侵攻
倉科さんことcapriceの狩りが終わったあと、俺たちは組合へと戻った。
組合への中に入ると、いつもより冒険者の数が多く、ピリピリと殺気だっていた。
何かあったのだろうか?
「殺気だってますね」
「ああ、とりあえずレグルスのところに行こう」
「はい」
倉科さんを連れたって受け付け横の階段を上ってレグルスの部屋へと直行する。
今回はノックして、返事が返ってきてから中へと入る。
「入るぞ」
「ノアか。お前、宿に泊まると言っておいてどこに行っていた。探したのだぞ」
「悪いな。観光しまくってて忘れてたわ」
「夜通しか?」
「夜通しだな」
「はぁ、まぁいい。で、後ろの子は? この前来た勇者の一人のようだが」
「ああ、実は彼女は──」
俺が倉科さんを紹介しようとしたところ、レグルスは一瞬ピクッとすると、何やらUIを操作し始めた。
「いや、紹介はいい。久しぶりだなカプリス」
「ええ、お久しぶりです。レグルスさん」
人懐っこい笑顔で応対する倉科さんに対して、レグルスは一瞬きょとんとすると、こちらを見て口を開いた。
「おいノア」
「言いたいことはわかる。だが、本物だ」
「ふむ。まあいい」
「それより、下の冒険者達が殺気だってる理由を教えてくれないか?」
「ああ、その事か。何やら魔王と名乗る愚か者が各国に宣戦布告をしたらしくてな」
「魔王? あの最強最善と言われた心優しい魔族のおっさんが宣戦布告だって?」
俺が知ってる魔王は最強で最善な、仲間思いで優しいおっさんなんだが・・・。
そんな、彼が宣戦布告などするはずない。
となると、別の誰かか。
「いや、彼は解放されたのと同時に魔王を退位されて、今は旅に出ているらしい」
あのおっさん旅に出てるのか。
俺も旅してればどっかで会えるかな。
「だとすると、次代の魔王が宣戦布告してきたってことですよね?」
と、倉科さん。
「ああ、そして律儀なことに侵攻してくる日まで予告してくれては」
「それが今日と?」
「うむ」
「なるほど、それでピリピリしてんのか」
そりゃまためんどくさいところに帰ってきちまったな。
「ま、がんばれ。俺たちは共和国に向かうから」
「行ってきまーす!」
そう言って、俺たちは踵を返して部屋から出ようと扉に手をかけたところ、バチっと手が弾かれてしまった。
「まぁ待てノア、カプリス。話をしようじゃないか」
「現実になると厄介なもんだな。魔法って」
「でも、マスター壊せますよね?」
「やろうと思えばな」
「やる前に話を聞け」
「あいよ」
めんどくさいのは嫌いだが、聞くだけ聞くか。
ソファーに座って、何故か既に出されてる茶を飲む。
俺の隣に倉科さんも座り、その横にはギルが寝転がって倉科さんの足を枕にしていた。
羨ましいぞギルター。
自分の茶をいれたレグルスは、俺達に対面するように座って話始めた。
「まず、敵の数はわからないが、おそらく大群で押し寄せてくるだろう。駒は魔物で済むからな」
確かにな。
だが、魔物となると、下手したら高レベル帯の奴等も出てくることになるな。
そうなったら少し不味いぞ。
おそらくだが、今下にいる冒険者達のレベルは高くて2500程度だ。
ある程度の魔物ならやれるだろうが、如何せんレベルが低いやつらが多い。高レベル帯が出てきたら守りながら戦うことになるのは確実だろう。
「魔物だと高レベルの魔物が怖いですね」
倉科さんも同じ事を考えていたようだ。
「ああ、だからお前たちに頼みたいのだ。どうか王都の危機を救ってくれ」
と、頭を下げるレグルス。
ここを落とされたら王国はおしまいだからな。
「まぁ、めんどくさいがやるよ」
この街の景観が崩されるのは嫌だしな。
それに拠点も王国にある。
潰されるのは俺としても勘弁願いたいところだ。
「助かる。報酬は──」
「報酬はいらん。終わったらその足で共和国に向かうから」
「そんな・・・! マスターが報酬を断るなんて・・・!?」
隣で驚く倉科さん。
心外な。そんなに驚くことか?
「お前がいいならいい。いつ来るかわからん。今日は組合にいてくれ」
「あいあい」
「マスター。お腹減りました」
『同じく』
「了解。食いに行くか」
「やったー!」
『肉! 肉!』
はしゃぎながら部屋から出ていく一人と一匹。
「カプリスとは言え、女の子だ。しっかり守ってやれよ?」
「ああ、もちろん」
危険が迫ったら全力で対処してやろう。