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ここ最近の忙しさは半端じゃなかった。
大学の講義が恐ろしいほど詰まっていて、ここ数週間ほど例の路地裏に足を運んでいない。
そのせいもあるか、ストレスな溜まってしまい、八つ当たりが激しかった。
二日に一回は獲物を見つけて、ストレスを発散でもしないと、本当に殺人事件を起こしそうで(劣等種を除く多種類)心配だ。
しかし、単位を無事に取ることができ、久しぶりに路地裏に足を運ぶことの出来る今日は、不思議と機嫌が良く感じる。
空は俺の心境を映すかのような真っ青な晴天だ。
俺は人の目をはばかりながら、路地裏にコソリと入る。
しばらく歩いて行くと、人が誰も通らなくなり、俺が通り過ぎるゴミ溜まりからは、ゴソゴソとビニール袋と何かがこすれる音と、小さな息の音がする。
普段の俺ならば、ちょうど良いと思い誘い出していたかも知れないが、今はそんなことに構っていられるほど暇じゃない。
ようやく、広い場所に出るとそこには久しぶりに見る風景が広がった。
しかし、見慣れたはずの風景には一つ足りない物があった。
空まで高く伸びた廃墟のビル。
錆びてボロボロになっている電柱。
いつからあるのかわからないゴミの山。
そして、澄ました顔をしたあいつがダンボールの中に入っていなかった。
「どっか出掛けたのか?」
そう思った瞬間、俺の鼻に嗅ぎなれた臭いがまとわりついた。
どこかで虐殺をしているやつがいるのだろうか。
そう考えていたのだが、あいつが住んでいたダンボールは横倒しに倒れており、そのそばには血がこびりついていた。
おそらく、臭いからして真新しいのだろう。
血のついたコンクリートの地面を触るとまだ濡れて、ほのかに暖かい。
そして、点々と血が続いていたが、途中でそれは途切れている。
「……まさか…な」
頭の中に嫌な想像が浮かぶ。
それを認めないかのように、俺は辺りを見渡した。
なんとか、あいつが無事だという確信を得るためにした行為だったのだが、それが幸なのか凶なのか、ピンク色のが丁寧にダンボールのそばに落ちていた。
それを触るとまだほんの少しだけ暖かみをおびている。
俺は舌打ちをすると、頭をあいつの血が付いていない方の手で掻きむしった。
ココで考えていても時間の無駄だ。
おそらく、あいつは生きているだろう。
そう自分に言い聞かせると、俺は地面に点々とついた血を追った。
少し歩くと、血は廃墟のビルの前で止まった。
「……ココなのか?」
止まったと思っていた血はビルの中に先ほどより、少ないが確実に地面に小さな小さな水たまりを作っていた。
俺はポッケに隠し持っている黒い塊を利き手である左手に乗せると、急ぎ足に、しかし足音を鳴らさぬように血を追いかけた。