぇマスター」
「ん?」
「海渡るときさー、船使わない?」
「またなんで?」
「いやぁ~、実はうち船って乗ったことないんだよね~。だからこれは乗るチャンスかと思いまして・・・」
急ぎの旅と言ってあるので、こちらの顔を伺いながら聞いてくるカプリス。
身長さのせいで上目使いになるため、その破壊力になんでも許してしまいそうになる。
「急ぎとは言え、今すぐって訳じゃないからな。船乗るか」
「いいの!? やったー!」
先程の静かさが一変して、はしゃぐカプリス。
ピコン
caprice:マスターwww愛してるぅぅぅぅぅぅぅ↑wwwwwww
テンションたっかいなぁ。
因みにフィズリールはご飯を食べたあと、高速移動のぐるんぐるんが治らないようで、今はギルターの背で寝ている。
「風夏!」
「ん?」
とりあえず海のほうへ向かおうかなーと思っていたら、カプリス──倉科風夏さんを呼ぶ声が後ろから響く。
振り返ってみると、そこにはいつぞやの勇者ご一行。
どことなく勇者らしく強くなってるな~。と思ったり思わなかったり。
「美奈ちゃん、瑠衣ちゃん! おっひさー!」
カプリスはレン君に目もくれずに、女の子達二人へ走りよっていった。
「お久しぶりです」
「おひさー。元気そうで何よりだよー」
「うんうん! うちは元気だけが取り柄だしね!」
そこから会話に花を咲かせる三人。
俺達男組は蚊帳の外だな。
「この前はどうもッス」
と、声をかけてきたのは、装備からしてシーフのジョブの男の子。
「おう。すまんが名前を教えてくれるか?」
「これは失礼したッス。自分は相浦秀一って言うッス」
「シュウイチか。覚えた。久々に会ったが、強くなってるみたいだな」
「はいッス。お陰さまで全員レベル百越えたッスよ」
「・・・うーむ。まだ百かぁ」
二、三週間経ってるからもうちょっと上がってるかと思ったのだがなぁ。
レベリングの効率が悪いのだろうな。
「まだ、弱いッスよね?」
「弱いどころの話じゃないな」
「うへぇ~・・・」
「因みにだが、どんな感じでレベリングしてるんだ?」
「レベリング?」
俺の疑問に、疑問符を浮かべる男二人。
レン君は女子たちの方に混ざろうと頑張ってるが、諦めろ。
「二、三週間でその程度しかレベルが上がってないとすると、レベリングの効率が悪いとしか思えない。俺だったら2000までは行けるぞ」
「「に、2000!?」」
ユグドラシルの熟練プレイヤーなら普通に出せる桁だぞ。
「おそらく、お前らは格上の敵を倒せば経験値が多く入ると思って戦ってたんだろ?」
「ああ、ゲームと同じシステムならそうだろうと雷宮司の提案でレベル上げしてました。っと、俺は七瀬大地と言います」
やっぱりなぁ。
「っと、そうだ。俺も名乗ってなかったな。俺はノアだ。よろしく頼む。んで、本題だが、格上相手にレベリングしても効率は非常に悪いんだ。やるなら自分と同程度か少し上の魔物で、数が多いのを狙え。したら、レベルなんてあっという間だ」
2500越えた辺りからキツくなるけどな。
これは今の彼らに教える必要はないだろう。
「なるほど、倒す時間を少なくして、数を倒すのか」
「一体一体の経験値は少なくても数倒せば変わりないってことッスね」
「ああ、それに効率によっては格上を倒すよりも多く経験値を稼ぐことが出来るぞ」
MMOプレイヤーならみんなやってることだけどな。おそらく、このパーティーの中にMMOをやったことある子がいなかったんだろうな。
「マスター、話終わったよー」
「おう、久々の友達はどうだった?」
話が終わったカプリスが、男二人の後ろから手を振りながら報告してきたので、問い返した。
「うん! やっぱり友達っていいよね!」
「楽しかったなら何よりだ」
「にひひ!」
シュウイチとダイチが俺から距離を取ると、その間にカプリスが入ってくる。
「なぁ風夏。俺達と冒険しないか? やっぱり見ず知らずのおっさんにお前を任せられないわ」
と、レン君。
くそ雑魚ナメクジな君にカプリスは任せられんよ。
とは口が裂けても言わない。
「ごめんねー。私はマスター──ノアさんに付いていくって決めてるんだ」
「風夏はノアさんのこと大好きだもんねー」
「一生を添い遂げる気ですもんねー」
「本人の前でやめてよー!」
そうだそうだ!
こちとら顔から火が出そうだぞ。
「風夏が・・・おっさんのことを好き・・・? お前風夏に何した!?」
なんかいきなりキレたレン君。
街中で剣を抜いて威嚇してくる。
「何もしちゃいねーよ」
「嘘だ!」
ドンドコドーン。
何をそんなにキレてるんでしょうか、この若者は。
「はぁ、また暴走しちゃってるッスね」
「倉科の事になるといつもこうなるよな」
「現実を受け入れられないんだよー」
「大好きな風夏が見ず知らずのお兄さんに盗られちゃいましたからね」
人を盗人みたいに言うのやめてくれる?
「ねぇ、雷宮司君」
「なんだ風夏? 一緒に来てくれるのか?」
「あのね。君のそう言うところが大嫌いだよ」
「・・・へ?」
お。
「私が誰と居ようと私の勝手でしょ? 私は君の物でもないんだから。君が私の事を好きなのはわかった。でもね、私の好きな人に変な因縁を付けるのはやめて。とても迷惑だよ。それと、ずっと言いたかったんだけど───」
「─────彼氏面するのやめて。気持ちが悪いよ」
止めキターーーーーーーーーー!!
レン君は気持ち悪いと言われて放心状態に陥った。俺に向けられていた剣はだらりと下げられ、剣先が地面に付いてしまっている。
お気の毒にレン君。
好きな子にちょっかいを出したくなるのはわかるよ。でもそれは小学生までだ。
しかも、聞いたところによると、カプリスと仲良い男友達全員がレン君に因縁をつけられてるらしい。
うむ、清々しいほどに気持ちが悪いな!
「もう、行ってもよろしいかな?」
昼を過ぎてしまっているので、早めに宿を確保したいのだが。
「うんー。レンはこっちに任せて良いよー」
「本人からはっきり言われてやっと目ぇ覚ますんじゃないッスか?」
「だといいんですけどねー」
「無理だな」
無理なのか。
「んじゃ、俺達は行く。次会うときには更に強くなってると願っとく」
「教えてくれてありがとうッス」
「ありがとうございました」
放心レン君を任せて、俺達は海のほうへ歩いていく。
「レン君の恋心に気づいたのか?」
「うん、マスターに最初会ったとき言われてから色々整理したらそれっぽいな~ってね。これでちょっかい出されなくなるかな?」
「それは知らん」
「なまじ顔が良いから、他の女の子に反感食らってたからいい迷惑だったんだよね。ふぃースッキリしたな~」
「こっちは顔が活火山になるところだったわ」
「にひひ! 返事はいつでもいいからねー」
「当分答える気はないさね」
「知ってるよー」
いつかは彼女の好意に対して何かしら答えを出さなければならないが、こんな不安定な世界で答えてもなぁ。と。
『なぁ、肉食いたい』
「さっき魚食ったろ」
『魚は美味かったが、やはり肉こそ至高だと気がついたのだ』
「はぁ、肉を出してくれる宿探してやるよ」
『肉ぅっ!!』
先のことは、世界を救ってから考えよう。




