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チョコレートを口の中で転がしてる時のドロドロ感と喉が乾くような甘み。水を欲するのに、口の中にはチョコレートしか入っていない。

そんな恋。

小さくため息をついて、自分はこんなに詩人めいた事を考える奴なのかと気づきもう一度ため息をついた。

私のこの気持ちは一方的なのに、最近どうも抑え難くなってきている。

彼を見るたびに抱きついてしまいたい衝動に駆られてしまう。

もちろん、そんな事をしてしまえば彼は私に一欠片の興味もなくなりココに来る事は二度とないだろう。それでも私の理性はミシミシと音を立てて、確実に外れようとしている。

今日の空は百人中百人が、今日は晴天だ!、と言うほど雲一つない青々とした眩しすぎる空が広がっている。

それを見て私はまた一つ、ため息をついた。

ここ最近、と言っても二週間ほどだが彼の姿を見ていない。

彼が来るのは不定期なのだから、当然なのだけれどそれでもやはり寂しい気はする。


「よぉ」


私に声をかけたのは、黄色いフワフワした毛並みで口を三日月形に開いている。

しかし、彼は私の待ち焦がれていた人では無かった。

声をかけられた瞬間にそれに気づき、逃げ出そうとし、背を向けた瞬間足の膝辺りが一気に熱くなり痛みが湧き出してきた。

思わずバランスを崩し、その場に滑るようにして倒れ込んだ。

転んだ衝撃で頬を地面に擦る。しかし、その痛みよりも膝の痛みの方がつよく、その場で足を抱えてうずくまる。

逃げなきゃ行けないとは分かっていても、膝から流れる血と痛みがそれを阻止する。

振り返ると、笑顔のままあいつが近づいてきた。

逃げ出そうと、体を起こそうとすると腕を掴まれてしまい、私はその場にもう一度倒れこんだ。


「……何よ」


私がそういうと目の前の男はニヤリと頬をあげた。

その顔が酷く恐ろしく、狂気じみた笑顔で思わず腰をぬかしてしまいそうになってしまった。


「みぃつけた」


「ーーーえ?」


肩を抑えられたと思った瞬間、左目に異物感を感じ、それと同時に物凄い激痛が走った。

あまりの痛みに後ろにのけぞり、仰向けに倒れ左目を両手で抑えた。


「なぁっ!!?

……ふっ…ぐぅ……」


目から流れる暖かい液体は手を伝って地面に落ちた。

その場で悶絶して数分、何が起こったのか把握する余裕が少しだけ生まれたので、うつ伏せになり体を起こし左手で目を抑えながら右腕で上半身を支え、男を睨むようにして見る。

ニヤニヤと楽しそうに嗤う男の手を見ると、手は血に染まり、地面に小さな血溜まりを作っている。

思わず地面を見ると、左手のすぐ下に血が溜まっていた。

どうりで痛いはずだ。

この状況の中で、冷静に考えられる自分に驚きを隠せない。

男は、目をやられた事なのかと勘違いしたのか一層笑顔になった。

男は私の顔の目の前でしゃがむと私の左耳を掴み顔をあげさせた。


「お前の目ん中、暖かったぞ。

柔らかくてよ、目玉は抜けなかったが失明は確実だな。

良かったな、左のおめめの最後の景色が俺の顔で」


そういうと、ゲラゲラと声をあげて笑った。

痛みで息をするのも辛く、自分の息が荒くなってるのがわかった。

こんな奴に殺されるのか。


「俺はよ、良しぃを殺すのが趣味なんだよ。

汚い声を出さないし」


顔をあげさせたまま、頬を思いっきり殴る。


「あいつらなんかよりも、断然綺麗じゃないか」


もう一度頬を殴る。

その時に、口内を切ってしまったのか口の中に血の味が広がった。


「……中々の変態主義なのね」


せめてもの抵抗と思い、男を睨む。

すると、私の表情を見て男がいっそう笑みを強く浮かべた。


「そうそう、それだよ。

劣等種の奴らは命乞いしか出来ないからつまんねぇんだよ」


そういうと、私を殴った手の先からカチャリという小さな金属音がなった。

殺されるんだ、と思い私は覚悟を決め目を閉じた。

こんなところで、こんな奴に殺されるのは酷く屈辱でしかないけど、仕方がない。

こうなってしまったのも、何かの運命だろう。

次に来る痛みを待っているが、いつまでたっても痛みは来ることが無く薄っすらと潰されていない方の目を開ける。

その瞬間、男が掴んでいた方の耳が一気に切られる。

構えていない時に痛みが来たからか、あまりの痛さに頭の中が一瞬真っ白になる。

そして、耳があったはずの方がジンジンと熱くなり激しい痛みがおそった。

耐えようとして、奥歯を食いしばり土を強く握る。

呼吸をするたびに声が少し漏れてしまいまだ機能しているほうの目からは、自然と涙が溢れてきた。


「これから起きる事はちゃんと自分の開いているほうの目で見なきゃだろ?」


同意を求めるように、私の返り血を浴びた男が汚い笑顔で問いかける。

私は今はそれどころでは無く、ただ睨むような視線を送り続けていると、男が立ち上がった。

そして、足で私の顔を強く踏みつける。


「ゔぁ!!」


「お返事も出来なくなりましたか?

喉はとってねぇぞ?」


ぐりぐりと踏みしめられ、土が口の中に入り潰されたほうを下にされているので、土に当たるたび痛む。

男は左耳があった場所を開くように靴のかかとで何度も何度も踏みつける。

その度に痛みが強くなり、耳があった場所からは血が流れ出た。


「ほら、聞いてんだよ。

早く答えねぇと今度は尻尾がバイバイしちまうぞ」


「……ったしは……ぅあっ!」


喋ろうとすると強く踏みつけられた。

そして、足に体重をかけるとミシミシと嫌な音がする気がする。


「口ごたえしようと思うなよ」


「っはぁ……はぁ……。

そう……ね。見なきゃ……ね」


満足したのか足を退けると、私に向かって何かを言い続ける。

しかし、踏み潰された衝撃で頭がくらくらし、耳の中に土が入ったのか男の声が上手く聞こえない。

あれ……?

なんか……目の前が……。

あぁ……死ねるのか。

……よかった。




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