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「っくしゅん!」
花粉のせいだろうか、それとも風邪をひいたのだろうか、クシャミが出る。
とは言ってもそんなに頻繁に出るわけではなく、まだ一、二回しか出ていないのだが。
そんな事を考えていると黄色い彼がいつものようにこちらに歩いてくる姿が見えた。
風が吹くたびに、どこからきたのか分からない桜の花びらが彼の後ろで散っている。
ほんの少しの時間だったが、彼と桜はよく似合う気がした。
「よぉ」
「桜の季節だというのに、桜を見に来ないでダンボールのミカンでも見に来たのかしら」
私がそう言うと、彼はダンボールのおもて面に書いてあるオレンジの字でミカンと大きく書いてある文字を見つめた。
「ミカンはミカンでも絵すら書いてないミカンは見てて面白くないな」
彼は無機質なダンボールから目を離すと地面に落ちているどこからか舞い込んできた桜の花びらを見つめる。
「なら、桜でも見に行ってきたら?」
「桜ねぇ…」
顎に手を添えて悩むそぶりを見せるが、その顔はいつものにやけ顔なのでおそらく、たいして悩んでもいないのだろう。
「いや、いいや。
俺に桜は似合わないしな」
彼は片手をヒラヒラと揺らすと苦笑いを浮かべた。
珍しく今日はにやけ顔を崩した。
明日雨でも降るのだろうか。
「あぁ、でも。
お前は桜に似てるよな」
「私が儚い存在に見えるとでも言いたいの?」
「いや、体の色だよ。
お前桜色だろ」
彼の言葉に私は自身の体を思わず眺めた。
自分の体をこんなにまじまじと見たのは久しぶりだけれど、確かに桜色をしている。
「……それもそうね。
気にした事がなかったわ」
彼はふっ、と頬を緩めると穏やかな笑みを浮かべる。
今日は彼の表情がクルクルと変わる。
本当に明日何かおこるんじゃあないかと、正直焦る。
しかし、それも一瞬の出来事で私が瞬きをした後にはいつもの胡散臭い笑みに戻っていた。
「今日は花見じゃあなく、箱見でもするとするか」
「箱はミカンしか書いていないわよ?」
「……お前は桜色だろ?」
「人をジロジロ見ないでくれる?」
つい、皮肉で返したものの体中は火がでそうなほど熱い。
頬も熱くなっているのが、一目見ただけでわかるかもしれない。
チラリと横目で彼を見ると、その場に座り空を見上げていた。
私のことなど視界に入っていないようだ。
安心した自分と、気づいてもらえずさみしがっている自分がいるが、気持ちを振り切るように私も真っ青な空を見上げた。