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攻撃です!


 

 『じゃあ作戦通りに、行動開始!!』

 

 無線でそう呼び掛けると皆、ばらばらに散らばる。2両以上でいる戦車は無く、別々の方向に向かっている。とはいっても敵陣地と反対側に向かう戦車は居ない。おおよそ、夜営陣地という感じだ。

 

 『よし、私たちも行くよ!ガダル、全速力でお願い!』

 

 『りょーかいっ!』

 

 結局元の号車に戻らなかった偵察メンバーの乗った一号車はかなりの騒音と排気ガスを夜の草原に撒き散らしながら夜営陣地の方向に進んでいく。

 

 『ソロモン、さっきも言ったけど射程に入り次第自由発砲、ガダル、ソロモンが撃ち始めたら周囲を回って!』

 

 エンジンの音で声が殆ど聞こえないため半ば叫ぶように呼び掛ける。

 

 『わかってる!!』

 

 『了解した!!』

 

 それを上回る声で返してくれる二人……頼もしいことで何よりだ。

 

 ─ッドン!!


 少し離れた位置から砲撃音が聞こえる。……もう撃ち始めたか。

 

 『九号車より入電!"敵輸送馬車視認、発砲開始"です!』

 

 『一番槍取られたか!こっちはどう!?』

 

 『射程に入ったよ!ソロモン!』

 

  

 ────ッドン!!!!

 

 返事はさっきよりも大きい砲撃音とシート越しに伝わってくる衝撃で返された。

 

 『再装填!』

 

 薬室を空け次の50㎜砲弾を入れる。

 

 こうしている間にも次々と砲撃音が聞こえ、マリアナがどの号車が発砲を開始したかを伝える。

 

 『七号車も砲撃を開始!これで全車両が砲撃を開始しました!』

 

 『わかった!後は衝突と友軍誤射にだけは気を付けて!ガダル!きっちり前見てよ!』

 

 『わかってる!』

 

 もうわかる人はわかるだろう。私が下した命令は

 "各々陣地周辺で射程に入り次第好きな位置から砲撃開始、止まらずに陣地の周りを回りながら私が止めるまで撃ち続けて"

 逃げられると面倒、なら逃がさないように包囲しながら攻撃すればいい。

 

 『絶対に逃がさないよ、燃料を"創る"の結構疲れるんだから』

 

 一度ソロモンに砲撃を止めてもらい、望遠鏡で陣地を見る。

 

 爆煙と土煙で少し、いやかなり見えづらいが音に驚いて暴れる馬が砲弾の直撃を受け、木っ端微塵になる様子と数秒前まで兵士だっただろうものが上に吹き飛ばさればらばらになる様子は見えた。

 優先目標だったテントや馬車もおおよそ燃えているように見える。

 

 それだけを確認すると、一度車内に戻り

 

 『マリアナ、無線よろしく"全車両砲撃止め、これより一号車が敵陣地に直接乗り込む、残党が逃げ出していないか周囲の確認を頼む"ガダル、進路変更、敵陣地へ!』

 

 『『了解』です!』

 

 そう指示をだし、またすぐに望遠鏡で陣地を見始める。

 

 『……生き残りは見当たらないね。少なくとも立てるヤツは残って無さそう』

 

 望遠鏡の先は簡単に言うと地獄だった。まともな人工物は残っておらず、火の海。

 人のパーツらしき肉がギリギリ原型を留めていたり、輸送品に油でもあったのだろうか全身が燃えている死体もある。

 

 『いくつか聞きたいことがあるし、話せる生き残りが一人は居ると良いけど。別に四肢は無くていいからさ』

 

 別の意味でそこに居るものを心配するランの姿を見れば10人が10人、"頭がおかしい"と言うだろう。でも、この世界は違う、人の命なんて驚くほど軽い、それこそ王都の裏路地に二本も入れば死体を見るくらいには、それに場合によっては自分がその死体になる可能性すらあるのだから笑えない。

 

 生存者を探していると、だんだんと火が近づいてくる。熱風が頬を撫で、火薬と焦げた肉の臭いを運んでくる。けして良い匂いと言えない香りに顔をしかめていると、戦車が止まる。

 

 『隊長!流石にあのなかに進むと蒸し焼きになるぞ!どうする?』

 

 一部だけ拡大して見ていたから余り実感がなかったが夜営陣地は相当に燃えていた。火の海と表現したがそれすらも生ぬるい、炎獄。

 

 『…焼夷弾なんか持たせてたっけ』

 

 弾種の確認をしようとしたが

 

 『……このごろ前線で解放軍が燃える小型の壺を投げてくると聞いた、それに火が移ったのだろう』

 

 ソロモンに答えられる。

 

 『そっか、ありがとう』

 

 火炎瓶なんて造ってたんだ。迂闊に近寄らなくて正解かも、動くオーブンにされるところだった。

 

 『で、どうするんだ?』

 

 『他の号車からも指示を扇ぐ通信が来ていますけど……』

 

 おっと、忘れる所だった。

 

 『消火装置積んでるでしょ?焼け石に水かも知れないけどそれを展開しながら陣地内に侵入、話せそうな生存者が居たら回収していくよ』

 

 『了解です。無線、送ります』

 

 『わかった、カナル!そこの赤いボタンを押してくれ』

 

 『うん、これ?』

 

 思ったより勢いよくでる薬剤の音に少し驚いた。だがその音もすぐにエンジン音に掻き消され、聞こえなくなる。

 

 そして陣地内に侵入し、捜索してみるがそう広くなくすぐに周り終える。

 

 生存者は無し。

 

 『ダメ元とは言えやっぱり居ないなー、撃ち込み過ぎたか』

 

 『二号車から入電です。"生存者一名確保、全身に火傷を負っていますが治療をすれば問題は無し"とのことです』

 

 『お、逃げ出せたヤツ居たんだ、良かった。ちょっと無線機貸してね……"こちら一号車、陣地内に生存者無し、すぐそちらに向かう、場所は?"』

 

 マリアナから無線機を貰い、二号車に呼び掛ける。

 

 『こちら二号車、いえ、こちらが向かいます。東側に来てくださいますか?』

 

 『わかった、待ってる。お手柄だよ、レイテ。丁度生存者が居なくて困ってた所だったんだ。戻ったら何か褒賞を渡すよ、何がいい?』

 

 『お役にたてて何よりです、ラン様。褒賞に関しては申し訳なありませんがお断りさせていただきます。ただ、死に損ないを拾っただけですから』

  

 『そう?ならまた次回の戦果のときに上乗せだね。じゃあその死に損ないを届けてくれない?少し用があるんだ』 

 

 『了解、すぐに向かいます』

   

 

 ……さて、どう話そうか。

 

 

 

 


 

 

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