狩り場
王都の門からそう遠くはない場所に初心者用の狩り場は存在する。
そこはインプの巣がある場所で初心者はまず、ここへ来ることを進められる。
と言うのもチュートリアルを行う村がこのインプの巣から結構近くにあり、チュートリアルが終わったらまずここでってのがユグドラシルプレイヤー達のテンプレとなっているのだ。
「久々に来たな」
「高レベルになってからこの辺には寄り付こうとは思いませんでしたもんね。あ、何か武器ありませんか?」
「武器か。ちょっと待て」
アイテム欄を開いて中を見る。
「倉科さんはジョブなんだったっけ?」
「シーカーですよ」
「シーカーね。ならダガーか」
アイテム欄の中にある武器欄を開いてダガーを取り出す。
「ほれ」
「え、ちょっ! これユグドラシルダガーじゃないですか!? こんなのほいっと他人に渡すなんて!!」
「腐るほどあるからやる」
「腐るほどって・・・! あー、そうでした。マスターはオリジンでレベリングするおかしい人でした」
失敬な。俺は正常だ。
ユグドラシルの世界では、ユグドラシルと名の付く武器はオリジン討伐でしか手に入らない希少な武器で、攻撃力が群を抜いて高い。武器によって付いてる特殊効果は違うが、それぞれ強力なものばかりだ。
「それともユグドラシルウッドダガーの方がいいか?」
漢字で書くなら世界樹の枝小剣。
これはユグドラシル・オンラインの題名にもあるユグドラシル──つまりは世界樹のダンジョンでしか手に入らないこれまた希少な武器だ。
特殊効果はないがウッド系武器の中でトップの攻撃力を誇る。
だが、ウッドと言うこともあり、攻撃は全て打撃判定なため俺はあんまり使わなかった。
因みにレグルスのとこの物理魔術師の友人にユグドラシルウッドロッドをあげたところ、大喜びしながら魔物を撲殺しまくってた。
「だからウッドとは言え、ユグドラシル武器を渡そうとしないでください」
焚き火にも使える優れものだぞ?
使ったことないけど。
「とりあえず、それで慣れてくるといいさ」
「・・・はぁ、そうですね。ちょっと行ってきます」
戦闘体勢に入った彼女はシーカー特有のスピードでインプの群れに突っ込んでいく。
命大事にって言ってたのは何処の誰ですかね?
「うーん、やっぱり二本じゃないとダメだなー」
スパパッと切り殺して戻ってきた彼女は一本しかないダガーを見ながら呟いた。
確かにゲームの時の彼女はツインダガーだったな。
「ほれ」
「・・・まさか、ここにきてユグドラシル武器でツインダガーを使う時が来るなんて・・・」
嬉しいのか嬉しくないのか、よく分からない顔の倉科さん。
「もういっちょ行ってこい」
「・・・行ってきます」
バッといなくなった彼女。
かと思ったらインプの群れの中で舞のような動きでダガーを振るっていた。
でも、見たことのない動きだな。
ゲームでツインダガーの場合はもっと荒っぽい、どちらかと言うと乱舞に近い動きだった。
だが、彼女の場合は見せ物の剣舞のように美しい。
「ふぅー」
清々しい顔で帰って来た彼女に聞いてみよう。
「今のは?」
「今のって?」
「戦いかたについて」
「・・・ああ、実は私、舞を少し習ってたんですよ。それで、ツインダガーでも出来るかなーって思ってやってみたら、これが大当たり。いい感じに型にハマったってわけです。まぁ習ってたのを自己流にアレンジして剣舞に変えたんですけどね」
と、照れ笑いしながら言う彼女。
なるほど、通りで美しいわけだ。さらにそれをアレンジして戦闘に持っていくとは。
「凄いな」
「ありがとうございます」
にこやかに言う彼女。
笑顔がまた可愛いな。
ピコン
caprice:凄いだろーwwwもっと誉めやがれくださいwwwwww
これがなければ本当に可愛いのに。
「もう行くか?」
「うーん、もうちょっと慣れさせてください」
「あいよ」
そこから小一時間ほど彼女の狩りを見守った。