初任務は草原で
─────アウル平原
ニーア王国の西部にあるこの平原は山脈が南北二方向を走り丁度挟まれる形で存在しそれがおよそ100キロ程続いている。
その地形故にアウルの巨大な道と言われるその平原は現在、王国解放軍の後方物資輸送路の1つであり正統王国軍との最前線であるシュルド川戦線への近道だ。
そして今日も、解放軍の補給部隊が前線へ物資を届けるべく最新鋭のスナイドル銃を持った兵士と共に馬車が走っている。
そして今日はそれを五キロ離れた岩場から見る少女が居た。
『へー、後装式まで造れるようになったんだ。私が置いてきたのライフルマスケットまでだったんだけど……攻略がもっと大変だなー』
そういって目から望遠鏡を外し呟く少女の顔は言葉とは裏腹に何か嬉しいものでも見たかのような楽しそうな表情をしている。そしてそれが消え
『でも、まだ足りないよ。ようやく日清戦争まで進んだくらいじゃあ全然勝てない』
酷く冷たい声で言う。
『ラン様、準備が整いました』
後ろから自らの副官に呼ばれ振り向く、少女の視線の先には直立不動の姿勢でまっすぐこちらを見る同年代の少女と10両のⅢ号戦車が居た。
『了解!ありがとね?レイテ』
『いえ、礼には、次のご命令を』
『そうだね……解放軍もあのペースだと夜営をすることになるはず。山を降りて夜襲をかけるよ』
『正面から行っても勝てると思いますが……』
『まあね、でもこっちが戦車持ってることは知らないはずだし、情報はあんまり与えたくない。療花や刀利に気づかれたら対策されかね無いからね』
少し格好つけて言ってみる。正直な所、別にバレても良かった。ついこの間まで剣と弓が武器だったこの世界で中戦車を撃破する手段なんて限られてるのだから。
そうこうしながら自らの戦車へと上り部隊に命令を下す。
『今回が特務部隊として初めての実戦になる。相手は解放軍の新型と思われる銃を持った補給部隊。でも銃を怖がる必要はないわ。いくら解放軍が新しい銃を持ってこようと私達の戦車の装甲を抜けないのだから』
一人一人ハッチから頭を出している各車の戦車長を見て息を吸い
『これより、敵補給路破壊作戦を行う!今から山を下り敵補給部隊後方から夜襲をかけるぞ!戦車前進!』
号令と共に全車両が一斉に進みだす。
この世界では本来ありえない排気ガスの匂いとけたたましいエンジン音が岩場に響く。
ここで全速力で駆け抜けたりしたら格好いいのだろうが不整地地帯なのとあまり音を出して見つかってはいけないのでかなりの低速だった。
『……格好つかないなぁ、やっぱり今すぐ襲撃するべきだったか』
『ラン様……』
呆れたようにこちらを見てくるレイテの目が痛かった。
大事だと思うけどなぁ、初陣だし。