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優しさと欲

作者: 天城恭助

暇つぶしに書きました。

持論のような何かです。

できたら批判的に見てください。

 僕には不良の友人がいる。正確には悪ぶっているだけだけど。

 髪を金髪に染め、目つきは鋭い。顔を見れば誰もがひと目見て、良い人だと思う奴はいないだろう。しかし、服装を見ると一切の乱れもない。そこに気付く人は割と少ない。

 彼は実際のところ不良どころか校則違反すらしていない。むしろ、普通の生徒より真面目で素行が良い。成績も悪くない。道行く人が困っていれば助けずにはいられないそんな性格だ。彼を良く知る人は誰もが良い人と思うぐらいに出来た人間だ。僕が彼をよく知らない人にこの話をすると大抵の人は信じてくれない。本当は彼に口止めされているがどうせ信じる人はいないだろうと時々口にしている。

 ある時、彼はボランティアに参加しないかと誘われていた。

 何も知らない人が彼に話しかけるのは考えづらい。恐らく、僕の話が信じられ始めたのだろう。僕は、彼ならボランティアに参加するだろうと思った。しかし、彼は断った。理由はこうだ。

「俺は人助けが大嫌いなんだよ。特にボランティアには反吐が出る」

 そう吐き捨てた。

 僕が知る限り、彼は困っている人を放っては置けない性質だ。気遣わずにはいられないと言ってもいい。僕はそれを人にバレたくないから不良の真似事をしているのだと思った。そうではないのだろうか? 気になったので調べることにした。

 帰り道、彼を追うと彼の人柄が見えてくる。老人が重たい荷物を持っていれば手伝うし、子供がボールを木に引っ掛けていたら取りに登るし、捨て犬や捨て猫がいたら里親探しに奔走する。やはり、僕の思った通りの人間だと思うけどどうしてボランティアは断ったのかがよくわからなかった。

「おい」

「うぉお!」

 背後から声が掛けられたと思ったら、彼だった。どうやら尾行していたのがバレたようだ。

「何してんだよ、お前?」

「僕の見る限り、君は困っている人を放って置けない性質だよね?」

「いきなりなんだよ?」

 僕は彼を注視した。真剣にその眼差しを見つめた。

「あまりこっちを見るんじゃない。質問には答える」

 ひと呼吸置く。

「……お前の言うとおりかもな」

 認めたくなさそうな複雑そうな顔をしながら答えた。

「なのに、どうしてボランティアを断ったのかなと疑問に思ったから知りたかったのさ」

「聞いていたのか。なら、聞いていたと思うがあの理由は嘘じゃないぞ」

「どう見ても人助けが好きな人にしか見えなかったけど?」

「……お前は、情けは人の為ならずってことわざを知っているか?」

 情けは人のためではなく、いずれは巡って自分に返ってくるのであるから、誰にでも親切にしておいた方が良いと言った意味合いが正しい。ただ、このことわざは誤用されることも多い。情けが人のためにならないからしてはならないといった意味に捉えている人も少なくないらしい。

「それは正しい意味で? それとも間違った意味で?」

「つまりは知っているんだな。俺はそのことわざ通りにしているだけだ」

 僕の質問に困らないということは、正しい意味で言っているようだ。

「でもそれってボランティアを断る理由にはなってなくない?」

「ボランティアは無償で行う奉仕活動だ。利益にならん」

「それは君がやっていることと何が違うんだ?」

「そ、それは……」

「別に責めているわけじゃなくて、僕の知的好奇心なんだ。」

「わかっている。自分でもわかっていないところもあるから整理している」

 彼が言おうとしていることは恐らく理解できない。それと同時に僕がそれをどうして知りたいのかも本当はよくわかっていない。便宜的に知的好奇心とは言ったが、実際のところ別段知りたいと思ったわけでもない。知りたいというよりは気になっただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 自分の考えを整理していると彼の整理がついたようだ。

「まず前提として俺は世の中には良い人は存在しないと思っている」

 さて、どうだろう? と言ってみたいが彼の主観の話だから邪魔はしない。

「俺自身も良い人だと思いたくないんだ。理由は……俺にもよくわからない」

「なるほど。しかし、その前提には意味があったのかな?」

「自分で整理がついたと思っていても、実は上手くいってないもんだろ。言葉に出してようやく理解できることもある」

 確かに、その通りだ。

「もういいだろ。俺は帰るぞ」

「ちょっと待って」

 まだ、この話は終わっていない。

「僕はその前提を聞いて、君は周りと同じようにありたいと思っていると推測したのだけどどうだろう?」

「まだ続けるのかよ」

「まぁ、いいじゃないか。どうせ人助けか、勉強ぐらいにしか時間を使わないだろ?」

「『ぐらい』とか言うな」

「言葉の綾だ。それで、僕の推測はどう思う?」

「全くない、とは言えない。けど、それとは別物だ」

「ふむ、そうか。なら、君にとって善人――つまり良い人ってどんな人を指すんだ?」

「無償で他人を助ける人? かな」

「その通りだ」

「な、何がだ?」

「この世に無償で他人を助ける人は絶対に存在しない。仮に居たとしてもそれは善意からくるものではなく、気紛れぐらいだ」

「それはおかしくないか?」

「おかしくない。人は――人に限らずあらゆる生物は欲望を満たすものだ。そして、人の欲というのは動物にはない三大欲求以外の欲が色々ある。その中のどれかを満たすために他人を助けるんだ」

「そうだとしても、人の役に立てるから嬉しいっていうのはあるだろ?」

「それも一つの欲だろ? 自己陶酔するようなものだ」

「それを言ったら、なんでも欲になってしまう」

「その通り。僕は何でも欲で回っていると思っているよ。君も心の中ではわかっているんだよ。綺麗事を並べて人助けしているだけだって」

「そんなことはない!」

「そんなことはあるから、あんな前提を言ったのだと僕は推測したよ」

「知るか、そんなこと。帰る!」

 怒らせてしまったようだ。

 僕が今まで言ってきたのはただの偏見だ。証拠もなければ統計をとったわけでもない。それでもそう思わずにはいられない。生き物は生き物である以上、欲を満たすことしか考えてはいない。人は目の前の欲を抑え本当に欲するものを手に入れることができるだけだ。人助けとはその形の一つ。仮に本当の本物の感情だとしても、それは欲の一部なのだと思う。それを繕うようにまるで綺麗なものであるかのように、素晴らしいことであるように語ることがどこか腹立たしく見えるのかもしれない。

 ただ、この考察には何の価値もない。僕が腹立たしく思おうと思うまいと世の中にはそんなことをどうとも思わない。

 こうして、意味のないことを考えていること自体がまさに自分の欲の一部だとも思う。他人に対して何の影響もない辺り自慰行為と何ら変わりはない。

 だから、無欲であると言うことも欲を悪だと断じるのも許せないのだろう。


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