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6

新しいダンボールを求めてフラフラと路地裏を歩く。

街中に出た方が絶対にたくさんダンボールが落ちているのだろうが、そこには行けない。

路地裏も相当危険なはずだ。

辺りを見回していつもより耳を立て、神経を研ぎ澄まさせる。

バレる前に逃げるためだ。

薄暗くゴミの匂いと血の匂いがしている路地裏をしばらく歩いていると、前方から間抜けな声とデタラメな音程の歌が聞こえる。

視線を向けると、灰色のゴミ箱の上に二、三匹しぃ族が座っていた。

この喋り方とこの尋常じゃない臭さからして、しぃ族の劣等種とも呼ばれるアフォしぃなのだろう。


「はにゃ?」


私とよく似た顔でこちらを振り向く。

エメラルド色の綺麗な瞳。

体は、残念ながら汚れているしお世辞にも体型は三匹とも良いとは言えない。

私の顔を見た一匹が息を漏らして笑いはじめた。


「ちょっと、見てよー。

アレ、ホッペに模様が無い奇形種じゃない?」


「本当だ!!

奇形種は、いなくなるのが一番なのね!」


「どうりで臭いと思ったらー」


しぃ族にはだいたいほっぺに三本の線が入り混じったような模様がついているのだが、私は生まれつきほっぺについていないのだ。

それのせいか、親にも捨てられなんとか自力でここまで生きてきた。


「痛っ!」


顔に向かって少し大きめの石を投げられた。

右目の上からは血がポタリと流れ落ちる。

かすった程度なのか、傷はヒリヒリと痛むだけであまり強い痛みではなかった。


「奇形種は、死んじゃえ!」


「はにゃーん。

奇形種がいなくなったら、平和なのねー」


ケラケラと甲高い笑い声が響く。

私は自分の右目の上をなぞるように触った。

前を向いて三匹の方を見ると、一匹がどこからとってきたのか包丁を持っていた。

それも、光が鈍くなった包丁を。


「これで殺しちゃえば平和なのね!」


「頑張れ、シィナー」


「はやく殺しちゃってよ」


身の危険を感じ、逃げ出そうと三匹に背を向けた時だった。

いきなり笑い声が消えた。

何事かと思い振り向くと、包丁を持っていたシィナという子が踏み潰され他の二匹は首元を白い毛並みの腕で巻きつけられていた。

思わず体を強張せる。

そこにいたのはまぎれもなく。


「やれやれ。

糞虫のくせに」


私たちしぃ族(主にアフォしぃ)を虐殺するために生きているような、虐殺者が立っていた。


「人殺しをするなんて、何億年も早いモナ。

もっと、お前らが進化してからそういうことはしろモナ」


ニヤニヤと笑った顔はモナー族で、温厚そうな笑みを浮かべている。

その温厚そうな笑顔が虐殺なんて関係なさそうで逆に怖い。


「さてと、こんな切れない包丁で突き刺しても意味ないモナよ?」


「はぎゃぁっ!!?」


男は、右手に持っていた包丁を右腕に抱えているしぃ族の子の首に指す。

息が漏れているのか、声を出そうとヒューヒューと掠れた音を出している。

右腕に抱えていた子を地面に放り投げると無表情でこちらを向いた。


「お前、良しぃモナか?」


他国では、しぃ族はほぼ一種類で亜種がいるだけなのだが、この国ではしぃ族は劣等種としてアフォしぃ、優等種として良しぃに分けられている。


「さ……さぁ?

あなたがよくしぃ族を殺しているならわかるでしょう?」


あぁ、もう、また悪い癖が。

そう思っていると、目の前の男は返り血を浴びた顔でニコリと笑った。


「逃げたほうがいいモナ。

最近は、良しぃを狙って虐殺する変わり者も増えているモナから」


「え……?」


「はやく逃げるモナ。

もうじきナタの友達もくるモナよ?」


「……し、失礼します」


震える体を叩き起こして背を向けて走り出した。

後ろから二匹の助けを求める声が聞こえたが私は振り返る事無く走った。

久しぶりに走ったせいか、途中で息が上がり足もヨタヨタとおぼつかない。


「っはぁ…はぁっ…」


私もたいがいアフォしぃと同じよね。

立っているのも辛くなり、その場に倒れるように座り込む。

ここは路地裏でも人通りの少ないところだから、虐殺者にあうこともないだろう。


「……」


彼女達を犠牲にして逃げたんだもん。

こんな自分に笑いたくなったが、笑顔なんてとうの昔に捨ててしまったからうまく笑えない。

むしろ、忘れたはずの涙が少しずつ私の頬を濡らした。



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