砂漠のディスカバリー
空は快晴。うんざりするほどの快晴。
俺は重たい足を引きずり、すっかり砂漠となってしまったこの街を歩く。
温暖化の行き着く先は砂漠。百年ほど前はきらびやかな場所だったというこの街は、今やすっかり砂に浸食された廃墟。俺の仕事はこの廃墟から発掘をすることだ。
砂漠の下には、まだ栄華を極めていた頃のなごりが埋もれているという。俺はそれを一人で発掘して回っている。このあたりはその時代には倉庫街だったという。まれに大当たりをひくこともある。水だったり燃料だったり、また今じゃお目にかかれない娯楽本みたいなのが出てきたり。意外と高値で取引されるんだ。
ざく、ざく、ざく。今日はこのあたりを掘り返してみるか。俺はそこに持ってきたテントを立てた。
酸性雨、という言葉をご存じだろうか。強酸性の雨は肌に当たれば大変なことになる。だから、こんなふうに隠れる場所のないところで発掘をするときは必ず雨に負けない専用のテントを準備する。
「――――よし!」
俺は荷物の中からスコップをとりだした。ひとすくいずつ慎重に掘り進めていく。あたりは砂だから、掘ること自体はそんなに力は必要ない。ただし、掘った端から砂が崩れてくるので、周りを補強しながら進めていくのだ。
こつん!
今日はあたりだ! そんなに掘り進めないうちに何かが現れる。ペットボトルのかたまりだ。どうやら中身は飲料水らしい。もちろんこのまま飲むことは出来ないが、水は貴重だ。しっかりビニールで梱包されているので中身は比較的無事。うまくいけば高値がつく。
これは、もっと掘り進めばすごい収穫があるんじゃあないだろうか。俺は夢中になって掘り続けた。
儲かったら何に使おうか。息子に新しい靴も買ってやりたい。うまい店に食事に行くのもいい。
そんなことを夢見ながら掘り進めていって――――俺は大失態に気がついた。
深く掘りすぎたのだ。
これは一度埋もれないように気をつけて穴から上がらなきゃ。用意してある縄ばしごは――――しまった! うかれすぎていて縄ばしごを準備していない!
これは埋もれないように気をつけながら少しずつ這い上がるしかないか、そう考えていたときだった。
ぽつり、ぽつり。
水の気配がした。
しまった! 時雨が降ってきた!
テントは穴の外、ここで溺れることはないが強酸性の雨で体中やけどになることは想像に難くない。俺は必死に雨をよけようともがき――――
目が覚めた。目の前には電気スタンドのあかりにぼんやりと映し出されるなじみのある天井がみえる。
東京は砂漠化していないし、俺は遺跡発掘のインディ・ジョーンズどころかしがない社畜のサラリーマンだ。ちっともSFとは関係のない、平々凡々な現実に思わずほっと安堵のため息が漏れた。
「なんだ、夢か――――うわあっ!」
だが次の瞬間、夢と同じように顔に水が降ってきているのに驚いて跳ね起きた。
「きゃあああっ! 敦君、ごめん!」
すぐ隣で妻が悲鳴を上げる。そして俺はすぐに夢で雨に晒された理由を悟った。
・息子の良太(生後半年)と添い寝をしながら寝落ちしてしまった俺
・気がついた妻が良太をベビーベッドに移動させに来る
・あら、おしめが汚れてるわね~。いいわ、このまま替えてしまいましょう。
・妻、おしめを外して交換しようとする
・おしめを開けた途端に気持ちが良くなったのか、良太噴水を噴き上げる
・横に寝ていた俺、被害甚大←イマココ
強酸性の雨ではなかったが、やはり禁断の時雨に晒されてしまった俺はあきらめて風呂場へと直行したのだった。
「即興小説トレーニング」様に匿名で同一内容のものを投稿しております。
こちらに転載しようと思ってすっかり失念しておりました。