大野
八重は部活を終えて学校を出た。
八重の所属する音楽部は、吹奏楽部ほどの規模も部員も持ち合わせておらず、大会などとは無縁だ。しかし地域からの評判は良く、祭りやイベントの催しとして招待されることがしばしばある。本番、というのはいわゆるそのイベントでの発表を示すことになるが、2年のリーダーである八重には責任も発生するので練習方法についての思考を巡らせていた。
「矢田たち、まだいたの」
矢田と大野が、未だに校門の前に座り込んで話していた。矢田が何やら嬉しそうに
「あのね!大野がね!」
「やめろよ!」
矢田を静止させようとする大野だったが、負けたようだ。
「大野が!八重と話してみたいって言ったの!」
なんとまあ
「違うし!」
顔を真っ赤にした大野はちょっと可愛かった。同時に、悪い奴じゃないということが痛いほど伝わってきた。
「やっと思いが伝わったかぁ〜」
煽るようにして大野を小突いた。
「だから八重が部活終わったら一緒に家来るように誘おうって待ってたんだからね!」
丁寧な矢田の説明に頬が緩んだ。職員室で宮村と話したことなど、とうに忘れていた。
そうして三人は、いずれ大人になってもつるむ仲になるのだが、そのことはまだ誰も知らない。
結局、大野の家にお邪魔して夜になるまでおしゃべりをしていた。新しいクラスメイトのこと、大野には幼馴染の彼氏がいること、八重と大野の間にあった壁は本当に無益だったことを。
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